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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第三章▼恩寵の克服▼

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第50話『溶岩蜥蜴』

 さて、念願の50話です……!!


 ここまで読んでいただいた皆さん、本当にありがとうございます!私がここまで執筆できたのも、皆様の応援をモチベーションにできたからです。

 岩槍の間へ踏み込むと、辺りの空気が変わったように感じた。


 街道を歩いていた時には、風は横から頬を撫で、草を揺らし、遠くの丘陵へ抜けていくだけだった。だが、この場所では違うようだ。


 風は林立する岩槍の隙間へ入り込み、削れた岩肌を舐め、折れた先端や空洞めいた割れ目を通り抜けるたび、低く長い唸り声を残していく。


 それは笛にも似ていたし、巨大な獣が胸の奥で荒く息をしている音にも聞こえた。


 足元の土は、これまで歩いてきた街道の湿った黒土とは違い、若干の赤みを帯びていた。いわゆる赤土というやつだ。踏みしめると乾いた鉄粉が薄く舞い、当たりを砂煙の霧が薄く包み込む。


 岩槍の根元にはその赤土が吹き溜まり、ところどころで硬く固まって、ひび割れた鱗のような模様を作っていた。


 灰色の空。赤い土。黒く屹立する岩の槍。


 空の浮き島群で見た幻想的な美しさとは、まるで質が違う。触れれば手が切れそうな荒々しさと、長い年月を経てもなお崩れきらないズッシリとした重さがある。


 屹立する岩槍の間を歩きながら、ロヨンと共に辺りの観察を行う。


 近くで見る岩槍は、遠目に見た時よりもずっと生々しかった。長い年月をかけて雨風によって風化したように見えるその表面は、まるで樹皮のような特徴的な構造と模様でもって私を驚かせた。


 ただ単に削れているだけではないようだ。表面には縦へ流れる細かな筋があり、その筋の間に小さな凹凸が密集している。ところどころで溝は枝分かれし、また合流し、黒灰色の岩肌に複雑な流れを刻んでいた。


 鮫肌のようにザラザラとしたその質感は、岩槍がただの自然物ではなく、なにか巨大な生物の突起なのではないかと思ってしまうほどだ。


 今私たちが歩いているこの地下に、まさに巨大生物が眠っているとしたら……というくだらない妄想をしてしまう程度には、生々しい生き物らしさを感じられた。


 もちろん、本気でそう信じているわけではない。


 だが、この世界には浮き島群が空に漂い、瘴気に侵された人々が怪物となり、古代の謎の施設が地下に眠っている。私自身も、神に作られた機械兵器の成れの果てとして、隻眼隻腕で岩槍の間を歩いている。


 これだけ異常な要素が積み重なると、地面の下に巨大生物が眠っているくらいでは、驚くより先に納得してしまいそうになる。


《周辺地形を継続記録中。岩槍表面に層状構造、微細な空洞、鉱物脈を確認。自然形成物と推定されますが、魔力的影響の混在を否定できません》


「否定できない、ね。そういう言い方をされると、余計に気になるな」


《断定に足る情報が不足しています》


「ふむ、もう少し近くで観察してみるべきか」


 マリーの淡々とした声を聞きながら、私は一つの岩槍へ近づいた。


 近くで見上げると、やはり改めて大きいと感じざるを得ない。幅は私が両腕を広げても抱えきれないほどある。右腕があれば、という話だが。根元は赤土の中に深く埋まり、周囲の土を押し退けるように盛り上がっていた。


