第3話『どう考えてもおかしい恩寵選択』
「さて、では改めて説明するわね。恩寵というのは、この過酷な世界を生きていくために神々が与えた試練であると同時に、加護でもあるのよ」
お、だいぶザックリとした説明だ。しかも早速重要そうな話である。
「なるほどね、分かりやすい」
とりあえず言っておく。まだ上手く理解できていないが。
「この世に生きる遍く種族は、天に御座す神々から大小、強弱様々な恩寵という名の試練を賜る。それらを乗り越えた時、恩寵はその試練に見合った強力な加護に姿を変えるの」
「なるほど、試練か。つまりこの世界の住人はみな何れかの神から恩寵という名の試練を賜っていて、どんな内容かは分からないが、それを克服することで恩寵が加護になる、っていう認識で大丈夫だろうか」
「その通りよ。試練の内容は人や種族、またその恩寵を与える神々によって千差万別なの。恩寵はその人が生きていくために必要な力を加護として与えるものだから、多くの人は得られた恩寵と相性の良い場所や仕事、生き方をしていくことになるの。この世界の人々にとって恩寵は、何ものにも変え難いとても大切なものね」
この世界は思っていたよりもずっと過酷で、神から賜る特別な力がなければ、当たり前の日々を生きていくことすらできないほど残酷なのだそうだ。そんな世界に天より垂らされた細い糸が恩寵である。
人々はみなその試練を克服し、加護という形で己が生きていくのに必要な力として昇華している。この世界では、恩寵がないと人は簡単に死んでしまう。それほど厳しい世界なのだ。
「そもそもの、この世界の説明がまだだったわね。ある程度は理解しているかしら?」
「もちろん、ただ触りだけだ。詳細なあれこれについては、私もそこまで自信があるわけではないのでのでな」
ゲームのトレーラーや紹介文で、ある程度の世界観を掴んではいるが、細かな部分は全くわからないという状態である。故に、この場である程度でもいいので教えてくれるならありがたい。
「そうね。今確認したところ、貴方は重要な情報を断片的にではあるけど知っているようね。なら、大筋の流れを少し丁寧に話しておこうかしら」
ほう。なにやら想定とは異なる言動だ。また脳波か何かを読み取ったのか?その類のことは確かに利用規約や誓約書に書かれていたが、本当に行われるとは。
「聴こう」
バルに対して傾聴の姿勢で構える。
「まず、貴方が選んだ種族の説明からも分かる通り、この世界はもともと今とは異なる姿をしていたわ。それはもう理解できて?」
「もちろん。断片的にだけど、それらを示唆する物はいくつかあったからね」
トレーラーなどでも、僅かにではあるがこの世界の奥深くに触れるような描写が複数存在していたのに加え、先程表示された複数の種族の説明などでガッツリネタバレされているので、ここら辺は今更の話である。
「ある日突然、世界中の至る所で《《暗闇に通じる深き縦穴》》が空いたの。今に伝わる古き伝承によれば、それは外なる世界に繋がるとされる危険な穴よ」
ふむ。深き縦穴ね。
「その穴から、元々この世界に存在するあらゆるものを蝕む瘴気と共に、あなたも先程見た邪悪な存在、アビステイカーが溢れ出したわ。アビステイカーはこの世界に存在したあらゆる生き物に取り付き、その姿を悍ましい怪物に改造して周囲を無差別に襲いだしたわ」
アビステイカー!よかった、アイツにならなくて。というかそんな劇物すらも、候補に出すのか。やはりポラリスはどこかズレてる。望めば世界を蝕む巨悪の一部になれるのだから。
