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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第二章▼避難所から始まる地下研究所探索▼

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第23話『哲学』

 VR部門にて、日間、週間ランキングが1位になっていました!


 これも読んでくださる皆様のおかげです、本当にありがとうございます。今後もより一層面白い作品になるよう、精進していきますので、どうぞ応援よろしくお願いします!

 必要な素材を取り除いた後に残ったその死骸からは、ある種の悲哀が感じられた。かつては私と死闘を繰り広げた巨体も、今ではただの肉塊に過ぎないのだ。


「下手したら私もこうなっていた可能性があるのが怖いね」


 私はまだ一度もデスポーンを経験していないが、掲示板からしっかりと情報を手に入れている。曰く、死後もしばらくは死体として残り、その後に光の泡となって霧散していくらしい。


 スポーン地点を街などで更新していない場合は、生まれ落ちた場所で目が覚めることになるそうだ。


「まだ一度も死んでないから、折角なら長生きしたいね」


 《神より特別な恩寵を与えられた旅人は、この世界の住人と違って何度でも蘇るのです。なぜ死を恐れるのですか》


 ふむ。それは、なぜだろうか。


 考えてみれば当然だが、死ぬのは本来恐ろしいはずなのだ。二十二世紀の現在でも、死は極限まで遠ざけることはできても、完全な克服はできなかった。今でも死は普遍的な、根源的な恐怖として絶対の法である。


 しかし、ゲームの中ではそうではない。死んでも何度でもやり直せるし、作ったキャラクターが気に入らなければ何度でも作り直せる。


「そうだね、たしかに不思議だ」


 私は穴だらけになった銀索蜘蛛の甲殻に左手を置き、その生物らしからぬ冷たさを感じた。


 私は心のどこかでそれを嫌っているのだ。


 ゲームをしていれば、当然何度でも死ねる。上手くいかなければ、キャラクターを消して作り直すこともできる。もっと効率の良い選択肢があるなら、そちらへ乗り換えればいい。失敗したらリセットして、損をしたらやり直して、気に入らなければなかったことにする。


 そういう遊び方を否定するつもりはない。ゲームとは本来、そういう自由を許容するものでもある。


 だが、私はそればかりの考え方が好きではなかった。


 本来なら危険な冒険はもっとスリリングであるべきだ。常に命の危機に晒され、失えば終わるものを抱えながら、綱渡りのような一歩を進むからこそ美しいのだと思う。


 これを求める私が特異なのか。外れ値なのか。それは分からない。


 しかし、私のこの哲学に従うならば、当然死ぬことは極力避けるべきだし、死なないように強くなるべきだ。そのための努力も必要不可欠である。


 所詮ゲーム。


 そんな言葉で済ませるには、ここはあまりに鮮烈すぎる。


 肺を持たないはずの身体で空気の冷たさを感じ、血の通わない指先で甲殻の硬さを知り、心臓の代わりにリアクターが駆動する音を聞く。壊れた街の暗がりを歩けば、壁にこびりついた錆の臭いまで意識の奥へ染み込んでくる。


