第6話『贈り物、それから黒い決意』
彼女がそう言い終わるや否や、強烈な気配は元から存在しなかったのではと錯覚するほど、その存在感が綺麗さっぱり消えてしまった。
「一体なんだったんだ……。いや、あの言葉ぶりからするに、私の信仰先である機神サクスザント様に違いないだろう」
というか、女性だったのか……男性だと思っていたよ。
思わずそう独り言ちると、激しい光の治まったウィンドウを確認する。
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
【G】吸収同化
┗様々な物を吸収し、自身に同化させることが可能になる特別な力だ。機械を司る古の神がただ一人のために生み出した、この世に二つとない唯一のスキルである。このスキルの力を十全に活用することができれば、あなたはかつての力を取り戻せるかもしれない。
『特別に我が力の一部を模したスキルを授けた。この力を存分に振るい、再びこの世界に絶望と混沌を齎そうぞ!さすれば、今度こそ……』
┗あなたを見守る機械を司る神サクスザントの言葉
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
これは……なるほど。
そうだな、あれこれ考える前に、まずはなぜ私がこの特別な力を授かることができたのかを考えた方が良いだろう。
特にあれこれ難しく考えるまでもなく、私がこの種族であるということが最も大きな要因であることは間違いないと思う。
彼女の言葉や得た称号を踏まえると、どうやら私は彼女の寵児であるらしい。それは種族説明にも実際に記載されていて、彼女がこの体を手ずからに作り上げたことが理由であるようだ。
次に、なぜランダムスキルチケットを使用したタイミングで彼女が介入してきたかについては、説明できる情報が手元にないので判然としない。
何かしらのイベント……うーん、仕様……どうだろう。
例えば、このゲームのフローチャートとしてランダムスキルチケットを配ることでプレイヤーにそれを使用させ、最後のスキルチケットを使用する際に各プレイヤーが信仰する神との初邂逅を経験させるイベントが存在する、というのはどうだろうか。
他のプレイヤーと情報交換をすることでその答えが簡単に分かりそうな内容ではあるが、現在ゲーム内の幾つかの機能が制限されていて、掲示板機能やチャット機能も封鎖されているんだよな……。
フレンド登録やパーティを組むことなどは可能らしいが、私の場合は恩寵の試練によってパーティ機能が使えないからあまり関係ない話かもしれない。
そんなことは今はよくて、ええと、まあ今あれこれ考えても仕方ないか。いつか答えを知る機会が来るだろう。
それまでは、彼女の願い通りに得たスキルをフル活用して、この体がかつて持っていた力を取り戻すのに全力を尽くせば良いだろう。
さて、機神様から賜ったスキルの効果は、と……ふむ。説明を読む限り、これはかなり強力なものではないだろうか。
実際にまだ使っていないのでこのスキルの詳細な性能については分からない部分が多いが、精密な機械や大きな力を秘めるアイテムなんかを吸収することができれば、より早くかつての力を取り戻せるに違いない。
それから、ファブリケーターを上手く活用することができれば、面白い機能を得ることができるかもしれない。それは後ほど試すとしよう。
それにしても、神の力の一部を模した、かあ。それはきっと、彼女の求める願いを叶えるためでもあるんだろうな。彼女の呟きに何やら不穏な含みがあるが、どんな悲願が隠されているのだろうか。
この世界に絶望や混沌を齎す、別に全く構わない。今までだってそういったプレイスタイルでゲームを楽しんできたことなど幾度もあったことだし、今回も元からそういった、いわゆる正道から逸れたプレイをするのも悪くないと考えていたのだから。
しかし、彼女の望む絶望や混沌とは、具体的にどういった内容なのだろうか。文字通りこの荒廃した世界に絶望や混沌を齎すなら、それこそこの世界の住民やプレイヤーを機械的に狩りまくれば簡単に叶えられると思うが、そんなことはかつての彼女や機械兵器でもできたはずだ。