恩寵も得られない上、他者に寄生して改造することが生き様だなんて、最悪でしかないが、そういったプレイを好むプレイヤーも、中には当然存在するだろうし、数少ない私のフレンドにも心当たりがないわけではない。
しかし……
「なるほど。それがこの世界を覆い尽くさんとする邪悪と」
得心がいった。
「その通り。そして彼らは強力だったわ。世界を蝕む瘴気と併せて、世界を滅ぼしかけたの。だからこの世界を天から見守っていた神々は、この蝕まれた世界で彼らの庇護する種族が生き永らえるよう、恩寵という形で瘴気への耐性、それからアビステイカーを撃滅する力を授けたの」
「その耐性ってのは、あらゆる恩寵に含まれた普遍的な加護ってことかな?」
「その通りよ。恩寵とは、この世界を包み込んだ瘴気に対する強い耐性を基本とした上で、瘴気と対をなす脅威であるアビステイカーに対抗するための力を試練という形で授けているの。だから、この世界の住民の中にも当然瘴気への耐性があることに胡座をかいて、試練を疎かにしている人も存在するのよ。面白いでしょう?」
面白いかどうかはおいておくとして、興味深い話ではある。たしかに耐性が得られるのであれば、無理に危険を犯してアビステイカーを駆逐しなくても生きていけると考える人も、そりゃ当然いるわけで。
今ちょろっと話を聞いた私ですら考えつくことなのだから、この過酷な世界に生きるとんでもない性能のAIが搭載されている住民達の中には、当たり前のようにそう思う人もいるだろう。
別に無理を犯して試練を乗り越えなくても、アビステイカーに対抗するための手段は得られないが、瘴気に対する抵抗は得られるということだ。
「しかし、突如現れた謎の縦穴にアビステイカー……。ここら辺の話は、割とこの物語の核心ではないのか?」
「いいえ、こんなのはそこら辺の子供でも知っている話よ。この世界に生きる人々は、幼い頃の御伽噺で必ず知ることになるわ。問題はこの先、そもそも縦穴とは?そこから湧き出る瘴気の正体は?アビステイカーとは?何でこの世界に突然そんなものが湧いて出てきたのかしら?それらを知り、そして解決することが貴方達含むこの世界に生きる人々が成すべきこと。理解できたかしら?」
「全て理解できたよ。丁寧にありがとう、バル。」
すごく分かりやすかった。しかしそうなると、この世界に生きる全ての人々は、余すことなく神々から恩寵を賜っているのか。恩寵を得ていない人は瘴気に対する耐性がないわけだから、生きてる住民は必ず恩寵を得ていることになる。なんとも壮大な話だ。
ふむ。しかし神々ときたか。また急に出てきたな。まあ考えれば特段おかしな話でもないか。なにせ恩寵である。どう考えても上の存在から授かるありがたいものにつける名前だ。
「諸々理解できたようで何よりだわ。これらの話はこの世界に生きる全ての人々にとって当然の話であり、知らぬことは貴方がまともではないということの証でもあるの。これらを知らずに彼の世界に飛び込めば、貴方達旅人は必ず奇異なる視線に晒されるわ」
ふむ。当然の話だ。当たり前の常識を知らない人がいきなり大勢現れたら、警戒されるし、奇異な目で見られるに決まっている。だからプレイヤーは予めここでこの話を聞くことになるのだろう。
「じゃあ長話も終わったところで、早速恩寵、得ちゃいましょうか」
恩寵、機械兵器である私のものはどのようなシステムなのだろうか。
「今から貴方の前にステータスが確認できるウィンドウを開くわ。まずはそれで色々と弄ってみたり、確認したりしてみてちょうだい」
ゲームによくある一般的なステータスの様なものなのだろうか。それなら直感的で分かりやすいのだが。
とか何とか言っているうちに、ウィンドウが開いた。なになに?
