第2話『種族選択はくじ引きで』
気が付くと目の前に、背に毟られて朽ちた黒い翼を生やした、樹皮のような皮膚を持つ人型の女性が、ロッキングチェアに腰掛けていた。
ただゆらゆらと前後に揺れるその様は、見た目も相まってとんでもなく不気味だ。
樹皮のように乾燥し、ひび割れた顔にあるつぶらな瞳は、あらゆる光を飲み込んでしまうのではないかと疑ってしまうほどの漆黒だ。
周囲は完全な暗闇に包まれているにもかかわらず、彼女の周囲にだけ、まるでスポットライトが当たっているかのように淡い光が差している。
「ごきげんよう、あなたは外なる世界から来た旅人ね。私はサポートAI【黒なる翼の枯れ木】のバルドゥーマ。貴方のキャラクターメイキングの手助けをさせていただくわ。短い間だけど、どうぞ宜しく」
バルドゥーマと名乗った女性は、にこりと微笑み、漆黒の瞳でじっと私の顔を見つめた。どうやら彼女はキャラクター作成を手助けしてくれる特別なAIのようだ。
ちなみに私の今の格好は、全身ピッチリ黒タイツの変態である。これはきっとキャラメイキング時のデフォルト姿なのだろう。私の笑える格好が、彼女の斜め前にぽつんと設置された姿見にバッチリ映ってる。
VRMMOには事前にキャラクターを作成できるものや、ゲーム内での特別な仕様で作成できるものなど、開発企業やジャンル、設計思想によって千差万別の形態をしているが、この本作はゲーム内でキャラメイクを行うものだ。
しかし、
「黒なる翼の枯れ木……バルドゥーマさん……」
二つ名のようなものだろうか。
彼女個人を指す称号のようなものに聞こえるし、あるいは彼女が所属する組織の名前なのかもしれないが、今手元にある情報のみでは正確な判断がつかない。
まぁそれが分かったところで、という話ではなかろうか。
しかし、どこか凄みのある響きだ。
「“さん”は要らないわ。バルでもドゥーマでも、バルドゥーマでも。好きに呼んでちょうだい」
そして意外と彼我の距離が近い。
闇落ちした喪女のようなおぞましい外見からは想像もつかないほどフレンドリーで、彼女の一挙手一投足に驚いてしまう。
「さて、そんなことは置いといて。今は、あなたについて色々と決めなければならないの」
「ええと、了解。とりあえずバルと呼ばせてもらうよ。それで、まずは何をすればいいんだ?」
予想外の言葉に軽く咳き込みながら、戸惑い気味に答えると、バルドゥーマは再び微笑んだ。
彼女の朽ちた枯れ枝のような指が、パチリと軽やかな音を鳴らすと、その手元に朽ちかけた万年筆と薄汚れた紙の束が現れる。彼女はその万年筆を下唇に押し当てると、首を傾げて私に尋ねた。
「まずは、あなたの名前から教えてくれるかしら?」
どうやら、そこにプレイヤーの各種設定を書き込んでいくらしい。また、彼女の所作一つ一つがとても女性らしく、大変可愛らしい。
「じゃあ、ルイスで。」
私は普段からゲームでよく使っている名前を口にした。自分の名前――琉生を「ルイ」と読み替え、そこから海外風の「ルイス」へと変えたものだ。単純な名前だが、かなりのお気に入りである。
「あら、いい名前ね。貴方にぴったりだわ。次は種族を決めるわ。目の前にウィンドウが表示されたかしら?そこに幾つかの候補があるから、気になるものを探してみて。」
彼女がそう呟くと、目の前にウィンドウが表示され、そこに種族称号と種族名、そして簡単な説明が並んでいた。また、それぞれの種族名に触れると、その種族のアバターが男女別々の姿で表示される仕組みであるようだ。
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【中庸にして賢愚の民】
種族名:《ヒューマン》
説明:あらゆる環境に適応することが可能な最もオーソドックスな種族。これといった特技を持たない代わりに受容可能な恩寵の種類が多く、また人口が最も多い種族である。この狂った世界に生きる彼らの逞しさは、並大抵のものではない。森に山に海にと、あらゆる環境で生きていくことができる。適応した環境によって肌の色や姿形に小さな変化が生じるが、しかしヒューマンはヒューマンである。