いや、実際に彼女はそうしたのではないだろうか?種族説明にもしっかりと混沌を齎した、って記載してあったからな。となると、もっと別の方面での絶望を所望しているのだろう。
アビステイカーや瘴気を利用することなども違うだろう。何故ならこれらは機神や機械兵器が絶望や混沌を齎した古の時代よりも、ずっと後の時代の話なのだから。
となると、別の形の絶望だろう……?うむ、もういっそのこと、誰も手をつけられないような巨悪にでもなってしまうか。それで数多の悪行を行えば、その中に彼女が求める絶望や混沌があるかもしれない。
彼女の特別な願いが込められた恩寵とスキル、これらの価値は計り知れない。ならば、それにしっかりと報いなければゲーマーが廃るというもの。
よし、決めた。今決めた。私はこの世界の巨悪になろう。アビステイカーとか、瘴気とかどうでもよくなるくらいの、とんでもない巨悪になろう。そしてこの世界に再び絶望と混沌を振りまくのだ、かつての私たちがそうしたように。
そうすれば、きっと私の崇める神様も喜びになるだろう。
となると、必要なのは決して負けない突き抜けた力と、共に悪逆の限りを尽くす仲間だ。一人でできることなどたかがしれているからね。
一先ず仲間探しは後にするとして、とりあえずは自己の強化だ。そのための手段なら、幸運にも先程手に入れることができた。それを十全に使いこなすこと、そしてそれらを上手く使って恩寵の試練を克服すること。
この廃ビルの街を探索すれば、幾つかの強化に使用できる機械を手に入れることができるかもしれない。ならまずはこの体の制御に慣れることから始めなくてはならないな。
ああ、嫌になるな。早くこの体を自由に動かせるようにならないものか。そうすればいち早く望みを……、まあ、それはこれからの努力次第か。
よし、とりあえず体を動かすのに適した空間を見つけることからだな。うん、そうしよう。
さて、そろそろここを移動するか。いつまでも階段に座っていたら、慣れるものも慣れないだろう。
「よし、では行くとするか」
何やら主人公の様子が……
この小説のタグにもあるように、この作品はダークな内容なのです。
タグを見て読み始めたという皆様も、そういった流れを求めていると思いますので、これからはゆっくりとそういった世界を広げていく予定です。
ドリーム・スケイルのホーム画面内にあるダーク系の本棚が満杯だったことからも、既に察している方がいらっしゃるかもしれませんが、本作の主人公はデンジャラスなプレイを大変好んでいます。
作中でも散々な評価のポラリス・テクノロジーの新規タイトルを予約してまでプレイするというのは、そういった世界を特に好んでいることの証でもあります。
今回は普段よりも文字数が少ないので、新しい試みとして私が乱雑に情報をまとめているノートから幾つか設定をポロリしてみます。
※以下少しネタバレ※
(ネタバレが気になる方はここでお話を閉じて下さい)
設定集のような形で諸々の設定をまとめて格納するまでは、こういった形でポロポロと小出しにしていくかもしれません。
主人公ルイスが機神から特別なスキルを得ることができたのは、彼が特殊な種族であることがその理由の大部分を占めます。
特殊な種族に生まれ落ちた場合、ゲームを開始することで必ず入手出来る特別なランダムスキルチケットを五枚使用した際に、特殊なイベントが発生する場合があります。
そもそもこの世界で絶対数が少ない特殊な種族というのは、往々にしてその種族を庇護する神から特別扱いを受けることになります。
精緻に編まれた特別なAIである彼らの考え次第では、他のプレイヤーが得ることの出来ない面白いスキルを授かることができます。
つまり、ルイスが機神から特別なスキルを得ることができたなら、当然彼以外にも面白いスキルや、超強力なスキルを得ることができたプレイヤーが沢山いるということですね。
ここら辺の詳しいお話は、後ほど彼が他の住民や旅人と遭遇する際にでも描こうと思っています。皆さんには少し早いネタバレです。