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▼基礎情報▼
♦名前:ルイス
♦種族:《エクス・マキナ・アポカリプス》
♦属性:機械/植物
♦位階:1
♦レベル:1
♦クラス:なし
♦所属:なし
♦信仰:機神サクスザント
▼ステータス▼
♦HP:10/10
♦MP:10/10
♦筋力:5
♦魔力:5
♦装甲:5
♦物耐:5
♦魔耐:5
♦速度:5
♦器用:5
♦精神:5
♦運気:5
▼状態▼
特殊効果によりデバフ無効化中
▼恩寵▼
■欠け砕けた機械兵器
▼スキル▼
♦なし
▼称号▼
♦【異界からの旅人】
♦【神の被造物】
♦【先なる世界に絶望を齎した機械兵器】
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まずは、とりあえず気になるステータスを一つ一つ確認していこう。
とりあえず名前と種族はいいとして……。属性欄にある機械というのは理解できるが、ここに植物が含まれているのは一体なんでだ?機神が手ずからに作った機械兵器に植物の要素なんてあるのだろうか。
いや、そういえばこの体、部分的に植物に侵食されてるのか。だから植物の属性も持っているのか?うーむ、謎である。たしかに植物の要素もあるが、属性という大きな枠組みに入る程侵食されているとは思えないのだが。
位階とレベルの違いもよく分からない上、クラスや所属も意味不明だ。まぁこれらは後でバルに説明してもらえば大丈夫だろう。
信仰が機神サクスザントというのは一体なんでだろう。恩寵を賜る神々は自分で選択できるか、あるいはランダムで決まるのかなどと考えていたが、どうやら固定されていたらしい。そもそもこの体の創造主であるからして、特に否やもないのだが。
別の項目も確認してみよう。
▼▼で挟まれた部分をタップすると、謎のマーク■や♦が出たり消えたりしている。これは直感的で分かりやすい。
HP、MP共に10、その他のステータスはオール5だが、まあ最初はこんなもんだろう。なにせこの体はボロボロに朽ちているのだから。細かな詳細は後ほど確認しよう。文字通りの気もするが、このゲーム独自の解釈などで想像するものと異なる仕様の場合もあるからな。
状態……。これは、どういう意味だろうか。キャラを作っている最中だから、何かしらの状態を無効にしている、というのは理解できるが、そもそも特に何もしていないのに、既に何かしらの状態にあるというのは、少しおかしな話だ。これも詳細不明。
そして、ついに恩寵である。既に一つ獲得しているようだ。その名も「欠け砕けた機械兵器」である。どのような試練で、どのような加護に変化するのか気になるが、それは後のお楽しみだ。
スキルも謎である。恩寵とは異なる何かなのだろう、というのは理解できるが、想像通りのあのスキルなのだろうか。
まぁ、一旦置いておこう。うん。
……称号は、まあそうだよなといった感じのものが3つ。ひとつは元々この種族に付けられていたもの、つまり種族称号だ。
もう1つはこの世界に訪れた際にバルが言っていた「旅人」という文言が含まれていることからも、恐らく全てのプレイヤーに付与される共通の称号だろう。
最後に神の被造物という称号であるが、これはまぁ説明のまんまだろう。機神が作ったのだから、文字通りである。
その後もしばらく各項目をポチポチと弄ってみたり、それぞれの文言がどのような意味をなしているのかを考えてみた。
「大雑把にでも確認は終了しかしら?では、一番重要な恩寵の話からしましょうか。恩寵の欄を2度ほど素早く触れてみてちょうだい」
丁度良いタイミングでバルが指示を出してくれた。ダブルタップね、なるほど。
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▼恩寵▼
■欠け砕けた機械兵器
┣♦片目欠損(右目)/視野半減
┣♦炉心崩壊/エネルギー常時枯渇
┣♦パーツ不足/全身のパーツ枯渇