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中庸にして賢愚の民……まんま人間のことであるらしい。数多く存在する種族の中でも、特に多くの種類の恩寵を授かることが可能な種族で、この世界で最も広範囲に存在している種でもあるようだ。最後の文言はパンチが効いていて面白いな。
この過酷な世界の中で、きっと他者と反目して生き残ることができる余裕は存在しないだろうし、これは何かしらに対するメッセージだろうか。
あるいは、ゲーム内にそういった国や種族が存在するのを示唆しているのかもしれない。……なになに至上主義みたいな。
姿は本当に一般的な人種って感じだ。これといった特徴もなく、全くのプレーン。私にとっては最も馴染みのある姿をしている。
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【古を詠い魔を寿ぐ笹穂耳】
種族名:《エルフ》
説明:深い森に住まう、この世界に生きる者達の中でもとりわけ古くから存在する種族。魔法に強い適正を持ち、また他の種族と比較しても、より長寿であることが特徴である。魔法に関する恩寵を多く受容することができる。人口は少なく他種族に対して極めて排他的であり、エルフであることに強い誇りと拘りを持っている。長年に渡って叡智を積み重ねてきた特殊な個体は、特別な種へと進化することが可能である。この世界の歴史について知りたいなら、まずは彼らに尋ねてみると良いだろう。
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笹穂耳、エルフの耳のことだ。古くから存在が確認されていて、魔法に対して強い適性を持つらしい。そういうプレイがしたいならエルフを選ぶべきだ。
人口は少なく、かつ排他的。叡智を集めながら歳を重ねた特殊な個体は、別の種に進化できるらしい。恐らく多くの作品でハイエルフ等と呼ばれている存在だろう。
このゲームの世界観や目的について詳しく知りたいなら、彼らに聞くのがその第一歩になるようなことが示唆されているようだ。
長くとんがった耳を持つことに加えて、男女共に細身で美形だ。髪もサラサラしていて、指でアバターの全身を見ようと左右に回すと、それに従って髪がサラサラと揺れるのが面白い。
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【穴を穿ち鉄を束ねる鶴嘴金槌】
種族名:《ドワーフ》
説明:深い谷底に住まう、金属を採掘してそれを加工し、また酒を醸造して飲むことに目がない種族。金属加工に強い適性を持ち、また他種族と比較してもとりわけ頑丈であることが特徴である。金属加工に関する恩寵を多く受容することができる。世界中に中程度の人口が居り、強大な勢力を誇る彼らだけの国も存在する。奔放で賑やかな性格のため他種族と上手く融和し、彼らの持つ特殊な技術を学ぶことで多種多様な技術を発展させてきた。身を守るための装いを欲すなら、彼らに頼む以外の選択肢など存在しないだろう。
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ドワーフだ。金属加工、つまり武具や金属製の何かを作ることに強い適性を持つ種族であるらしい。いわゆる生産職とか、そういった役割を担いたいならドワーフがいいのかもしれない。
わざわざ金属加工と記載している点を鑑みるに、きっと木工や機織など、異なる材料を元にした生産職に適性を持つ種族もいるのだろう。
また、ドワーフ主体の大きな国が存在するらしい。もちろんドワーフとは異なる種族主体の国も数多く存在するであろうし、そういった国々を巡るのも楽しそうだ。
男女共に他の種族と比較してやや小さな体だが、男性は筋肉質で太い手足を持っているようだ。女性は全体的に幼さが残るちんまい佇まいである。
これら主要な種族以外にも、多種多様な種類の種族が存在し、それぞれに異なる適性や特性が存在していることがとても興味深い。
きっと多くのプレイヤーはそれぞれのプレイスタイルに適した種族を選択するのだろう。
