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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第四章▼仲間と初めてのイベント▼

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第81話『案内・後編』

 昨日は更新できず、すみませんでした。本日は複数話投稿する予定です。

 吹き抜けの談話室へ戻る。いや、室と呼称するには些か広すぎる気がしないでもないが、まあ呼び名など何でも良いだろう。


 高い天井から吊られた照明が柔らかく光り、壁際の水路が静かな音を立てている。植物園ほど湿っておらず、祭壇ほど厳かでもない。誰かを迎え入れ、腰を下ろし、少し長めの話をするための空間だ。


 「ぐあ〜」


 ふかふかのソファへ身体を沈めると、思った以上に気が抜けた。そのまま背もたれに体重を預ける。長い移動と戦闘、それからモリアへの各種案内を兼ねた一連の流れで、思っていたよりも脳に入れる情報量が多かった。


 ロヨンは私と同じく向かいのソファに腰を下ろし、杖を膝の上へ置いた。ガスマスク越しなので表情は読みにくいが、肩の落ち方からして、彼も少しばかり疲弊しているようだ。


「それにしても、随分と熱心でございましたな」


「良いことだよ。主の居ない畑を任せられるかもしれないんだ」


 ロヨンも、モリアが畑に適任であることは分かっているのだろう。サクス文明の施設を大切に扱ってくれるかという意味では多少の不安もあるが、彼女の植物に対する視線は粗雑ではなかったように思う。危険物を楽しむ質でありながら、同時に自身の育てるものをよく観察する目をしている。


 確証があっての事ではないが、こと人を見る目に関しては相当の自信があるので、きっと間違いない。その辺りが、私とモリアは妙に相性が良いのだ。


 私は壊れた機械や異常な素材を見ると手を伸ばしたくなるし、モリアは奇妙な植物や種を前にすると黙っていられない。


 そんなこんなで彼女を待つ間、私は掲示板を開いた。


 特定の目的があったわけではない。モリアが戻ってくるまでの暇潰しであり、ついでの情報収集である。攻略、素材、種族、恩寵、ギルド、街、交通手段、拠点作り。いくつものスレを流し読みしながら、今の私たちに関係しそうな話題を適当に拾っていく。


 こうして見ると、プレイヤーたちの活動範囲は私の思った以上に広がっているようだ。


 サービス開始から一ヶ月ほど経ったことで、単純なレベルや装備の差だけでなく、国や都市といった各プレイヤーの所属する勢力、探索に大いに役立つ拠点、出会ったNPC、得た恩寵との相性などが諸々合わさって、各進行度が個人個人でかなり大きな差になっているらしい。


 少なくとも私の観測できる範囲内では、このゲームにおける大きな流れのストーリーシステムは確認できていないので、ここでいう進行度とはズバリ強くなることを指している。


 街を中心に活動する者もいれば、森や山に入り浸る者もいる。生産職に寄った者たちは素材の流通に頭を悩ませ、戦闘職に寄った者たちは次に狩るべき敵の情報を求めている様子がありありと窺えた。


 中には、明らかに詰んでいることを嘆く書き込みもあった。恐らくとんでもなく重いデバフを受け取ってしまったプレイヤーの怨嗟だろう。何かが違えば、愚痴っているのは私だったかもしれない。


「うーん、地獄だなあ」


 それらしい単語を拾って調べてみると、厳つい恩寵を背負ったプレイヤーの助けを求める声が出るわ出るわ。


 初期スポーン地点が悪い。恩寵が扱いづらい。人型とは異なる姿形の体が思うように動かない。最初に出会ったNPCと相性が致命的に悪い。そもそも異形のせいで集団に入れない。ポラリスらしい理不尽が、そこかしこに転がっている。


 うん、最高。こういうので良いんだよ……。


 私も最初は窮屈な箱の中でまともに動けなかったし、モリアは新緑芽吹かぬ不毛の森でいきなり轢き殺された。こうして考えると、まともな始まりをした者がむしろ少数派なのではないかと思えてくる。