┣♦兵装不足/兵装の枯渇
┗♦姿勢制御不安定/身体制御の難易度上昇(小)
▼神授可能恩寵一覧▼
■朽ち果てた再起動体
┣♦蝕まれた体/【物耐】・【魔耐】激減
┗♦朽ち果てた体/【装甲】激減
■歪み撓んだ古代骨格
┣♦歪んだ骨格/身体制御の難易度上昇(小)
┣♦撓んだ骨格/身体制御の難易度上昇(中)
┗♦折れた骨格/身体制御の難易度上昇(大)
■蘇りし遥か昔の悪夢
┣♦破損した古代の記憶/メモリー損傷(大)
┣♦喪われた技術の記憶/一部スキル使用不可
┣♦古代の悪意/MP自動回復速度低下(中)
┗♦激戦の爪痕/身体制御の難易度上昇(大)
■不完全なる古修復跡
┣♦片腕欠損(右腕)/右腕使用不可
┣♦背部損傷(中)/背部ブースター使用不可
┣♦劣化した装甲/【装甲】激減
┗♦自動修復機能損傷/自動修復機能完全停止
■植物に侵されし絡繰
┣♦火炎嫌悪/【火属性耐性】激減
┣♦システム不安定/搭載支援システム弱体化
┣♦入り込んだ根/一部機能使用不可
┗♦締め付けられた関節/身体制御の難易度上昇(中)
■残された命令の残滓
┣♦破壊衝動/【精神】激減
┣♦揺れ動く照準/ターゲット機能の不具合
┗♦意図しない動作/身体制御の難易度上昇(中)
■凄惨なる古代の呪怨
┣♦逃れられぬ呪い/被ダメージ増加(大)
┣♦震える指先/【器用】激減
┣♦竦む歪足/【速度】激減
┗♦過去からの視線/【運気】激減
■大破せし古代の武装
┣♦砕けた剣/古代の剣使用不可・【筋力】激減
┣♦破れた盾/古代の盾使用不可・【装甲】激減
┣♦折れた銃/古代の盾使用不可・【器用】激減
┣♦曲った杖/古代の杖使用不可・【魔力】激減
┗♦褪せた書/古代の書使用不可・【精神】激減
★創造主からの置手紙
┣♦機神の呟き/【絡繰兵・一兵卒】から開始
┣♦機神の囁き/幻聴・幻覚(特大)
┣♦機神の口遊/パーティ機能使用不可
┣♦機神の願い/この世界に絶望を与えよ
┣♦機神の懇願/この世界に混沌を与えよ
┗♦機神の慟哭/上記全ての恩寵を得よ
※選択した恩寵によっては、快適なゲーム進行に著しく深刻な影響を及ぼす可能性があります。
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うん。終わっていないか?これは。どう考えても無理があるだろう。
「欠け砕けた機械兵器だけでも下手したら詰みそうな試練なのに、他に追加可能な恩寵も含めて進行不可確定の内容ばかりだな」
それに、最後の他と違う★マークの恩寵、「創造主からの置手紙」、これにすごいこと書いてないか?状態異常は一旦置いておいて、種族が何やら「絡繰兵・一兵卒」からスタート……。エクス・マキナ・アポカリプスからではないのか……?
凄まじい試練だ。言葉もない。どういう仕様なんだこれは。それにパーティ組めません、世界に絶望と混沌を与えよ、上記の恩寵を全て得よ、って……。とんでもないな、機神とやらは。いったい私にどうなって欲しいのだ。
「改めて仕様について説明するわね。異界からの旅人は、自身の種族や信仰によって選択できる恩寵が異なるわけだけど、それらを自由に追加することで他者との差別化を図ることができるわ。また、特殊な種族に生まれ落ちた旅人は、一般的なものと比較してより尖っている特異な恩寵を、普通よりも多く選択することができるの」
なるほどと言いたいところだが、限度というものがあるのではないだろうか。これは流石にやりすぎたろう……。
「それから、特殊な種族は貴方も含めて★マークの恩寵を得られる場合があるのだけれど、それらはどれもが特別な効果を発揮し、多くの場合で一般的な恩寵よりも強力な加護を得られるようになるわ。代わりに試練の内容が筆舌に尽くし難いものになるのだけれど」
仰る通りですよ……。
こんなのまともにプレイさせる気がないデバフだ。私は今までかなりの数のゲームをプレイしてきたが、毎度この手のデバフには当然辛酸をなめさせられてきた。が、ほとんどの場合はそれぞれ個別に出てくるものだよ!