 ここは私にとって第二の現実なのだ。


 普通の人が過ごす当たり前の毎日が、私にとっては当たり前ではない。走ることも、跳ぶことも、全身を軋ませながら怪物と殴り合うことも、本来なら決して許されない贅沢だ。


 その贅沢を味わえるのなら、私はなんだってする。


 第二の人生を楽しく過ごすためなら、どんな危険でも享受しよう。


 どれだけ激しく動いても命に危険がないなら、当然、命を賭けて特別なスリルを味わうだろう。


 そして私は、他の人にも同じように感動してほしいのだ。


 ゲームの中でも、その命は本来重いはずなのだ。無限の命。良いね、最高だよ。でも、それなら尚更、命を賭けた戦いは最高のものになるだろう。


「マリー、いつかこの身に余る力を手に入れたら、私はこの世界に絶望と混沌を齎す機械兵器として、破壊と虐殺の限りを尽くすと誓うよ。機神様にもね」


 そしてこの世界の真の恐怖になるのだ。


 誰もがアビステイカーや瘴気に関する御伽噺を聞いて育つように、この世界に新たな御伽噺を生み出し、機械兵器ルイスとして寓話になる。


 《理解不能です。旅人は快適な進行、効率的な成長、安定した攻略を好む傾向があります。恐怖の対象となることに、どのような利得があるのですか》


「利得?」


 私は思わず笑った。


 思わず漏れたそれは、まだ修復したばかりの頸部を掠め、少しだけノイズ混じりに低く響いた。


「利得なんて、最初から求めていないよ。少なくとも、経験値や金銭やアイテムだけの話じゃない」


 私は銀索蜘蛛の死骸を見下ろす。


 戦いの最中には、あれほど巨大で、あれほど理不尽で、あれほど恐ろしく見えた怪物が、今では床に沈んだただの残骸としてそこにある。


 複眼から光は失われ、鋭い脚は折れ、腹部から伸びていた糸も力を失ってだらりと垂れていた。


 勝ったのだ。私はこれに勝った。その事実だけが、冷え切った機械の躯の内側をわずかに熱くする。


「怖いものを倒したいわけじゃない。私が怖いものになりたいんだ。誰かが掲示板で、あいつには絶対に近づくなって書くような存在に。攻略不能の災害みたいに扱われる存在に。出会った瞬間、逃げるか戦うかを本気で考えさせる存在に」


 《それが先程あなたが語ったこととどう関係するのですか》


「ふふ。だって私を恐れるのは、そこに死がチラつくからだろう?それは何よりも素晴らしいことだとは思わないかい?」


 皆私を恐れば良いのだ。そうやって死を恐れることが、私の望む素晴らしいゲーム体験に繋がるはずだから。


 だからこそ、強くならなければならない。恐怖になるためには、まず恐怖に食われないだけの牙がいる。


 私は銀索蜘蛛の残骸へ視線を落とした。


 必要な核や動力系に使える部位は、すでに取り除いた。頸部深層ケーブルを繋ぐための素材も、もうこの身体へ馴染み始めている。


 この哀れな体に残っているのは、裂けた背甲、折れた脚、切断された節、使い切れなかった糸、硬質化した牙のような口器、そして無数の細かな外骨格片だ。


 普通なら、特に使い道のない死骸だろう。だが、私にとっては違う。


「マリー、ファブリケーターでこの残骸から武器を作ることは可能だよね?」


 《素材状態を確認します》


 私の視界に薄い光の走査線が走った。


 銀索蜘蛛の死骸へ重ねられるように、半透明の解析表示が浮かぶ。甲殻の硬度、脚部外殻の繊維構造、節の内部に残る収縮組織、糸の引張強度、牙状口器の鋭利さ。


 次々と数値と警告が並び、その大半に損傷、劣化、汚染、欠損の文字が付いていた。


 《結論。完全な装備品としての生成は困難です。ただし、既存素材を組み合わせた簡易武装の作成は可能です》


「簡易でいいさ。今の私に必要なのは、いつまでも使えるような伝説の剣じゃないからね」


 私は床に転がっていた銀索蜘蛛の前脚を左手で掴んだ。


 ずしりと重い。だが、ただの重量ではない。節の一つ一つにまだ奇妙な弾性があり、外殻の内側に残った繊維が力を受けるたび、ぎちりと嫌な音を立てた。生きていた頃の名残が、死んだ後もなお形だけ残っているようだった。


 その脚を引きずると、床に白い傷が長く走った。この硬い爪先は、地面を穿つことさえできたのだ。


 強力な武器になり得る。そう直感した。


 銀索蜘蛛の脚は、単なる歩行器官ではない。戦闘の最中、何度も私を切り裂こうとした凶器そのものだ。横薙ぎに振るわれれば装甲を削り、突き出されれば配管を穿ち、床を打てば砕けた瓦礫を跳ね上げた。