恩寵というのがどういったもので、アバターにどのような影響を与えるのかがショップの紹介画像でしか確認できなかったが、恩寵無しでは生きていけないという世界観を考えるに、きっと悍ましい力なのだろう。
この三つ以外にも、数十分もの間、様々な種族を眺めていたが、ふとバルを待たせていることに気が付いて慌てて尋ねた。
「すまない。興味深くてついじっくりと眺めてしまっていた。いつ頃までに済ませば良いだろうか」
私の慌てぶりが面白かったのか、彼女は淑女のように細指を口元に当て、目を細めてクスリと微笑んだ。
「あら、気が利くのね。気の済むまで悩んでちょうだい。中途半端な情報のまま選んでも、きっといつか後悔するに違いないわ」
「その通りだ。感謝するよ」
バルの言葉に従って気の向くままに情報を集めていく。しかし、多くの種族を検討していく中で、特にこれといってやりたい種族が見つからないことに気がついた。
どれもありきたりで、今までプレイしてきたゲームと大して変わらない選択肢だからだろうか。
もちろん普段プレイするようなゲームには存在しない特殊な種族も存在するが、それぞれに記載された説明文を見る限り、他の有名な種族との細かな差異があるだけのように見えてしまった。
「うーむ……」
「随分と悩んでいるようね。そんなあなたに、とっておきを教えてあげましょう」
どうやら長時間うんうんと悩んでいた様子があんまりにもだったらしく、バルが助け舟を出してくれるらしい。
「気になる。そのとっておきとは?」
「あなたの種族選択、これに委ねてみるのはどうかしら?」
そう言うや否や、彼女は先程と同じように指を軽く鳴らした。すると、やはり突然彼女の腕の中に小さな箱が生じた。見た目は普通の木箱で、ある一面に丁度手が入りそうな位のサイズの穴がポカリと空いている。
「その箱は?」
「この箱の中には、この世に生きる数多くの種族の名前が書かれてるだけの紙が、小さく折られて沢山入っているの。中に手を入れると、箱に込められた力で貴方の指が何枚かの紙を自動で摘んでくれるわ。するとあら不思議、ランダムであなたにオススメの種族が見つかるって仕組みよ」
「なるほどね……?ランダムでオススメねえ」
オススメの種族か。確かにこれといってなりたい種族も見つからなかったし、そういった人のためにはこのような仕組みは役立つに違いない。当然私も長時間頭を抱えたわけで。
いつまでも悩んでいるだけなら、バルの勧めに従うのも選択肢としては当然有りだ。
こくりと一つ頷くと、バルの持つ木箱の穴にゆっくりと右手を差し込む。すると、自分の意思とは関係なく紙を軽く掻き回した後、しばらくして右手の手首から先の感覚が無くなってしまった。
「大丈夫、後は手を引き抜くだけよ。そうしたら、指と指の間に何枚かの紙が挟まっているはずだわ」
なるほど。なら安心だ。
感覚が消える前に、手を包み込む細やかな紙を感触がこしょばゆかった。いったい何枚の紙が封入されているのだろうか。
もしこの箱の中にある紙一つ一つに別々の種族の名前が書かれているなら、先程のウィンドウに表示されていた種族の何十倍も多くの種が存在することになる。
「ああそう、言い忘れていたわ。私ったらついうっかりうっかり。その紙一つ一つに違う種族が書かれているから、きっと凡庸な種族にはならないと約束するわ」
私の思考を読み取ったかのように言葉を投げかけてくるバル。思わずジッと彼女を見つめてしまった。
それに対し、彼女はただニヤリと笑って返すのみだ。ドリーム・スケイルには当然脳波を用いる技術も使われているため、思考の波のようなものを読み取ること自体は造作もない筈だが、ここまでクリアに読んでくるものなのだろうか。
まぁ、今は置いておこう。艶やかな顔をした彼女に、少し空けてから確認の意味を込めて返す。
「それ、本当に?」
「本当に。」
どうやら本当らしい。つまり……
「つまり、この箱を使用することでしかなれない種族も存在するっていう認識で大丈夫だろうか?」
「ええ。その通りよ。そんなの当たり前じゃない。何百何千、下手したら何万も存在する種族を全部吟味するなんて、一体どれだけ時間をかけるつもりなのよ。そんなことしていたら、いつまで経っても終わらないわ」
なるほど?