なぜひとまとめにした!どう考えても大爆発するに決まってるじゃないか……。
ふむ。まあバルの言葉を聞いた上で効果を読めば理解できるが、かなり過酷な試練である代わりに、加護に変化した暁には想像もつかない強力な効果に変わるそうだ、
しかし、この機神の慟哭の効果が選択しようとする決意を鈍らせる。
これを選んだが最後、きっととんでもなく辛いゲーム体験になること間違いないだろう。無難な選択の方が、結果的に楽しいゲーム体験を得られる可能性が高い。果たしてどうするべきか。
「ああそれと、今現在はキャラクターメイキング中ということで、貴方が既に授かっている『欠け砕けた機械兵器』のデバフ効果は、特別に無効化されているわ。貴方も片目の視界ではなく、恐らく両目での視界で周囲を見ていることからも既に理解できていると思うけれど」
無効にされている状態ってのはこれか。
言われてみればそうだ。先程見た姿見でも、私の右目は青色に輝いていなかった。しかし、今は普段通り両目で見るように当たりを見渡せているし、視野が半分になっているとも感じない。
つまり、今得ている一つの恩寵だけでも、本来なら視野が半分になり、エネルギーが具体的になにかは分からないが常に枯渇し、パーツ、兵装も枯渇、その上で身体制御の難易度が上昇しているとかいう、文字通りバカみたいな状態ってわけだ。
これ、仮に全ての恩寵を得たら、仕様によってはまともに動くことすらできないのでは?
「バルよ、仮に創造主からの置手紙を得た場合、当然他の恩寵全てを得た上でとんでもないデバフを負うことになるわけだが、幾つか効果が重複しているだろう?この仕様ってどうなっているんだ……?」
「効果が似通っている試練も、当然重複するわよ?だからあなた、満足に体を動かすことすら難しいんじゃないかしら?」
……うむ。改めて、これは無理だろう。中には得てしまったが最後、満足にプレイできそうにないデバフがある。これをどう克服しろって?そもそも克服ってどうすればいいんだ。
「これらを克服するとはつまり、何をどうすればいいのだろうか……?」
「少し前に恩寵は試練でもあるって言ったでしょう?つまり、何か大事を乗り越えた時、重荷だった試練は強力な加護に変化するのよ。そうねえ、ズバリ、何か大きなことを乗り越える!ということよ。分かりやすいでしょう?」
たしかに分かりやすい!が、凄く曖昧な内容だ。レベルアップか、進化か、位階なる数値が変化したらか。あるいはプレイヤーによってそれぞれ異なる、壁のような物を乗り越えた時か。それは分からないが、とにかく何か大きなことを成せば何かしらの変化は起きるということだ。
「理解できたかしら?これが恩寵の試練によるデバフよ。ちなみに、この世界には様々な恩寵が無数に存在するわけだけれど、中でもこれらはトップクラスに強力なマイナス効果ね」
うん、正に地獄である。まあ少し考えてみれば理解できるが、身体制御の難易度が上昇するってだけでもとんでもないのに、各種ステータスが激減するのも非常にまずい。これでどう成長すれば良いのだろうか。
種族も「エクス・マキナ・アポカリプス」とかいう聞くだけで強さを感じるものではなく、一応機械兵?ではあるが、全く強そうに聞こえない「絡繰兵・一兵卒」に退化してしまうらしいし。
「しっかり考えて、その選択に後悔がないようにしてちょうだいね?何を選ぶのも自由なのよ。つまり「欠け砕けた機械兵器」のみでゲームを開始することもできるわ。種族も「エクス・マキナ・アポカリプス」で始められる。納得できるまでよく考えてちょうだいね?」
これはAIを通したゲームをデザインした人達からの警告のようなものだろう。満足にプレイできないかもしれませんが、それでもプレイを続行しますか?といった風の。
きっとおかしな種族を選んだ多くのプレイヤーが私と同じように警告されているはずだ。……彼らはどう選択するのだろうか。
