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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ


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第4話『目が覚めると、そこは箱の中でした』

 私は一思いにその穴に身を投じる。グネグネと曲がりくねったウォータースライダーを滑り落ちるような感覚を味わいながら、いつまでも落下していく。


 次第に世界が眩い白一色に満たされ、全身の境界が曖昧になる。


 そんな状態が数秒続いた後、徐々に視界に彩りが……なんてことはなく、いくらかの色はあるが、辺りを観察するに、随分と薄暗い場所で目覚めたようだ。


 バルの言っていた通り、視界も相変わらず左側のみである。


 辺りの気配を探ると、どうやら狭い箱型のような物の中で目覚めたようだ。欠けた右腕を除く三肢に金属製のアームがキツく固定されていて、自由に動くことができない。


 トンネルを潜った先が、身動きが取れないほど狭い箱の中とは。どんな状況だ。


 「くそ、全く動かない……」


 物は試しにと全力で身を捩ると、左腕を固定している金属製のアームがミシミシと悲鳴を上げた。当然この身も朽ち果てているが、どうやらアームも同様に朽ちかけているようだ。どうにかもがけば、砕けそうな雰囲気がある。


 薄暗い空間の中、金縛りのような状態でもがき苦しくこと約一時間。左腕を固定していたアームが明らかに異音を鳴らし始めた。ギシギシと軋むUFOキャッチャーのようなアームは、二股を固定する金具が風化しているらしい。


 「んぐぐぐぐ、ぐおお!」


 癇癪を起こした子供のように肩甲骨、肩、上腕を振り回すと、ガチャンというけたたましい音と共に、左腕を固定していたアームが砕けた。


 くそ、デバフ盛り盛りのせいで本来の性能を発揮できていないのだろう。


 解放された左腕で両足を固定しているアームを渾身の力で殴りつけるも、ビクともしない様子だ。それどころか、小指球辺りの装甲が一部剥げてしまった。


 絶望的すぎる、私のGoAはこの箱の中で終わりなのか?なんだそれは、いったいどんなゲームだ……!


 何か方法はないだろうか。とりあえず少し休んで、もう一度癇癪を起こすか。そうすれば少しは弛むだろう。ああ、それにしてもここはいったいどこなんだ……。


 「しかし、本当に薄暗いな」


 自由になった上半身を捻って箱の中を観察すると、どうやら全体的にかなり風化しているようだ。半分しかない視界のせいで確証が持てないが、足元には緑や苔が茂っているように見える。相変わらず視認性は最悪だ。


 その緑が足を伝って腰あたりまでを蝕んでいて、ああこれが私に植物属性もある所以か、等と取り留めのないことを考えてみる。


 「さあ、もうひと暴れだ……!」


 数刻の休息を経て、もう一度癇癪を起こす覚悟を決めた。イメージするのは病院によくいる喧しい幼児だ。プライドも何もかなぐり捨てて、いざ尋常に。


 「ぐおお、うおらああああ!」


 お、少し弛んできたのでは?アームから鳴る音が僅かに変化した。右脚を固定しているアームに蔦や苔が侵食しているのを見るに、まだまだ希望はありそうだ。


 「もうひと踏ん張り!ぐおおお!」


 股関節周りを無秩序に動かすと、ようやく右脚を固定していたアームがバコンと砕けた。デバフ塗れのこの身で砕けるほど風化していたなら、かなりの年月が経っていることになる。


  よし、残すは左脚のみだ。


 左脚を固定しているアームは、他のアームと比較しても僅かに歪んでいる程度で、これはかなりの難敵だろう。ただし、もう既に二本のアームを粉砕したのだ。何とかなるだろう。


 「よし、最後だ……。うおらあ!」


 右脚と左腕でアームに暴行を加えまくり、バコバコと耳障りな怪音が狭い箱の中で反響する。ストレスマッハである。


 格闘し続けること約三十分、ようやく三肢が自由になった。両足で地面を踏みしめると、床下にほんの僅かな空間があるのか、凹む感覚と共にミシミシという音が聞こえた。


 自身の正確な重量が分からないので、この風化した床にどれほどの力が加わっているのか判然としないが、踏みしめる度にミシミシと鳴っていることから、私がアホほど重いか、それとも床がアホほど脆いかの二択には絞りこめた。


 全身を使ってしゃがもうとすると、歪んだ床が僅かな反発を伴って撓む。頑張れば踏み抜けそうか?


