第41話『確かな成長』
いつの間にか四十話を超えていましたね( ̄▽ ̄;)
自分のペースで少しずつ更新しているつもりだったのですが、いつの間にか毎日更新することが日課になっていました。これからもマイペースに頑張っていきます!
(もちろんできない日もありますが!!!)
それから、なんといつの間にやらブックマークが1000件を超えました……!!
少なくとも1000人もの方がこの拙作の更新を楽しみにして下さっていると考えると、嬉しさが溢れてきます!!恐れ多くも沢山の人に期待して頂いているということを今一度意識し、より面白い作品を描けるよう努力してまいります!!
受けたら即死する!
そう判断した瞬間、私は左足を斜め前へ踏み出した。後ろへ逃げれば間に合わない。横へ逃げても刃の届く位置から外れる。なら、相手の懐へ入る。
棍棒が背後の石畳を砕いた。破片が脚に当たり、細かい衝撃が走る。私は銀牙の刃を低く走らせ、ホブゴブリンの膝裏を狙った。
黒銀の刃が肉を削り取る。
だが、浅い。ホブゴブリンは怯みこそしたが、倒れなかった。痛みに鈍いだけでなく、肉そのものが格段にぶ厚い。ゴブリンよりもずっと頑丈で丈夫だ。
「さすがに一撃とはいかないか。なら、刃だけで無理をする必要はない」
ホブゴブリンが咆哮する。濁った唾が飛び、何かが腐ったような刺激臭が鼻先を掠めた。奴は棍棒を引き戻すより早く、空いた左腕でこちらを掴もうとする。
眼前に大きな手が迫る。
私は銀牙の柄を強く握り、刃を前腕へと引っかける。そのまま力を込めて食い込ませ、体ごと横へ捻った。
刃が肉を裂く。ホブゴブリンの腕が逸れ、爪が私の肩を守る装甲をかすめた。表面が削れ、火花が散るのが視界の端に映る。
《左肩外装に軽微損傷》
「軽微で済んだなら上等だ。けれど、あまり好き放題に動かれると面倒だね」
私はさらに踏み込むと見せかけ、逆に半歩だけ距離を取った。ホブゴブリンが追ってくる。濁った目がこちらだけを捉え、重い足が泥と石畳を踏み砕く。
その両足に、私は意識を向けた。
先ほどは槍だった。地中から一直線に突き上げる形を思い描いた。だが、今度はは貫く力ではなく、止める力をイメージしてみよう。これも訓練だと思ってさ。
足首を掴む枷。
地面から伸びる硬い輪。
石と土が絡み合い、相手の両足を捕らえ、体重をかければかけるほど食い込む拘束具。
私は先程想起した槍の鋭さを、今度は輪の形へと曲げるように意識した。細く、硬く、逃げ道を塞ぐ。相手の足首を左右から挟み、この地面へと縫い止める。
「大地よ、縛れ」
地面が鈍く鳴った。
ホブゴブリンの両足の周囲で、黒灰色の石がせり上がる。最初はこんもりと盛り上がった土にしか見えなかったそれが、瞬く間に硬い輪となり、足首の上からキツく閉じた。
片足だけではない。左右の足が同時に捕らえられ、石の枷が地面へ根を張るように深く沈み込む。
「グォッ……!?」
ホブゴブリンの巨体がつんのめった。前へ進もうとした力が両足で止まり、上半身だけが勢いのまま倒れかける。棍棒を支えにしようとするが、その一瞬で十分だった。
《拘束成功。持続時間は不明です》
「よし、今のうちに使い切るよ!」
私は銀牙を天へと捧げるように持ち上げた。
片腕で重い鉈剣を扱うには、腕だけで振るってはいけない。腰、肩、脚、体の全体を刃の重さへ合わせる。銀索蜘蛛との戦いで嫌というほど学んだ動きだ。
拘束されたホブゴブリンが、力任せに足を引く。石の枷にひびが入った。やはり即席の魔法では長くはもたない。研鑽を続けなければ成長しないとフレーバーテキストに書いてあったし、やはり常日頃から意識した方が良いのだろう。
