表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

第7話『身体制御難易度上昇(超特大)、ガチで歩けないんだが

 階段を少し降ると、広い空間に出た。外と中を隔てるガラス張りの窓を除いて、何もかもが無い不思議な空間だ。


 ここを自由に走り回れたら、きっと楽しいだろうな。思ったよりもずっと広いスペースだ。体を動かす練習にはもってこいかもしれない。


 私は生来の体質のせいで激しい運動を制限されてきた結果、好きに動くことができるフルダイブのゲームにハマったわけだが、それが故に動けないことが何よりも嫌いなのだ。


 ならなんでこんな地雷恩寵を選んだのかという話だが、それは私が動けないということに起因する絶望よりも、ずっとずっと好奇心の方が強いからだ。


 本当にそれだけだ。深い理由とか特にない。だいたいどのゲームを遊ぶにしても、毎度こんな感じになる。


 そして自ら過酷な道を選んだからには、必ず機神様の願いを叶えねばならない。世界に絶望と混沌を齎すためには、相応の努力が不可欠だろう。


 それはさておき、まずは体の調子から。数百年前に流行った都市伝説のテケテケのような姿勢で匍匐前進をして階段を降ってきたのは、あの箱から離れると離れた分だけ体の制御が難しくなるからだ。


 あの箱の周囲には、私の身体制御難易度を幾分かマシに和らげてくれる効果がある。だからあの箱から適度に離れていて、ちょうどよい塩梅の効力になる階下に降ってきたのだ。ここは本当にちょうど良いバランスなのである。


 適度に難しく、適度に易しく。よし、立とうと思えば立てるはず。というわけで、気合いでスタンダップ!


「よっ、と!」


 産まれたばかりの小鹿のようにプルプルと震えながらも、何とか立ち上がることができた。もし仮にこれを人に見られていたとしたら、私は窓ガラスを突き破って空を飛ぶだろう。


 いや、機神様は見ているのか?ただ、彼女の場合は私を小馬鹿にするようなことはないだろう。今の私は彼女の瞳の中で、産まれたての赤子がハイハイから立ち上がる練習をしているように映るかもしれない。


 いやしかし、「膝が笑う」という表現を、私はこのとき初めてきちんと理解したのかもしれない。関節の奥が細かく痙攣するような、なんとも頼りない感覚。力を込めようとするほど、逆に力が逃げていく。


「これ、気を抜いたら転けそうだな……」


 何とか立てた。それだけで、ほんの少しだけ嬉しくなる。それほどにまで制御がじゃじゃ馬なのだ。こういう小さな実感を大切にしていきたいものだ。


 先程よりも随分と視線が高くなり、床を這っていたときには気づかなかった、この空間の広さが一気に押し寄せてきた。


 何もない、ただ広いだけの場所だ。つまり、体を大きく動かしてもぶつかるものがない。転けても危険なものがない。幾つかのパーツが儚くも砕け散るかもしれないが、いくらでも失敗できるのだ。


 ……よし。


 私はまず、ゆっくりと右足に意識を集中させた。軽くブラブラと動かそうとする。だが、当然思った通りにはいかない。まあ分かりきっていたことだ。なんせ最初の挑戦である。


 足先に命令は届いているはずなのに、途中で途切れてしまうような感覚があるのが面白い。神経がどこかで絡まっているような、とんでもなく不快な違和感だ。


 これはVRMMO特有の現象なのだ。普段意識しない部位にまで感覚が働くのが、今回ばかりは少し辛いが、まあそれも頑張れば耐えられないほどではない。


 これを乗り越えることができたなら、今後きっとどんな困難でも克服できるはずだ。


 普段とは異なる感覚に意識が狂いそうになるが、あらゆる器官を鋭敏にし、脳に入ってくる不快な信号を細かく制御しつつ耐える。これが本当に辛い作業だ。


 それでもわずかに動いた。ほんの数センチだけだが、前にだ。しかし、接地した右足は、まるでアイススケートのようにツルリと滑ると、そのまま地を弾いて体が左前に向かって倒れていく。


 それだけで体のバランスが大きく崩れる。慌てて左足に重心を移そうとして、大股になりながら左足を力強く接地させた。しかし、今度はそちらがうまく動かない。更にぐらりと視界が傾く。


 まずいと思った瞬間には、もう遅かった。


 コンクリートの無骨な床がグングンと近づいてくる。まずい。


「ぐっ」


 バコッという凄まじい衝撃。


 反射で左腕を頭の辺りに持っていったが、そのおかげで頭部のパーツは特に破損していないようだ。代わりに全体重で打ち付けた左腕の幾つかのパーツが脱落してしまった。


 ガシャンと大きな音がなり、体中から細かなパーツが弾け飛んだ。これ、絶対どこかしらに不具合が発生するやつじゃないか……。


 このままだと、授かったスキルをいち早くフル活用して、脱落した複数のパーツを補填しないといけないな。


 あー、少し休憩。あまりの衝撃に全身の力が一気に抜けて、しばらくそのまま動けなかった。


 左手を地について、体の向きを変えた。そのままコンクリートの天井を見上げる。


 無機質な白い天井。やっぱりフルダイブって、凄いリアルだ。改めてこういうのを見ると、慎重に慎重を重ねて作り上げられた、とても繊細な技術だなと思わずにはいられない。一見無感動な天井のコンクリートから、その物質のマテリアルと同じだけの冷たさがビンビン伝わってくる。


 私は今何をしているのだろう。なんだか微睡むな、今日は特に。


 ガラス張りの窓から見える外は、相変わらず全体的にくすんだ色をしている。荒廃した街並みの中でも、多くのビルが乱立しているエリアと、半ばから折れてしまっているビルが多いエリアもある。


 このまま寝てもいいかな?