 これをそのまま加工できれば、少なくとも今の即席ハンマーよりはずっとましな武器になる。


「これを芯にする。刃は脚の外縁を削り出す。背甲の薄片を重ねて補強しようか。糸は柄巻きと内部の固定に使えるかな」


 《可能です。ただし、重量配分に難があります。現在のルイス様は右腕を欠損しているため、両手保持を前提とした長大武装の運用は非推奨です》


「なら片腕で扱える範囲に詰めよう。長剣というより、鉈に近い形でいい」


 長く、美しく、均整の取れた剣など必要ないよ。


 剣は敵を断つための道具だ。叩き割り、抉り裂き、押し潰しながら切断する、無骨で、醜くて、頑丈な刃。


 片腕しかない私でも振るえるように、柄は太く、重心はやや手元寄り。先端に余計な美しさはいらないが、突き刺すための鋭さは残す。


 私は銀索蜘蛛の背甲に膝をつき、左手で外殻片を拾い上げた。


 半透明の黒銀色をしたそれは、光の乏しい地下でも鈍く艶めいている。表面には細かな傷がいくつも走っていたが、指先で押しても全く撓まない。


 これほど硬い物を纏っていた怪物を、私はつい先ほどまで相手にしていたのだと思うと、今さらながらに感じ入るものがあるな。


「君は強かったよ」


 私は死骸へ向けて呟く。


「少し力を借りるよ」


 《ファブリケーターを起動します。使用候補素材を指定してください》


「脚部外殻。背甲片。口器の鋭い部分。残った糸。あとは、節の中にある硬い芯みたいなやつも使えるなら使おうか」


 《銀索蜘蛛の脚部外殻、背甲、口器片、銀索糸、節内の硬質支柱を素材として登録。生成対象、近接武装。形状指定、鉈剣。よろしいですか》


「分かりやすくて大変よろしい」


 視界の端に、淡い水色の渦が生まれた。


 ファブリケーターの起動光だ。


 それは空間そのものに穴を開けるように揺らめき、銀索蜘蛛の残骸から指定した素材だけを吸い上げていく。


 裂けた脚の外殻が、細かい光の粒となって渦へ巻き込まれた。背甲片が宙に浮き、欠けた口器が軋むような音を立てながら光に分解され、渦の奥へ消えていく。


 残骸から素材が剥ぎ取られていく様子は、解体というよりも、何かの儀式めいて見えた。死骸の上を走る光が甲殻の輪郭をなぞり、強度の足りない部分を切り捨て、まだ武器として使える部分だけを拾い上げていく。


 私はそれを、じっと見ていた。


 この怪物は、私にとって最初の大きな壁だった。


 逃げるだけでは生き残れないと教え、工夫だけでは足りないと教え、最後には自分の身体を壊しながらでも前へ出るしかない瞬間があると学べた相手だ。


 その死骸から作る武器なら、今の私には相応しい。


 勝って、奪って、加工して得る力だ。


 《形状安定化。内部補強開始》


 渦の中で、何かが形を取り始めた。


 私はそれと同時に強く念じる。この鉈が敵を切り裂き、抉り、穿つ光景を鮮明にイメージし、渦へと送り続ける。


 最初に見えたのは、黒銀色の分厚い刃だった。まっすぐな剣ではない。片刃に近く、外側へわずかに反った、重く歪な刃だ。


 刃渡りは長すぎず、しかし短剣と呼ぶにはあまりに存在感がある。脚部外殻の曲線を活かしているのか、刃の背には節を思わせる段差が残っており、その一つ一つに背甲片が重ねられて補強されていた。