 手を伸ばし、岩肌に触れる。


 ふむ、冷たいな。


 外気に晒され続けた石の冷たさが、金属の指先を通して伝わってくる。表面のざらつきが指に引っかかり、軽く擦るだけで赤土の粉と黒い細かな粒が落ちた。


 私はその粒を指先でつまみ、しばらく眺めた。


 黒灰色の粉の中に、わずかに白く光るものが混じっている。鉱物の結晶だろうか。光の加減で細く瞬き、すぐに赤土の粉へ紛れて見えなくなる。


 これを加工すれば何らかの素材になるかもしれない。とりあえず鑑定してみるか。


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


【R】岩槍の白結晶

 ┗不思議な力が込められた小さな結晶。使い方次第では何らかの素材になり得る力を持つが、扱いには繊細な技術が不可欠だろう。


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


 我ながらなんでも素材に見えているなと思った。だが、この世界で生き延びる上では悪い癖ではない。美しいものを見て感動するのも大切だが、使えるものを見落とすのはもっと惜しい。


 うむ、サンプルとして少しだけ収納しておこう。後で必要になったら、その時改めて回収しに来ればいいだろう。今はこれが目的ではないからね。


 くだらないことを考えながら進んでいると、ふとあることが気になってしまった。


 岩槍の表面に刻まれた縦の筋。そのいくつかが、私の知る感覚に似ていたのだ。


 大地魔法を使う時、私は地面の下へ意識を沈める。土の硬さ、石の位置、そこへ形を作るための力の向きを想像する。岩槍を突き上げる時には、地中から先端まで一本の線を通すような感覚があった。


 目の前の岩肌に刻まれた筋は、その線の名残に見えた。


「ロヨン、見てよこれ。ここ」


 私が岩槍の気になった部分を指差しながら尋ねると、なんだろうと言いたげな雰囲気でロヨンが近づいてくる。


 彼は周囲への警戒を完全には解かず、杖を片手に持ったまま私の隣へ立った。岩槍の表面を見上げ、次いで私の指先を追う。


「これ、どこかで見覚えがあるなと思ったのだけれど、恐らく大地魔法……に似ているかもしれなくて」


「ふむ、どれどれ」


 私の疑問に答えるため、ロヨンは私が指し示した箇所を観察するように中腰になり、両の手を膝についてジッと見つめた。


 彼は目を細め、岩肌の筋を上から下へ、下から上へと辿る。指を近づけるが、すぐには触れない。まずは見て、次にその溝から生まれる影を読み、それからようやく表面に指先を置いた。


 手をかざしたり、なにやら特殊な道具で軽く叩いたりしているが、果たして彼が何をしているのかは判然としない。


 ロヨンは腰の小袋から薄い金属板を取り出し、岩槍に当てて軽く叩いた。こん、と乾いた音が返る。少し位置をずらしてまた叩く。今度は、先ほどよりわずかに低い音がした。


 彼はその違いを聞き分けるように目を閉じ、しばらく黙った。


 次いで、岩肌へ手のひらをかざす。風が止んだわけでもないのに、ロヨンの手の周囲だけ空気が少し重くなる。彼の魔力が岩へ染み込み、表面を撫で、何かを確かめているように見えた。


 しばらくそんなことを続けていると、ロヨンはなんとも言い難い様子で振り返り、私によく分からない謎の調査結果を教えてくれた。


「そのような形跡がないこともないのですが、なにぶん古くからここにある自然物なのでな。大地魔法でなくとも、他の魔法の痕跡も当然に残っている様で、なんとも言えぬのです」


「むむ、そうか。色々と調べた結果がそれなら、まあ仕方あるまいか」


 私はもう一度、岩槍の筋を見た。


 これは勝手な推測だが、たぶん、私の大地魔法がこの岩槍に似ているのではない。逆だ。大地魔法で岩を動かす時、人はこの大地が持つ形の癖を借りているのかもしれないね。もちろん、今の私にそんな高尚な理屈を語る資格はないが。


 かのグランカルドス氏に尋ねれば、納得のいく答えが返ってきそうなものであるが、彼の居場所を知らないし、そもそも彼が今も生きる人なのか過去のい人なのかも分からないからな。あれこれ考えても仕方あるまいか。