 いや、掲示板には普通に街から始まった者も多いようだし、単に私たちの引きが歪んでいるだけか。


 私は表示を切り替え、街関連の情報を追った。


 交易、宿屋、ギルドホール、訓練場、神殿、露店、関所。知らない単語が次々に流れていく。その中で、ふと目に留まったスレがあった。


 ブレイチェックについて語るスレ。


 名前だけは何度か見かけていたが、流し読みしていると妙に話題の密度が濃い。龍人系のギルド、蟲人系のギルド、強豪プレイヤーの集団。さらに、NPCをギルドへ迎え入れる話まで出ている。プレイヤーが多いだけでなく、現地の住人との関わりもそれなりに活発らしい。


「ん? ブレイチェック……あれ、そういえばこれはどんな街なんだっけ?」


 思わず声に出た。


 それに合わせてロヨンが顔を上げる。彼は私の視界に浮かぶ掲示板を直接見られるわけではないが、声の調子から何かを見つけたことは察したらしい。


「何か見つけましたかな」


「ブレイチェックって名前の都市に心当たりは? 旅人が多くて、ギルドもかなり活発に動いてるらしいんだ。旅人と住人の関係も面白そうでさ」


「はて、耳にした覚えはありますが、具体的にどこにあるかまでは記憶にありませんな」


「そうか……。茶をしばくついでに、今のプレイヤーたちがどれくらいの水準なのかも見るつもりだったのだが」


 まあ、これも調べればすぐに見つかるだろう。今は他にも調べたいことが山積みなので、後回しだ。そんなふうに掲示板を眺めながら、いくつか気になった書き込みを追った。


 この世界に点在する各街は単なる安全地帯ではなく、複数の異なる勢力同士が複雑に絡み合う場所になりつつあるらしい。そこに私たちが入っていけば、少なくとも退屈はしないだろう。もちろん、揉め事に巻き込まれる可能性もある。こちらから巻き込まれに行く可能性もあるね。


 気分の問題だ。


「ルイス殿」


「うん?」


「その街には、神殿や祭祀施設のようなものはありますかな」


「どうだろう。一通り見た限りだと、街としてはかなり大きいそうだから、何かしらはありそうだけども」


「であれば、儂としても一度見ておきたいところですな。今の地上において、神々への信仰がどのように扱われているのか。それを知ることは、サクスザント様の御威光を広める上でも重要でございましょう」


 ロヨンの声は静かだったが、そこには明確な熱があった。


 ただ街を見たいという話ではないのだ。サクスドルフの民として、サクスザント様の神官として、今の世界がどれほど変わったのかを見定めたいのだろう。


 私はソファの背に身を預けたまま、左手の指を軽く動かす。


「いいね。信仰の調査。ついでに、サクスザント様の名前をどこまで出していいかも確認したいところだ」


「慎重にすべきですぞ」


「分かってるよ。最初から大声で機神様最高と叫びながら街へ入ったりはしない」


 ロヨンが小さく肩を落とす。


 私たちの旅路は、もっと直接的にサクスザント様と繋がっている。そこのボーダーラインを今一度確認しておくことは、きっといつか私たちの助けになるはずだ。


 もちろん、無計画に騒ぎを起こすつもりはない。街の規模も、勢力も、法律も、治安も分からない状態で派手に動けば、まず間違いなく損をするだろう。だが、いつまでもコソコソと隠れ続けるつもりもない。私の身体も、ロヨンの存在も、モリアの姿も、普通に街へ溶け込むには些か癖強すぎるからね。


 もちろん極力忍ぶつもりだが、それでもどうせ目立つなら、その目立ち方を選ぶべきだ。


 そう考えると、やはりただの観光では済まないなあ。


 その後も、私は掲示板のいくつかの関連項目を開いた。断片的な情報ばかりだが、何となく街の輪郭が見えてくる。どうやらかなり人が多いらしく、出回る情報も多い。それに釣られて強者も集まっているようだ。つまり混乱の種も多いということだな。