「仮に『欠け砕けた機械兵器』のみを選択してゲームを開始した場合、例えば『大破せし古代の兵装』は使用できるのか?」
「ああ、無理よ。ここに表示されている恩寵は、それぞれ偶然と運、それから神々の気まぐれによる部分が強いから、プレイヤー毎に内容が大きく異なるわ。選択した種族によってその振れ幅は千差万別で、例えばヒューマン一つとっても全く異なる外見になる場合もあるのよ」
同じ種族を選んだとしても、賜る恩寵の内容によっては、例えば手足が繊細な動きが可能な触手に変化する代わりに操作難易度が上昇したり、その種族特有の器官がついてない代わりにとんでもない機能を持った特殊な器官がついてたり、みたいな場合も有り得るのか。
「あらゆる世界線の、あらゆる有り得た可能性の中から、無数の選択肢を抽出しているの。手が複数あるヒューマンがいるかもしれないし、耳が短いエルフもいるかもしれない。常に燃えているかもしれないし、濡れているかもしれない。植物に侵されているかもしれないし、特殊な機能が封じられているかもしれない。それらを上手く克服すると、きっとその苦労に見合った加護が得られるわ」
仮に同じような恩寵しかないのなら、当然みんな似通った姿形になってしまうだろう。ポラリスがそんな退屈なことをするだろうか。いや、絶対にしないだろう。
私の場合は目や腕などの部位が欠けていたり、装甲の一部が傷ついていたり、あるいは搭載システムの一部にに不具合があったりなど、引き算の特徴が強い恩寵が多数あるが、人によっては元々は存在しない何かが付け足されていたりする場合もあるのか。
私の特殊な種族は、その唯一無二性故に元となる普遍的なイメージが欠如しているので、他者との比較ができない。どんなにおかしな機能や武装の存在を示唆する恩寵が来ても、それが本来そうあるべき姿、みたいに認識してしまう。
ここに火炎放射器が付いていても、いなくても、元々のエクス・マキナ・アポカリプスに付いていたかは分からないのだ。
あるいは元の世界には朽ちたエクス・マキナ・アポカリプスの残骸なんてのは今のところ存在してなくて、私がエクス・マキナ・アポカリプスという種族になるぞ!って選択した瞬間にそういった歴史が作られたのかもしれない。
つまり、ただ表示されている恩寵の内容が全てなのだ。反面、例えばこれがヒューマンやエルフなどのパブリックイメージがしっかりしているキャラなら、きっと私以上に面白い恩寵を得られて、その結果に一喜一憂したに違いない。
「まずい、何を考えているんだ……。一周まわって混乱してきたな……」
う、うう。おのれGoAめ、私に処理しきれない情報量を垂れ流すな!つい色々と小難しいことを考えてしまうではないか。
「ああもう、どうなってもいいさ。どうせ私はこの世界でただ一つの機械兵器になるのだから。後は野となれ山となれ、『創造主からの置手紙』を得ようじゃないか。もうどうにでもなれ!」
「貴方の得ようとしている恩寵は、ゲームプレイに深刻な影響を与える可能性があるけれど、本当に大丈夫かしら?」
「男に二言無し!」
「おめでとう、『創造主からの置手紙』の効果により、表示されている全てよ恩寵を授かったわ。貴方がこれらの試練を克服し、素晴らしい加護を得られることを願っているわ」
種族選択と同じように、バルの乾いた拍手と共にファンファーレが鳴り響く。
うう。しかし、何事も挑戦と言うじゃないか。だからこれでいいのだ。せっかく唯一無二の種族になれたのだから、平凡な選択などつまらないだろう。これがヒューマンやらエルフであったならまた別の話だが、生憎と古代の機械兵器だからね……。
「では、改めてステータスを確認してみましょうか。今度は、『ステータス』と呟いてみてちょうだい」
「ステータス」
言われた通りにすると、先程のウィンドウが表示された。その内容は先程と比較して全くの別物だが。