「ただ、この岩槍の構造自体は、比較的単純ゆえ膨大な魔力があれば再現できるということは何となく理解できますの」


「そうか。確かに、この超縮小版なら私でも作れるから、もしかしたらと思ったんだ」


「ルイス殿が作られた岩槍は、槍としての機能に絞ったものでございましたな。細く、鋭く、下から突き上げる。あれはあれで実に合理的でしたぞ」


 なんだよ、急に褒めるじゃないか。そう言われると照れるね。スキルのテキストに研鑽を続けるように、と書かれていたので、あれこれと工夫して使っているのだが、その成果を褒められたようで嬉しい。


「褒められると嬉しいね。もっとも、目の前のこれと比べると、私のは爪楊枝みたいなものだけど」


「最初から大木を育てる者などおりませぬ。小さな芽を育てることが肝要ですな」


 ふむ、その通りだね。初めから狩りの上手い獅子が居ないように、少しずつ上達していくしかないか。


 私は軽く笑い、岩槍から手を離す。


 その時だった。


 足元の赤土が、ズンと低く震えた。


 最初は、岩槍の間を抜ける風が地面へ伝わったのかと思った。だが、次の揺れは明確だった。ズズンと腹の底に響くような重い振動が、足裏から体の内側へ伝わってくる。


 再び赤土の粉が小さく跳ねた。岩槍の表面から、乾いた砂がさらさらと落ちる。


《振動検知。大型個体の接近と推定。方角、前方右側。岩槍による遮蔽のため目視不可》


「ロヨン」


「ええ」


 ロヨンの声が低くなる。


 彼はすぐに姿勢を変えた。杖を斜めに構える。片足をわずかに引き、いつでも横へ動ける姿勢だ。


 私も銀牙の柄へ左手を伸ばした。


 岩槍の間を抜ける風に、別の匂いが混ざる。


 これは……、熱い……?


 湿った空気の中へ、焼けた石の匂いが流れ込んできた。炉の前に立った時のような、乾いて重い熱気だ。鼻を刺激する硫黄めいた匂いもある。視界の先、岩槍の影の向こうで、赤土が微かに舞っていた。


 次の瞬間、岩槍の陰から巨大な頭部が現れた。


 それは、私の目からは蜥蜴のように見えた。ノシノシと重鈍な体を支えるように回る足は、その度に腹に響く重低音を伴って大地を揺らす。


 次第に露になる全身を見て、思わず息を飲んだ。コイツ、今まで戦ってきたどのモンスターよりも強いかもしれない。


 私の知る蜥蜴の尺度を大きく踏み越えている。全長は六メートル近いだろうか。胴は低く長く、四肢は太い。地面を掴む爪は黒く、先端の一部が欠けてもなお鋭い。赤黒い鱗が全身を覆い、その隙間を橙色の細い光が脈打つように走っていた。


 背中には、冷え固まった溶岩のような瘤が並んでいる。表面は黒くひび割れ、その裂け目から暗い赤が覗く。呼吸のたびに赤い光は強くなり、弱くなり、まるで体内に小さな炉を抱えているようだった。


 黄色い眼がこちらを捉える。


 縦に裂けた瞳孔が、岩槍の影の中で細く収縮した。


 口元からは白い煙が漏れている。舌が一度、空気を舐めた。黒く濡れた舌の先が二つに分かれ、すぐに口の中へ戻る。


 その巨体が一歩進むだけで、赤土に深い足跡が残った。


「……ずいぶんと岩槍の広場らしい住人だね」


 私は反射的に簡易鑑定を飛ばした。


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 ▼基礎情報▼

 ♦名称:溶岩蜥蜴

 ♦属性:火

 ♦レベル:34

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「名称は溶岩蜥蜴。属性は火。レベル34……?」

 読者の皆様が覚えているか分かりませんが、ルイスくんの恩寵の中には、特定の属性に対する耐性をとんでもなく低下させる極悪なものがありましたね……。

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50話おめでとうございます
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