第10話『初戦闘は突然』
背の低いホールを出ると、目的地へ向けて再び歩き出した。なんとか避難所の近くへ行きたいが、さてどこへ向かうべきか。
ボーッと地図を眺めていると、目印になりそうな「シャンザンギルド本部」というそれなりに大きな建物を見つけた。
この建物は長方形に区割りされているのだが、その長辺に沿って進めば商店と鍛冶屋のある通りに近付けるはずだ。
「よし、じゃあ長方形の大きな建物を探そう」
シャンザンギルド本部を探してしばらく歩いていると、十字路に当たった。ここらの地域は比較的小さな建物が多く、一際澱んだ空が広く見える。
地図と見比べても、それらしい目印がないのでここは違うのかもしれない。
ふと聞きなれない音が周囲に響いた。かなり探索をしてきたが、どこも寂しい空気が漂っているだけで、特に気になるような音はなかったはずだ。
しかし、音は徐々に大きくなっていく。
息を殺して探るように耳を傾けると、私から見て右側の道の向こうから、ガシャガシャと喧しい音が聞こえてきた。
まるで複数ある足を忙しなく動かしているようだ。急いで朽ちた構造物の後ろに隠れると、徐々にその姿が見えてきた。
その姿は一見配達ロボのように見えるが、脚部が四脚ではなく六脚もある異形だった。それぞれの足が地面を叩く度に地面や関節からガシャガシャと鳴っていたようだ。
頭部と思われる部分には謎の直方体形がついていて、そこから赤と青の光を交互に、そして扇状に放っている。範囲はかなり広く、私が隠れている物を何度も掠っている。
どう見ても生物には見えない。恐らく自動駆動するロボットだろう。しかし、こんなのがいる街を歩き回っていたのか……。
思わず鑑定した。
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▼基礎情報▼
♦名称:サンクティン防衛機構・警邏タイプ
♦属性:機械
♦レベル:25
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分かるのはこんなところか。私のステータス画面とはほんの少しだけ違うな。名前が名称になっている。これはコイツが個人識別を必要としないからだろうか?
まあ、そんなことよりもレベル差が露骨すぎる。25だと?私はまだ1だ……、くそ、どう足掻いても勝てそうにない。
赤と青の光が規則的に地面を薙ぎながらこちらへ近付いてくる中、私は瓦礫の影に身を押し込めたまま、動けば終わるという確信にも似た直感に従ってじっとその場に留まり続けた。
アイツが無害か有害かは分からないが、あの光に探知されたら絶対に何か起きる。
光はゆっくりとこちらへ迫り、やがて隠れ場所の表面でぴたりと止まる。
その瞬間、先ほどまで騒がしく鳴り続けていた六脚の駆動音が嘘のように消え、代わりに低く擦れるような電子音と共に、
「探索対象、未確定。再走査を開始」
という無機質な音声が周囲に響き渡った。
喋っただと!?嫌な感覚がどんどんと湧き上がってくる。同じ機械であるはずなのに、まるで友好的ではない様子だ。
直後、頭部の直方体から放たれていた光は赤と青の交互点滅からゆっくりと紫へと変色し、照射の仕方も扇状の粗いスキャンから一点に収束する細い線状へと変化していく。
まるで表面を舐め上げるように地面から壁面へと移動していくその様子から、検知精度が一段階引き上げられたことがはっきりと理解できた。
くそ、なんで分かったんだ?私の体は奴の視界には映っていなかったはずだ……。私の知らない何かを利用して、私の気配を察知したのだろうか。
私は逃げるべきかどうかの判断すら躊躇い、身体の制御に対する不安と先日までの転倒の記憶に引きずられながら、無理に動くことのリスクとこのまま留まることの危険性の間で思考を完全に行き詰まらせる。
大地魔法を使えばあるいは……、いや、MP5でできることなんてたかが知れてるだろう。グランカルドスが研鑽を忘れるなって言ってたけど、今まさにそれを実感しているよ。使えて一度だろう。
私が姿を見せれば、少なくともこの喧しい光は収まるだろう。ただし、その後のことは全くわからない。機械だと確認してそのまま終わるかもしれないし、突然攻撃されて粉々になるかもしれない。
私があれこれ悩んでいる中で、
「異常検知、構造劣化個体の座標取得」
という新たな音声が流れた瞬間、私はそれが自分に向けられた危険信号だと確信した。
思わず一瞬だけ身を強張らせ、奴の次の動きに備えて背嚢から鉄パイプを取り出し握った。何かあれば、あの鉄塊野郎に叩き込むのだ。
壁に僅かに空いた隙間から左目を覗かせると、六脚の機体がこちらへ向きを変え、機体の一部を変形させているのに気がついた。
変形した内部から伸びてきたアームの先端には、四本の鋭い鉤爪がついている。もし仮にあのアームに握られたなら、きっと私の体は無惨に引きちぎられてしまうだろう。
鉤爪の先が私の隠れている構造物の表面に触れる。ガリ、と削るような音が響いた。こいつはいったい何をしているのだろうか?