 一時間弱ほど経った頃、ようやくモリアが戻ってきた。


 明らかに興奮していた。


 談話室へ入ってきた瞬間から、彼女の雰囲気が違う。非常に表情が読みにくい種族だが、今の彼女がかなり上機嫌であることは、忙しなく揺れる体からすぐに分かった。


「かなり捗りました」


「そうかい、よかったよ。どうだった?」


「畑の管理システム、すごいです。土の状態、水の流量、光の強弱、根の広がり方までかなり細かく確認できます。手持ちの種もそのほとんどを登録できましたし、あれこれ悪いことができそうです。森の廃墟で拾ったものも、ここなら安全に育てられるかもしれません」


 モリアは席へ着く前から饒舌に話し始めた。


 余程誰かに言いたかったのだろう。普段はどちらかと言えば落ち着いた調子で言葉を選ぶ彼女が、今は細い枝の指をクルクルと小さく動かしながら、畑の区画や管理表示について次々と語っていく。


 正直、彼女の語る半分くらいは理解できていない。だが、その熱量は十分に伝わった。うん、良さげかな?


「それ、危険な植物も混ざってない?」


「混ざっています」


 即答。


「ただ、区画を分ければ十分に制御できると思います。むしろ、そういう植物を安全に育てることを想定した区画でもあるように見えました。根が広がり過ぎるものは下層に遮断板のようなものがありましたし、有害な胞子を飛ばす植物に関しては空気の流れを管理できる点から既に対策済みですし。強力な毒性のあるものも、周囲の水路へ危険な成分が流れ出ないように浄化した上で隔離できます」


 はえー。


「いいね」


 安全に危険物を育てられる畑。実に素晴らしい響きだ。


「他にも、収穫した後に乾燥させる場所や、種を休眠させる保管庫も使えそうでした」


「モリアが楽しそうでなによりだよ」


 モリアは素直に頷いた。そのまま空いている席につき、ようやく話し合いが始まった。


「で、今後のことなのだけれど」


 私はテーブルに左肘を置き、二人を見る。


「そろそろ街に行きたくない?」


 ロヨンが少し首を傾げ、モリアも枝の指を止めた。


「街、ですか」


「そう。考えてみれば、ここにいる三人のうち二人が街に行ったことないんだよ。廃墟ならあるのだけれども」


「たしかにその通りですな」


「私は森から出たばかりなので、一度は覗いてみたいなと思っていました」


 目に見えて厄ネタ持ちオンボロ機械仕掛けの私。二mガスマスク若声口調ジジイのロヨン。パッと見枯れ木の怪物にしか見えないモリア。この三人での街デビューというのは、字面だけで若干の事故を予感させるに十分だ。事故の予感がするということは、つまり面白いということが起きることの前触れでもあるから。


「そういえば、さっき色々なスレを見ている時に、ブレイチェック関連のスレが目に入ったんだよね。ここなんかはどうだろうか」


「ブレイチェック、ですか」


「旅人が多いらしいんだ。新進気鋭のギルド話も多いし、住人と旅人が集団を作って一緒に動いている例もある。少なくとも、当面の情報を集める場所としては悪くなさそうに思えたんだけど」


 私は掲示板で拾った内容を掻い摘んで二人に話した。モリアは興味深そうに聞いていたが、ロヨンはやや慎重な顔をした。


「人が多いのであれば、警戒も必要でございますな。ルイス殿の御身は、かなり目立ちますゆえ」


「それはそう。君も相当目立つよ」


「そうでしようか?」


「大目立ちだよ……」


 ロヨンが言葉に詰まった。


 モリアが自分の枝の指を見下ろす。


「私も、あまり人のことは言えませんね」


「うん。三人ともそれぞれ目立つ。だから逆に、人が多くて変な奴も多そうな街の方がいいかもしれない。少人数の寂れた集落に行くよりは、幾分か紛れやすい可能性がある」


 このゲームには特殊な種族が多々存在しているので、それっぽい戯言を言っておけば何とかなりそうな気もするが。


「その理屈は少し危うい気もしますが……」


 モリアが控えめに言った。


「どうしたものですかね〜」


 モリアはそう言いながらも、本気で反対する様子はなかった。むしろ、未知の街に対する興味の方が勝っているように見える。彼女にとっても、森と荒野と神殿だけで完結するには、この世界は広すぎるのだろう。