一理どころか百理くらいあるが、いやしかしだ。
「ただそれだと、この箱を利用するのとそうでないのとで、選べる種族数に格差が生じてしまうように思うが…」
そんなことを考えても、まあ詮無きことか。
しかし、そう、これだと異なるプレイヤー間でのゲーム体験に明確な差が生じてしまうのではないだろうか。例えばこの箱を利用して他者の何れもがなれないような種族になってしまったら、きっと厄介なことになるに違いない。
こんなことを気にするユーザーは少ないのかもしれないが、少なくとも私は正々堂々と遊びたいのだ。そう、瑕疵を抱えたまま《《彼ら》》と戦っては、気持ちよくないではないか。
「ああ、その話なら大丈夫よ。さっきのあれ、予め答えて貰った質問を受けて、その回答を踏まえたオススメの種族を幾つかピックアップして表示していただけなの。だから、基本的には皆それぞれ異なる種族が表示されているはずだから、心配いらないわ。」
「なるほど。」
ところで、
「質問?」
質問なんかあったか……と思ったところでふと思い出した。そういえばそんなものがあったと。
「予約の時のあれか……」
確か、GoAをショップで予約する際に、そんなのがあったような、或いはなかったような……だいぶ前の話なので曖昧だが、信じられないくらいの量の質問があったのをなんとなくだが思い出した。
昨今のVRMMOでは特に珍しくもない。ゲームをプレイする前に幾つかの簡単なアンケートに答えて、そのデータをゲーム開発の際に利用するのだ。
大半はゲーム内で使用できるアイテムと引き換えに行っているが、たしかGoAにもそのようなものがあった気がする。
嫌な記憶だったからか、すっかり忘れていたよ。他のゲームと比較して、大分多くの項目があったのを思い出した。なるほど、つまりその質問の答え何如によって、表示される種族が異なるのか。
「ただ、この箱は以前答えてもらった質問をある程度は参照するけど、多くの部分をその場の乱数に委ねているの。つまり、運よ!」
身も蓋もないことを言うもんだなとバルの顔を見つめる。ある程度はプレイヤーの傾向にあった種族が選ばれるが、運という要素も当然介在している、と。
「だから、結果次第では首を傾げたくなるような種族が出るかもしれない。それを理解した上で引いてちょうだい。」
乱数ね。なるほど。
「委細承知、運だな。」
よし、男は度胸!そい!
引き抜いた右手の親指と人差し指の間に2枚、中指と薬指、薬指と小指の間にそれぞれ1枚の、計4枚の紙が挟まっていた。
「じゃあ、その紙を開いてみなさい。そこに貴方にオススメの種族が書いてあるはずよ。」
よし。ドキドキを抑えつつ、1枚目の紙を開く。
すると、小さな紙の中に文字が書かれていたが、どうやらウィンドウとして表示されるらしい。
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【自然共に生き死にする純粋】
種族名:《マテリアル・フェアリー》
説明:この世界が荒んでいくに従い数を減らし、現在では数える程しか存在していない希少な種族。彼らは自然と共に生き、そして自然と共に死んでいく運命だ。自然を操ることに強い適性を持ち、また自由に空を飛べることが特徴である。自然操作に関する恩寵を多く受容することができる。自然と共に死んでいく運命なら、当然この世界でも特に珍しい存在であろう。この世界がなぜこうも荒れ果てたのか、彼らにはその本質の一旦が見えているのかもしれない。しかし、それを彼らに尋ねることは禁忌である。何故なら彼らはそれによって数を減らし、命を失ったのだから。
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な、なるほど……この荒れ果てた世界で、自然と共に生き死にする種族か。どう考えても希少な種族であり、特別な恩寵を持つに違いない。
ただ、豊かな自然があるとは決して言い難いこの世界で、果たして生きていけるのか、という疑問は残る。
ドワーフよりも少し小さな体に、透けている一対の羽が生えている。鮮やかな緑色の髪と瞳を持ち、周囲にはカラフルな光が明滅している。