「資源回収、開始」
という宣言が響くと、アームがあまりにも頼りない壁を貫いて私に迫る。その鋭い金属の光沢に呆け、何もすることができなかった。ここにきて、ようやくこの場に留まること自体が致命的な選択であると悟った。
アームが私の眼前で急停止すると、再び赤と青の光が煌めき、私を下から上へと照らしていく。
これで死ぬのか?これで?あんな分不相応な望みを声高らかに宣言しながら、こんなよく分からない機械に壊されるのか?リスポーンするから構わない?いや、大いに構うだろう。
どうにかして逃げるしかない。だが、問題はそこではなかった。
動けるのか。
その一点に、すべてがかかっている。
喧しい光が途切れると、アームが再び天高く振り上げられる。振り下ろされた鉤爪が私の体を刺し貫くよりも早く、反射的に身体を引いた。
その瞬間、凄まじい勢いで迫った鉤爪は、地面を穿ち砂煙を撒き散らす。足元が粉々に崩れたが、今が好機である。
辺りに広がった砂煙を突っ切り、アームを伸ばしきって無防備になった機械の側面に躍り出る。
「っ……!」
左手に握り締めた鉄パイプを頭部目掛けて振り下ろすと、その勢いに任せた振り下ろしは第二のアームに防がれた。
「まだあるのか、それ……」
私の攻撃を弾いた勢いのまま鉄パイプを吹き飛ばし、逆に無防備になった私にアームを横凪に叩きつける。
衝撃と同時に、背後にいるビルの壁面に叩きつけられた。朽ちかけだった外壁は面白いように崩れ、私を巻き込みながら粉々になっていく。
「う、ぐう……」
どこかのパーツが外れるような感触が伝わるが、それを確認している余裕はない。すぐさま体勢を立て直そうとするが、思うように力が入らず、腕をつく動作すらぎこちなく遅れる。
その間にも、背後では機械の駆動音が再び立ち上がる。
先ほどまでの静寂が嘘のように、ガシャガシャとした音が距離を詰めてくる。
「対象への追撃を開始」
まずい。
私は半ば転がるようにして前へ進み、瓦礫の間を抜けるようにして必死に身体を動かすが、速度は遅く、まともに走れているとは到底言えない。
それでも止まれば終わるという確信だけが、無理矢理にでも身体を前へと押し出していた。
背後で何かが弾ける音がする。
振り返る余裕はないが、おそらくさっきまで隠れていた場所が完全に破壊されたのだろう。このままでは、奴にスクラップにされるのがオチだ。
次に来るのは、間違いなく私だ。
視界の先に、わずかに開けた通路が見えた。建物の外壁が崩れ、細い隙間のようになっている場所だ。どうにかすれば通れそうに見えなくもない。
「通れるか……?」
考えるより先に、身体をねじ込む。
肩が引っかかり、鈍い音が鳴るが、そのまま強引に押し込むと、外装の一部が削れる感触と引き換えに、なんとか隙間の中へと滑り込むことができた。
そのままずっと走り続け、反対の道路を横断し、別のビルの中に入った。
直後、背後で金属がぶつかる重い音が響いた。アイツ、大暴れしているようだ。
六脚の機体でその隙間に侵入しようとしているのだろうが、幅が足りないのか、苛立つように外壁を削る音だけが響き続ける。
私はその場でしばらく動けずにいた。
逃げ切れたのか、それとも一時的に距離を取れただけなのか、その判断すらできないまま、ただ崩れた壁の向こうから聞こえてくる金属音に耳を澄ませる。
やがて、少しずつ鈍い重低音が小さくなっていき、その音が遠ざかっていく。完全に諦めたのか、それとも別のルートを探しに行ったのかは分からない。
だが少なくとも、今は生き延びた。
「……はぁ」
思わず漏れた声は、どこか実感の伴わないものだった。自分が今、何をどうやって生き延びたのかすら曖昧なまま、私はゆっくりと壁にもたれかかる。
この間に体の状態のチェックをしておこう。ボンヤリとした意識のまま、体の隅々まで確認していく。
目立つところでいうと、左手がかなりボロボロになってしまった。まだ機能しているが、これ以上ダメージを受けたら今度こそ砕け散りそうだ。
また、全体的に右半身と背部のダメージが深刻で、右太腿には大部分に跨る大きな亀裂が入ってしまっている。我を忘れて逃げていたので気が付かなかったが、これはかなりまずい。
そして地味に痛いのが、鉄パイプを紛失したことだろうか。あれでも一応は武器とカテゴライズしていたので、今は無手の状態だと言える。このままだと、例え弱い相手と戦闘になったとしても、勝てる見込みが薄いだろう。
背負っていた背嚢には大小様々な穴がポコポコと空いていて、投擲に使えると考えて入れておいたいくつかの瓦礫が消えていた。
これももう使えそうにない……。はあ。まあいつか再利用できるかもしれないし、インベントリにしまっておこう。
背嚢を入れるのと同時に、とりあえずインベントリに放り込んだアイテムの中から、修復に使えそうなものを出せるだけだし、ボロボロの体の修復に使っていく。
結果、内部の重要な箇所の修復はかなりできたが、表面の装甲や一部のコアパーツは破損したままだ。移動はできるだろうが、満足に戦闘することはできないだろう。
ここにきて恩寵の試練が重くのしかかる。あらゆる機能が制限され、回復もままならないなんて、とんだデバフだ。これを克服したらという希望がなければ、かなりキツイ挑戦になっていただろう。
機能、機能か……、常時エネルギー枯渇……、ふむ。そういえば生まれ落ちてたから、一度もエネルギーを回収していなかったな。エネルギー常時枯渇ということは、本来なら常に満ちているということなのだろう。
仮に一時的にでもエネルギーが確保できれば、この体本来の能力でなにか面白いことができるのではないだろうか。
仕様的にもHPやMPとは異なるものとして扱われているので、なにか特殊な充填方法があるのかもしれない。
ふと目に入ったのは、雷の魔石(中)だった。そういえばこの魔石、あの精密機械を動かすエネルギー源として使われていたはずだ。
よし、こいつを使うエネルギー回復の手段を考えようか。
ということで、記念すべき第10話です。
ここ一日でかなりの方に注目していただくことができ、♡が30を超えました(T_T)
本当に嬉しいです。
少しずつ一日のPV数が増えているのを実感して涙が出るほど嬉しくなりました。
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