だが、今はまだ足りる。これだけで十分だ。
「ごめんね、貰うよ」
銀牙を斜め上から斬り下げる。
刃が背中から腹にかけて硬い肉を裂き、黒ずんだ血が周囲へ弾け飛んだ。ホブゴブリンはなおも暴れようとするが、両足の枷が動きを遅らせる。上半身だけを捻ったせいで、かえって傷口が広がった。
私は一度刃を引き抜き、身体を半回転させる。今度は銀牙の重さに逆らわず、そのまま遠心力を乗せて首筋へ叩き込んだ。
斬るというより、断ち割る一撃。
銀牙の刃が瘴気に侵された肉へと深く沈み、骨に当たって嫌な感触を返す。だが、そこで止めない。体重を乗せ、さらに押し込む。
ホブゴブリンの喉から、潰れた笛のような音が漏れた。直後、足元の石の枷が砕ける。だが、もう遅い。
巨体から力が抜け、抵抗しようと藻掻いていた両の腕が崩れ落ちる。錆びた棍棒がカランと音を立てて石畳へ転がり、軽快な音を残した。
「剣で削って、魔法で止めて、剣で仕留める。ふむ、悪くない流れだ」
臨機応変に対応するのも大切だけれども、自分の中でのルーチンを作っておくこともそれと同じくらい大切なのだ。
私は銀牙を引き抜き、倒れたホブゴブリンから距離を取った。頭の奥で微かな熱が走り、魔法を使った疲労のような違和感が残る。まだ自在に扱えるとは言えないが、この分では使い道はいくらでもあるな。
私の戦闘の終結と時を同じくして、ロヨンの方では激しい水音が響いていた。
もう一体のイビル・ホブゴブリンが、低木の影からロヨンへ襲いかかっていた。こちらもレベル八。手には錆びた斧を持ち、先ほどのゴブリンたちとは比べものにならない勢いで踏み込んでいる。
見るからに恐ろしい光景だが、しかしロヨンは逃げなかった。杖の石突きで地面を叩き、周囲の水気を一斉に浮き上がらせる。
草の露、泥の中の水分、ロヨンが先ほど生み出した水球の残り。それらが糸のように伸び、彼の周囲で渦を巻いた。
ホブゴブリンの斧が振り下ろされる。ロヨンは半身になり、最低限の動きでそれを避けた。斧はロヨンのすぐ横の地面へ食い込み、細かな泥を跳ね上げる。その瞬間、水の紐が相手の手首へ巻きついた。
「大振りですな。力はありますが、それだけでは水を捕まえられませぬぞ」
ロヨンが杖を横へグンと引く。
水が鞭のようにしなり、ホブゴブリンの腕を強引にずらした。さらに二つの水球が左右から飛び、胸と顎へ続け様に直撃する。
思わず巨体が揺らいだ。ロヨンはそこで足を止めず、杖の先を円を描くように動かした。浮かんでいたいくつもの水滴が細かな弾丸になり、雨の逆再生のように一点へ集まる。
次の瞬間、それらが連続で撃ち出された。
肩、額、胸、膝、腹。硬い水の衝撃が途切れず叩き込まれ、ホブゴブリンの体が後退する。斧を持ち上げようとしても、水の紐が腕に絡みつき、一つ一つの動作を遅らせる。痛みに鈍い瘴人でも、体勢を崩され続ければ攻撃は形にならない。
「これで仕舞いですぞ。どうか、母なる大地のもとへ還られよ」
ロヨンが勢い良く杖を突き出した。
一際大きな水球が、ホブゴブリンの頭部を包み込む。ゴブリンに使ったものより大きく、重そうだ。暴れる巨体が必死になって水を掻きむしろうとするが、水は顔面から離れない。
さらに足元の泥がぬかるみ、ホブゴブリンは踏ん張りを失って膝をついた。斧が手から落ち、肩が震え、背中が大きく上下し、やがて動きが弱くなっていく。
水球が弾けるように崩れた時、ホブゴブリンはそのまま前のめりに倒れた。
いやいや、ロヨンよ!
やはり水属性は最強の属性ではないか……!