まあ、候補その一である。
次だ。
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【火を吐く曲がり角と翼の末裔】
種族名:《ドラゴノイド》
説明:荒れ果てた世界でも尚、その力強さと精強さに微塵も翳りはない。大空を舞い、灼熱の火を吐いた偉大なる先祖から枝分かれした種族。龍魔法に関する恩寵を多く受容することができる。その強さは荒れ果てたこの世界でもなお一目置かれるほどのものであり、この世界を覆い尽くさんとする悪意を灼熱の息吹で消し炭にするだろう。彼らの操る魔法は他の魔法よりも原始的なものであり、それはつまりより危険であるということだ。
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ドラゴノイド、龍人かな?偉大なる祖先というのは、恐らくドラゴンだろうか。龍魔法というのも、響き的にもかなり強力なものなのだろう。
そして、この世界を覆い尽くさんとする悪意……?先程から、種族の説明で何やら重要なことがポツポツと書かれている気がしないでもないが、まあこれは一旦置いておこう。
基本的にはヒューマンと大差ない容姿だが、側頭部から天へと向かって生える曲がり角と、マテリアル・フェアリーのそれよりも肉々しい翼を持っている。また、額や手足の一部を鱗が被っていて、結構格好良いと思った。
次だ。
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【醜悪極マル世界ノ簒奪者】
種族名:《アビステイカー》
説明:彼ラハ世界ヲ簒奪セシ悪意アル種族デアル。彼ラハ個ヲ以テ集トシ、又集ヲ以テ個トスル特殊ナ特徴ヲ持ツ。彼ラニクレテヤル恩寵等無イ。其ノ醜悪ナルヲ以テ世界二仇ナス貌ハ、コノ世界トハ相容レヌノダ。
汝、ヨク考エテ選択ヲスルコトダ。選択ヲ誤レバ、決シテ逃レル事ノデキナイ、大イナル災厄に襲ワレルダロウ。
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おい、これが原因だろ、この世界が荒廃しているの!
どう考えても地雷種族だし、恩寵を受けることができないとか、このゲームを楽しむことすら不可能じゃないか……。気になることが山のように羅列してあって、どうしたらいいのか分からなくなったじゃないか……。
その姿は歪で、汚泥や砂のようなものを無理に人の枠に押し固めたようで、見るからに悍ましい姿をしている。顔には目と口にそれらしい窪みがあるが、本当に窪みがあるだけだ。
こんなの、選ぶやついるのか……?
次だ。次!
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【先なる世界に絶望を齎した機械兵器】
種族名:《エクス・マキナ・アポカリプス》
説明:この世界が大いなる邪悪に覆われるよりもさらに古の時代、世界に混沌を齎した古の機神が手ずからに鍛え上げた唯一無二の機械兵器。あらゆることが秘密のベールに隠されたこの機械兵器は、一体何を目的に作られたのか。今は朽ち果て、動かぬただのガラクタに過ぎぬが、いつか本来の力を取り戻した時、その時こそ、この世界は真なる終焉の時を迎えるのかもしれない。
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先なる世界?に絶望を齎した?機械兵器?ひとつも分からない。混沌を齎した機神?ますます分からない。何がなんなのだ。
なにやら重要そうな情報がポツポツと載っているが、朽ちてしまっているのか。動かぬガラクタに過ぎない……ふむ。
外見は説明通り、本当に朽ちた機械人形といった風貌である。所々を苔や植物に覆われ、本来は強烈な光を放っていたであろう胸元や瞳は弱々しい光を放つのみだ。
以上が私が引き抜いた手に握られていた種族たちである。どれも色物だが、バル曰くとんでもない数の種族が存在している世界であるからして、きっとここに表示された種族よりも更にとんでもない奴がいても何らおかしくない。