 数十分に渡って床に衝撃や力を与え続けるも、穴が空く気配はない。適度に撓むことで衝撃を四方へ逃げてしまっているように見える。


 「この箱、どこから出ればいいんだ?」


 少し休んだ後、箱の中を詳しく見分する。


 仮設トイレ程のサイズの中に見たこともない機械が綺麗に配置されていて、そこから伸びる何本かのコードがこの体に接続されているようだ。ただし、今はそのどれもが活動を停止している。


 また、正面にある壁面は光を反射する素材でできているのか、私の胸部で明滅を繰り返す赤い光や、青い隻眼が妖しげに輝いている。なかなかどうして、映えるじゃないか。


 ふむ。目の前の壁、頑張れば抜けそうか?目の前の壁、あるいは扉の四方の隙間から漏れ出る微かな光は、そこが厳しく密閉されているのではなく、固定されていることを示している。少し試してみようか。


 私は左手を目の前の壁面に付け、両足を頭よりも後ろに置く。軸が斜めになり、左腕に力が宿った。デバフ塗れの体で全力の限りを尽くし、閉ざされた扉をこじ開けようとする。


 ギギギと嫌な音が響くのみで、残念ながら開きそうな気配は無い。一定のリズムでグッグッグッと押すも、効果は薄いようだ。ただし、初めよりも明らかに漏れ出る光量が増えていることからも、隙間自体は広がっているようだ。


 さて、片手で無理なら、両足で押すしかないだろう。私は左手を近くの壁に付き、下半身に力を込める。グッとしゃがむと、溜めた力を解放して僅かに飛び上がった。


 膝を曲げて足裏と臀部で箱の中に空気椅子を作り、持てる限りの全力で膝を伸ばしていく。錆び付いた金具が軋む音が響き、扉が弛む気配がする。


 「ラストだ、ぐおらあああああ!」


 あまりに力んだためか、膝周りから細かなパーツがパラパラと脱落していく。ああ、私の膝が……。しかし、それに見合う成果があった。外から扉を固定していたであろう幾つかの金具が、パコンと勢いよく弾ける音がした。


 最後に一度膝を緩めた後、瞬間的に全力で力んだ。今度は足首あたりから幾つかの細かなパーツが脱落したが、これも仕方がないのだ……。


 心の中でポロリと涙を流した刹那、バコンと扉が外れた。扉が地面よりも高い位置にあったのか、直立したまま緩やかにカクンと接地し、そのままゆっくりと倒れた。倒れた衝撃で埃が勢いよく立ち上り、煙幕のようになって視界を妨げる。


「私はとうとうやり遂げたぞ……!この小さな監獄から脱獄できた……。ああやっとだ……」


 箱と悪戦苦闘すること数時間、ようやく視界に眩い光が射し込んだ。ゆっくりと重たい体で足を踏み出すと、そこには絶妙な景色が広がっていた。視界の下半分には高層ビルの頭が、上半分には灰色の曇り空が覆っている。


 趣があるといえばある!がしかし、うーん、こういうのは普通、虹が架かる満点の青空の端を、ドラゴンが飛んでいたりするんじゃないのか。


 今にも雨が降り出しそうな曇天ではないか。私の門出は、曇り空でした。ちくしょう。


 そんなことは置いといて、ここはどこだ?なぜ高層ビルの屋上?機械兵器とかって、普通は物々しい研究所の地下に隠されていたり、ハイテクなラボの一部に格納されてたりするもんじゃないのか?


 なんでこんな野ざらしの場所で、錆が大繁栄した窮屈な箱に閉じ込められていたんだ……。


 とりあえずは、箱内での格闘による体への影響をパッパと確認して、辺りの探索を始めようか。かなり無茶な動かし方したから、幾つかのパーツが逝ってるかもしれない。


 とりあえずは目で見える範囲の問題を点検する。しっかり端から端まで、油断なく。パッと調査した結果、主要なパーツに致命的な問題は見当たらなかった。


 しかし、小さなパーツが組み合わさって大きな役割を果たす際に機能する重要な部品の一部が破損したり欠けたりしているようだ。


 この体は恩寵による影響で全身のパーツが枯渇しているのに加えて、自動修復機能が停止しているのが辛い。体が壊れても修復ができない上、スペアの部品も不足しているのだ。


 これは自力でジャンクパーツを探して、何とかするしかないな。まあ今すぐに動けなくなる、ってレベルの故障でもないし、全身が完全に動けなくなる前には応急処置ができる程度の廃材は見つかるだろう。