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
▼基礎情報▼
♦名前:ルイス
♦種族:《絡繰兵・一兵卒》
♦属性:機械/植物
♦位階:1
♦レベル:1
♦クラス:なし
♦所属:なし
♦信仰:機神サクスザント
▼ステータス▼
♦HP:10/10
♦MP:10/10
♦筋力:5(-75%)
♦魔力:5(-75%)
♦装甲:5(-225%)
♦物耐:5(-75%)
♦魔耐:5(-75%)
♦速度:5(-75%)
♦器用:5(-150%)
♦精神:5(-150%)
♦運気:5(-75%)
▼状態▼
■部位欠損(右目・右腕)
■部位損傷(メモリー・背部ブースター)
■幻聴・幻覚(特大)
■被ダメージ増加(大)
■火属性耐性(-75%)
■身体制御難易度上昇(超特大)
■MP自動回復速度低下(中)
■自動修復機能停止
■一部機能使用不可
■ターゲット機能不具合
■パーティ機能使用不可
▼恩寵▼
★ 創造主からの置手紙
■欠け砕けた機械兵器
■ 朽ち果てた再起動体
■ 歪み撓んだ古代骨格
■ 蘇りし遥か昔の悪夢
■ 不完全なる古修復跡
■ 植物に侵されし絡繰
■ 残された命令の残滓
■ 凄惨なる古代の呪怨
■ 大破せし古代の武装
▼スキル▼
♦なし
▼称号▼
♦【異界からの旅人】
♦【幾つのデバフを背負えば許されるのか】
♦【誰を狙うべきか分からぬのだ】
♦【孤独を好む】
♦【数多の試練に挑みし者】
♦【この体が動いてたまるか】
♦【神の被造物】
♦【機神の寵愛を受けし者】
♦【先なる世界に絶望を齎した機械兵器】
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こ れ は ひ ど い 。
どうしたらこうなるのか……。果たして私は体を動かすことができるのか……。とんでもないことになってしまった。しかし、なってしまったからには、後は楽しむだけだ。
「その他の細かい仕様の説明は、オプション欄のヘルプ機能で確認するか、サポートAI窓口にまでお問い合わせ下さい。はい、お仕事終わり。あ〜、疲れたわ。ん、かなりの時間が経っちゃってるわね」
「そうだね……。もう既にこのゲームを開始してからもう1時間弱経ってるよ。まあでも、その分色々と楽しみが増えたから、よしとしよう」
かなり出遅れてしまったが、この特殊な種族なら直ぐに追いつけるだろうし、きっと私以外にも多くのプレイヤーがこの位の時間をかけて丁寧にキャラを作っているに違いない。
「さて、最後に二つ伝えておかなくちゃいけないことがあるわ。まず一つ、特殊な種族に生まれ落ちる場合、所属や初期スポーン地点がその種族固有の特殊なものになる場合があるわ。一つ、スポーンしたら、オプションにあるプレゼント欄からプレゼントを受け取ってちょうだい。事前予約特典、それからランダムスキルチケットがあるはずだから、忘れずにね」
「了解。最後までありがとう、バル。感謝してるよ」
「これが私の仕事だから、気にしないで。さ、ではそろそろお別れの時間ね。準備は良くて?」
彼女がその指をパチリと鳴らすと、目の前に見るからにワープできますと言わんばかりのエフェクトと共に穴が生じた。ここに入れば、私だけの冒険の始まりだ。
「準備はできてるよ。いざ、異形の世界へ!」
各話約一万文字というのは、些か多すぎたかなと反省しています。
自分で改めて読んでみましたが、この文量は少し読みにくいなと感じます。それぞれ半分ほどに分割すればよかったですね……。
それから、一部の表現に用いる数字をアラビア数字か漢数字かのどちらに統一すべきか悩んでいます。どうにかいい塩梅にできないものでしょうか。
今後は読みやすいよう各話3000〜5000文字ほどにしていきたいと思います。