 ロヨンも同じだ。


 彼はしばらく考え込むように杖の先へ指を添えていたが、やがて静かに頷いた。


「街へ向かうこと自体には賛成ですじゃ。儂も地上の現状を知る必要があります。ただし、ルイス殿」


「うん」


「くれぐれも、初日から騒動の中心に立つような真似は控えてくだされ」


 私は少しだけ考えた。


「努力はするよ」


「その返答が一番不安でございます」


 小言の応酬を静かに眺めていたモリアがクスリと小さく笑った。


 話し合いの空気が少しだけ柔らかくなる。とはいえ、何度でも言うが、街へ行くということは人目に触れるということだ。人目に触れれば、私たちの存在は必ずどこかへ伝わる。サクスザントの名を出すか出さないか、アイランドの存在を隠すか隠さないか、仲間を増やすか、貴重な素材や情報をどう扱うか。その全てが、今後の旅路に関わってくる。


 私はテーブルの上へ視線を落とした。


 磨かれた木目のような表面に、天井の光が淡く映っている。ここは安全だ。少なくとも今は、外敵の気配も、他のプレイヤーの視線も、神の眷属の干渉も届いていない。けれど、安全な場所に座っているだけでは、欲しいものは手に入らないし、永遠に望みも叶わない。


 真に助けになるアレコレは、外へ行かなければ増えないのだ。というわけで、まずはブレイチェックを目指すか。


「まあ、まずは情報収集だね。ブレイチェックへの行き方、周辺の危険度、街に入るための条件。そこを確認してから動こう。モリアの畑もあるし、ロヨンの研究もあるし、アイランドを空にする時間はきちんと考えた方が良い」


「畑については、最初に植えるものを選べば、しばらくは管理システムに任せられると思います。もちろん、定期的に確認はしたいですが」


「儂も、神殿内の確認を進めておきたいところではありますな。とはいえ、街へ行くならともちろん同行いたしますぞ。他の神について学ぶ機会を逃す手はありませぬ」


「じゃあ、そういうことで」


 地下施設を出た時は、ロヨンと二人だった。そこから戦い、神殿を得て、モリアと合流し、今は三人で街へ行く話をしている。ゲーム開始直後、箱の中でまともに動けずにいた私からすると、ずいぶん遠くまで来たものだ。


 もっとも、感傷に浸るにはまだ早い。


 ここからが本番だろう?色々とね。


 街には人がいる。人がいれば欲望がある。欲望があれば、そこに隙間が生まれる。味方にできる者、利用できる者、敵に回すべき者、踏み台にできる者。そういうものを見分けながら、私たちはこの世界に食い込んでいくのだ。この世界を楽しみつつ、きちんとゴールへ向かわなければいけないね。


 機神の寵児として。そして、私自身の楽しみのために。そんなことを考えていると、視界の端に小さな通知が灯った。


 「ん?メッセージだ」


 差出人の名前を見て、私はわずかに目を細める。


 ヤト。


「……ちょうどいいタイミングだね」


 私は二人へ視線を戻し、口元に笑みを浮かべた。

 あまりにも頭が働かないので、遂行不足が否めません。誤字脱字衍字があったら申し訳ないです。


 熱があると、なんだか後頭部がムカムカして、活字を目で追う際に気怠くなってしまうんですよね……。


 早く快復して、本格的な執筆を再開したいです。

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