 それなら、この荒廃したビル群は最適なリスポーン地点ではないだろうか。這う這うの体でビルの下を覗き込むと、見たことの無い形状をしている車らしきものや、幾つかの部位を失っている複数の朽ちかけの機械人形が横になっていた。


 彼らから必要なパーツを拝借できれば、何とか延命はできるかもしれない。よし、目標を定めよう。まずはこのビルを降りながら室内の探索、その次に地上におりてジャンクパーツ集め、最後に他のビルの調査やって感じでいいかな?まあ何かあったら臨機応変に対応しよう。


「よーし、いくか……っとお!?」


 と一歩を踏み出した途端、バランスを崩してたたらを踏んだ。あ、危ない、危うく屋上から落ちるところだった……!


 何だ急に!?足のパーツが本格的に逝ったか!?と数瞬慌てたが、そういえばと思い出した。身体制御難易度上昇(超特大)とかいう馬鹿みたいなデバフがあるんだった……。


 (超特大)とついてる割には幾分か動きやすいのだが、これはどんな理屈でそうなっているのだろうか……


 しかし、なんやかんや言っても、しばらくは体を動かす練習をしないとダメっぽいか。


 そうなると疑問なのが、なぜ箱の中では好き勝手できたのかという話だが、ゆっくりと色々な検証を行った結果、どうやら私はあの箱の中ではある程度自由に動けることが判明した。


 また、専用の技能や機能で確認しないと分からないが、私の状態を万全に保つための機神の祝福(私に課せられた恩寵と比較するとアホほど弱いが)のようなものがかかっているのを感じる。これは私が機神の寵愛を受けているからこそ理解できることだ。


 ついでに、箱の外にも身体制御難易度を幾分か和らげてくれる効果のある特殊な力が溢れているのを感じた。


 箱の内部を詳しく観察してみると、私を固定していたあの激硬拘束具も、箱が激しい動きをした際に私の体が四方の壁でガンガン跳ねないよう固定するためのものっぽいな。


 設備や機械の尽くが修復不可能なほど破損してしまっているが、私の体に伸びていたあのコードのようなもの、どう考えても私の規格に合わせて作られていたし、この機体を思って作られた箱と長時間格闘していたのは何のためだったのか。


 いや箱から出るためなのは当然そうなのだが、まさかここまで風化しているとは……。機神も一応神なら、こういうのはしっかりして欲しいよ。全く。


 なんで廃ビルの上に放置されていたのかとかさっぱり謎だけど、まあそういうもんだと思うしかない。私にはどうしようもないのだから。


 ちなみに現在の私の体は《絡繰兵・一兵卒》である。バルの元でキャラメイクした格好良い姿を幾分かチープにしたような格好であるが、ぱっと見る分にはかなり似通った装甲やパーツを利用している。それこそ互換性があるようにすら見えるほどに。


 まぁ今は、最低限動き回れるようになるまで訓練だ。これができなきゃ話にならないだろう。とはいえ、訓練するなら屋内だ。雨でも降ったら大変だからね。


 目に付いたコンクリート剥き出しの階段をテケテケのように匍匐前進して降っていく。様々な姿勢を試したが、この姿勢が一番快適だった。


 エレベーターらしきものが階段のすぐ脇にあったが、完全に機能停止しているらしい。どうにか動かないか試したが、どうにもならなかった。


 さて、まずはこのビルだな。体を動かせるようになること、それから何か有用なお宝が眠っていることを願って冒険開始だ。

 特典とスキルの確認は、次話で行いますね。



 実際、アンドロイドのような存在になるって、どんな感覚なんでしょうね。


 私の中でのアンドロイドはかなりファジーな存在で、耐用年数こそあるものの、きちんとメンテナンスを欠かさなければ半永久的に使用できる便利お手伝いロボットってイメージなんですよね。


 本著のルイスの種族説明にもあった殺戮兵器のような存在をイメージする方も居れば、ドラえもんのように愛くるしいフォルムの機械人形をイメージする方も居ますでしょうし、かなり幅の広い概念を持っていると思います。

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