 フルダイブ中だし、寝ながら寝るって、どんなだよ……。


 ふ、と小さく笑う。


 現実ではできないことをするために、ここに来たのだ。なのに、やっていることは歩く練習。まるで赤ん坊か何かみたいだ。


 けれど、それでもいい。いや、改めて振り返ると、むしろこういうのが好きなのかもしれない。コツコツ一歩ずつ、少しずつ成長していくのが、自分の性に合っているような気がする。


 最初は何もできなくて、少しずつできることが増えていく。その過程を、自分の手で積み上げていく感覚。それがあるから、私はゲームをやめられない。きっと死ぬまで変わらないんだろうな。


 私はゆっくりと体を横に転がし、うつ伏せになる。腕に力を込めて、よっこらせと上体を起こした。さっきよりは、ほんの少しだけスムーズに動けた気がする。


 やっぱり気のせいかもしれない。果たしてどうだろうか。


 再び膝を立て、体と床の狭い空間に入れる。


 今度はさっきよりも更に慎重に。いきなり立ち上がろうとはせず、まずは三つん這いの姿勢を安定させてみようか。床に触れている手のひらの感触を意識する。


 重心がどこにあるのか、どこに力がかかっているのか、一つ一つ確かめる。


 ……いけるか?いけるかも。


 ゆっくりと腰を持ち上げる。うわ、やっぱりぐらつく。だが、さっきほどではない。さっきは本当にアイススケートみたいだったから。


 そこから更に、少し勢いをつけて片手を床から離してみる。一瞬バランスが崩れかけるが、なんとか持ちこたえた。たったこれだけの動きで、こんなにも疲れるのかと、自分でも少し驚く。


「よし、そのまま……ゆっくり……」


 私はそのまま、ゆっくりと片膝をスっと伸ばす。今度は、両足で立つためだ。こういう時は、しっかりと時間をかける。決して焦らない。無理に動かそうとすると、途端に制御が崩れるのは、さっきの失敗でよく分かったから。


 慎重に、慎重に。そして両足で立つ。


 さっきと同じように全身がガクガク震えている。なんだこれ。やっぱりとんでもなく面白い感覚だ。しかし、今度はすぐには崩れない。人間、意外と慣れるものである。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 ……お、意外と保てている。


 私はそのまま、ほんの少しだけ、前に体重を移した。爪先が床をゆっくりと押す感覚が、微かに伝わってくる。


 そして、また一歩。


 ぎこちない動きだな。とても「歩く」と呼べるようなものではない。けれど、確かに前に進んでいる。


 数歩進んだところで、限界が来た。力が抜けて、その場に座り込む。肩で息をしながら、私は思わず笑ってしまった。


 ……なんだ、結構できるじゃん。


 悪逆の限りを尽くすと宣言した直後にこれかよ。全くやになるね。私の他にも身体制御難易度上昇や、それに近しい効果の恩寵はいるのだろうか。もしいたなら、そのコツを存分に語り合いたいものだ。


 ほんの少しだけど、ちゃんと動けている。


 最初にここへ来たときの、あのどうしようもない感覚は、もうない。完全に消えたわけではないが、少なくとも、対処の仕方は見えてきたのではないだろうか。


 要するに、この体は「雑に動かす」ということができないのだ。普段通り無意識に体を動かそうとすると、途端に全身の制御が効かなくなる。逆に言えば、一つ一つを丁寧に意識すれば、ちゃんと動くのである。


 面倒くさい体だな、本当に。でも嫌いじゃない。


 私は床に手をつき、再び立ち上がる。今度は、さっきよりも少しだけスムーズだった。まだまだ不安定だけども。それでも一歩。また一歩と歩いてみる。


 自分育成ゲーム、意外と面白いではないか。歩くことができないという明確なディスアドバンテージがあったからこそ、少し歩けただけでもその小さな進歩に嬉しくなるのだ。


 広い空間の中を、私はひとりで歩く。誰に見られているわけでもない。競う相手もいない。ただ、自分の朽ち果てた体と向き合いながら、少しずつ前へ。


 それが妙に心地良かった。GoA、晴れて買ってよかったゲームフォルダにインである。いやー、厳しい恩寵選んでよかった。選んだというか、まあ結果的に全部盛りになっただけなんだけども。


「しばらくはここで特訓だな」


 ……ふむ。しばらくはここで練習だな。


 そう思いながら、私はもう一歩、足を前に出した。

 いざ執筆をしてみると、普段気軽に読んでいる沢山の素晴らしい作品が、どれ程の苦労の上に成り立っているのかを強烈に実感しますね。


 何万文字、何十万文字、果てには何百万文字という文量がある作品を見ると、体が震えてきますよ。


 やってみないと分からないこともあるもんです。


 優れた作品を読んでみると、そのスキルや設定などの細かな作り込みや説明に感動します。


 特に私の場合は宇宙物のSF作品が大好きなので、空想上の兵器や機械の名前だったり、その説明だったりを目にすると、その作り込みや変態的な仕様に興奮してしまいます。


 この作品の主人公が機械兵器であることも、それらの傑作から多くのインスピレーションを受けています。


 特にスターウォーズなんかは今見ても優れた映像作品であると言わざるを得ませんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