マテリアル・フェアリーやドラゴノイドも、確かに記載通りの希少な種族なのだろう。説明文を見ていてもそれは伝わる。
ただ、こと唯一性という側面で見れば、この機械兵器は唯一無二の種族に違いない。
言い方は悪いが、きっと希少だと言いつつも、多くのユーザーがこういった希少だと言われる種族になって生まれ落ちてくるのではないだろうか。マテリアル・フェアリーやドラゴノイドも、きっと例外ではないだろう。
アビステイカーは論外だ。誰が好き好んで害獣に身を窶すのか。
と言った理由から、実質エクス・マキナ・アポカリプス一択である。
「バル、待たせてすまない。私はエクス・マキナ・アポカリプスになるよ」
私はそういいながらその種族名が書かれた小さな紙をバルに手渡した。彼女は若干の驚きもありつつ、どこか納得した様子で呟いた。
「まぁ、この中だとそれしかないかも。じゃあ、そういうことで、貴方はこれからエクス・マキナ・アポカリプスです。おめでとうございます」
世界に終焉を齎す《《かもしれない》》種族になったというのに、彼女は呆気からんとしている。彼女はこの世界がどうなっても良いのだろうか?いや、何やら特殊な称号の付いているサポートAIらしいし、きっとゲームを俯瞰して見ているのだろう。
彼女が紙に何かを書いたあと、そのペンを膝上に置いた紙の更に上に置き、朽ちた枝のようなその手で拍手をする。
ぱちぱちぱち
子気味よいファンファーレが小さな音で鳴り響き、空間を虹色の光が満たした。
そんな状態が10数秒続く。彼女はニコリと微笑んで私を見つめるのみで、乾いた拍手をする以外に小動もしない。な、なんだこれは。
漸くファンファーレと目に悪い光が収まると、彼女は再びペンを手に取り、話をしだした。
「おめでとうございます。これにてあなたは正式に《エクス・マキナ・アポカリプス》になりました。さて、では取り急ぎアバターを変えちゃいましょう」
そう言うと、彼女はパチリと指を鳴らした。すると、私の真黒の全身タイツの様なアバターから、蔦やよく分からない植物に侵食されつつある、朽ちかけの人型機械に姿が変わった。その姿は姿見でバッチリと確認出来る。
コア部分と呼べば良いのか、骨格に相当するパーツは黒色に、その上を覆っている装甲のような部分は燻んでしまっているが、白色である。
骨格や装甲の間から僅かながらオレンジ色の配線の様な物が頭をのぞかせていて、それがアクセントとして中々どうして、似合っているのではないだろうか。
胸の中心には僅かにだが赤い光が点っていて、途絶えては点灯し、途絶えては点灯しというのを不規則に繰り返している。
ただ、顔の部分のみ黒い影で覆われているようで、少し不気味だ。
「この種族の場合は顔と全身の僅かな装飾を変えることができるのだけど、どうしましょうか」
ふむ。私は少し悩んだが、ある程度いじろうと思う。こういうのは凝った分だけ愛着が湧くものだから。
ただ、いい加減私もゲームをプレイしたいので、ゲーム側があらかじめ用意してあるテンプレに則ったものにしよう。
「私の顔のスキャンデータが端末にあるはずだ。それを参照し、いくらか改変しようと思う。適当に少し変更してくれないか?」
そう尋ねると、即座にそれが反映された顔が姿見に映った。悪くないな。男前である。
姿見の前で角度を変えてイケメンを堪能する。
そうだな、髪色と目くらいは変えておこうか。髪は装甲に合わせて白に、目は、機械っぽい緑や青が良いが……ふむ、まぁ青でいいか。よし。
片目のパーツが破損しているのか、青色の光が点って見えるのは左目のみだ。視界は両目分あるのが不気味であるが、まぁ、なんだかそれすらも格好良いではないか。
「どうだろうか?」
私は少し胸を逸らしてバルに尋ねた。
「はて、まぁ良いんじゃないかしら。私にその類の審美眼を求めないでちょうだい。こう見えて、そこら辺は大雑把なのよ」
……なるほど。大雑把。
その他に細かな装飾を変更し、いくらか自分の感性に刺さった容姿にしたところで満足した。
「さて、次はいよいよ恩寵の時間よ。準備はよくて?」
「もちろん。」
私はいよいよかと胸が踊った。
推敲が十分でない部分は後ほど訂正させていただきます。