生きていく上で不可欠な水を生み出せるだけでもOPだと言われるのに、自在に姿形を変形させられる上、使い方次第では相手を窒息させられるって、こんなにも応用が効く魔法はGoAの世界どこを探しても他に存在しないだろう。
私が警戒を続けつつ心の中で喚いていると、辺りに静寂が戻った。戦闘中に膨れ上がっていた敵意と殺気は、急速に薄れていく。
《周辺再走査。即時接近する敵性反応は確認されません》
「……今度こそ、終わりかな。さすがに三体からの二体追加は、少し心臓に悪いよ」
私は銀牙を下げ、倒れたホブゴブリンを見下ろした。私に心臓と呼べるものがあるかは怪しいが、果たして胸の奥でリアクターが激しくドクドクと脈打っているように感じるのは錯覚か。
レベル八。
数字だけ見れば、私より上の相手だった。だが、銀索蜘蛛と比べれば攻撃の線は素直で、恐怖の質も軽い。もちろん油断すれば殺されていただろう。それだけに、あの地下で死に物狂いの戦いを越えた今では、相手の動きがいとも容易く読むことができた。
強敵との経験は、こういうところで確かに私の中へ残っている。銀牙を振る角度も、大地魔法を挟むタイミングも、以前の私ならここまで自然には出てこなかっただろう。
ロヨンも杖を下ろし、倒れた瘴人たちへ静かに目を伏せた。
「醜鬼三体、中醜鬼二体。ひとまず片付きましたな」
「こちらはゴブリン二体とホブゴブリン一体。そちらはゴブリン一体とホブゴブリン一体か」
「ええ。そのようですな。互いに生きて終えられたのなら、まずは上々でございましょう」
パーティを組んでいない以上、ロヨンの戦果は私に入らない。その代わり、私が倒した分はすべて私のものだ。
ゲーム的に考えればかなり歪な状況だが、私の恩寵はそういうものなのだから仕方がない。共有できない不便さと引き換えに、自分の働きがそのまま自分へ返ってくると考えれば、納得できなくもない。
その時、脳内に淡いログが浮かび上がった。
《戦闘終了時ログを確認。ルイス様のレベル上昇を確認しました》
「表示してくれ。今回は、少し手応えがあったからね」
《了解。最小限の情報を表示します》
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
▼戦闘記録▼
♦討伐:イビル・ゴブリン×2
♦討伐:イビル・ホブゴブリン×1
▼レベル上昇▼
♦レベルが6から8に上昇しました。
♦レベルの上昇に伴い、全ステータスが30から40へ上昇しました。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
「おお、二つ上がったか。ゴブリン二体とホブゴブリン一体でこれなら、かなりありがたい」
思わず銀牙の柄を握り直す。
体の奥で、微かな熱が巡った。胸部のリアクターから全身に向かって、細い光の流れが通るような感覚がある。以前ほど劇的に体が作り替わるほどではない。
だが、関節の重さがほんの少し軽くなり、銀牙を支える左腕の負荷がいくらか扱いやすくなった気がした。
《機体出力の基礎値上昇を確認。現状の損傷および欠損を補うには不十分ですが、戦闘継続能力は向上しています》
「不十分と言いつつ、ちゃんと上がっているのはありがたいね。少なくとも、さっきの枷をもう少し長く保てるようになれば戦い方の幅が広がる」
インベントリから不揃いのパーツや部品を取り出し、それを吸収同化することで損傷した箇所を修復した。
私は倒れた瘴人たちへ視線を向ける。
ゴブリン三体。ホブゴブリン二体。
元はどこかで生きていた者たちなのだろう。話をし、飯を食い、誰かと笑っていた可能性だってある。瘴気に侵されなければ、こちらへ武器を向けることもなかったかもしれない。
だからといって、手を抜く選択肢はない。この世界で歩き続けるなら、こういう戦いは避けられないのだろう。
そして私たちの宿願を果たすことは、そのずっとずっと先にある。絶望と混沌を齎し、彼らの多くを冥府へと送り届けて初めてサクスザント様の気が晴れるなら、それが本望だ。なによりも私もその方がずっと楽しいしね。
「ロヨン。岩槍の広場へ行く前に、少しだけ休もう。今の戦いで、外の敵の動きも少し分かったし、少し休んで体に馴染ませたいんだ」
ロヨンは倒れた瘴人へ短く祈るように目を伏せ、それから穏やかに頷いた。
「ええ。急ぎ過ぎる旅は、母なる大地に嫌われますゆえ。今の戦いを振り返る時間も、きっと無駄にはなりませぬ」
「嫌われるのは困るな。せっかく大地魔法を真面目に練習しようと思ったばかりなのに、母なる大地に嫌われるのは避けたい」
《有用な判断です。大地魔法の運用経験は、今後の戦闘において重要な意味を持つ可能性があります》
「はいはい。マリーにもロヨンにも言われたら、さすがにサボれないね」
私は銀牙を軽く振って付着した汚れを落とし、刃を肩に担ぐ。曇天の下、休憩所の崩れた壁が静かに影を落としていた。
戦闘の熱が引くにつれ、湿った風が再び頬を撫でる。街道の先には、岩槍の広場へ続く道がまだ長く伸びている。
その名を聞いて想像した鋭い岩の槍は、今しがた私の足元から現実に突き上がった。そして同じ大地は、ホブゴブリンの両足を縛る枷にもなった。
次はもっと上手くできる。私に近付くことすら能わず、ただ遠くにあって一方的に撃滅してやろう。
細く、鋭く、狙った場所へ。あるいは固く、重く、相手を逃がさぬ形へ。そう強く念じながら、私は改めて足元の大地を見下ろした。
少しずつだが、着実に強くなっているという実感がある。それが大きなモチベーションとなって、ますます私をこのゲームへとのめり込ませるのだった。
ロヨンが杖を引く際の擬音でかなり悩みました。「グン」か「ブン」かで競い合った結果、僅かに「グン」の方に軍杯が上がりました。
ルイスくん、少しずつこのゲームに慣れてきましたね。歪な体の調子にもゆっくりと適応し、効率的な動きができるように進歩しています。