 刃の縁には、口器由来の鋭い破片が細かく噛み合わされている。


 完全に滑らかな刃ではない。むしろ鋸刃に近い凶悪さがあった。切るというより、引き裂くための形状。肉を断ち、繊維を噛み、装甲の隙間へ食い込んで剥がすための刃。


 柄は太く、左手一本でも握り込めるように調整されている。銀索糸が何層にも巻かれ、指をかける凹凸が自然に作られていた。


 手首へ固定するための短い糸帯も付いている。右腕のない今の私が振るっても、簡単には取り落とさないようにするためだろう。


 《生成が完了しました。名称未設定。銀索蜘蛛の素材より作られた片腕用の鉈剣です》


 水色の渦がほどけ、完成した武器が床へ落ちる前に、私は左手で受け止めた。


 重いな。予想以上に重い。だが、持てないほどではない。


 柄に巻かれた銀索糸が掌に吸い付くように絡み、硬い感触の中にわずかな弾性を返してくる。


 少し持ち上げるだけで、腕の中にずしりとした存在感が生まれる。今まで拾った鉄塊を無理やり武器にしていた時とは違う。これは明確に、私が使うために作られた刃だ。


「いいね」


 短く振ってみる。


 空気が裂ける音が響いた。


 片腕で振るうにはやはり些か重いが、重心が思ったより手元に寄っているおかげで、制御できないほどではない。


 振り下ろす力は強い。横薙ぎは少し遅れるな。突きは不得手だが、刃の先端を押し込むように使えば十分に殺傷力がある。


 問題は、連続して振れないことだろうか。


 二度、三度と試すと、肩と腰の接続部に負荷がかかるのが分かった。鉈を効率的に振り回す特別な動きに慣れる必要があるだろう。今の私では、軽快な剣術など夢のまた夢だ。


「名前を付けたいな」


 《推奨されます。名称設定により、装備管理が容易になります》


「そういう実務的な理由じゃないんだけどね」


 私は少し考える。


 銀索蜘蛛。あの白銀の糸。こちらを絡め取り、動きを封じ、逃げ場を削っていく狩りの形。私を追い詰めたその性質を、今度は私が使うのだ。


 恐怖は、ただ倒して終わりではもったいない。


 恐怖は加工し、次の恐怖へ変えるべきだ。


「銀牙」


 口にした瞬間、思ったよりしっくりきた。


 銀の糸を吐く蜘蛛の、牙。その死骸から作られた、私の牙だ。


 《装備名称、銀牙で登録します》


 視界の端に小さな表示が灯った。


 銀牙。


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


【PM】銀牙

 ┗片腕用の鉈剣。銀索蜘蛛の素材製。斬撃、裂傷、拘束状態の敵へ追加ダメージ補正。振り回すだけでも十分な脅威になり得るが、その形状から様々な扱い方があるだろう。使いこなすことができれば、強力な武器になり得る。


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


 私は刃を肩に担ぐように構えた。


 背部装甲へ当たらない角度を探し、首の可動を少しだけ確かめる。頸部の修復は今のところ問題なさそうだ。視線を動かしても映像に遅れはなく、声も出る。


 死にかけた身体で、怪物を倒し、その残骸から武器を作った。それだけのことが、どうしようもなく愉快だった。


「ふふふ、マリー」


 《はい》


「私はやっぱり、この世界が好きだよ」


 《先ほどの発言と照合すると、ルイス様はこの世界に混沌と破壊を齎す予定です。矛盾しているのでは?》


「好きだからだよ」


 私は銀牙の刃先を下ろし、残った死骸へ軽く向けた。


 もう動かない銀索蜘蛛。かつて恐怖だったもの。今は私の一部に、手にある牙になっている。


「どうでもいい世界なら、壊したいなんて思わない。怖がらせたいとも思わない。物語になりたいとも思わない。私はこの世界が好きだから、この世界に爪痕を残したいんだ」


 未だこの世界を理解したとは口が腐っても言えない。大した経験もしてないし、あると言えば大きな蜘蛛との死闘だけだ。ただ、これまでの全ての経験を通して、私の勘が囁いている。


 このゲーム、間違いなく過去最高の神ゲーだぞ、と。


 《私のレゾンデートルと合致する限りは、私はあなたへの最高の支援を約束します》


「ああ、共に絶望と混沌を齎そうではないか」


 私は笑い、ゆっくりと歩き出した。


 辺りには戦いの跡が残っている。砕けた配管、削れた壁、焦げた床、銀索蜘蛛の体液が黒ずんで固まり始めた跡。


 それらを踏み越えるたび、足裏に微かな凹凸が伝わってくる。以前なら、その一つ一つに足を取られ、体勢を崩していただろう。


 だが、今は全くだ。頸部が安定し、視界がぶれず、左手には銀牙がある。


 視線の先には、一つの両開きの扉があった。この空間から別の空間へと繋がる、入ってきた扉を除いた唯一の構造物だ。


 この先の扉の向こうに何か面白いものがあるのかも分からない。さらに強い怪物がいるかもしれないし、罠があるかもしれない。私の今の力では到底どうにもならないものが待っている可能性だってある。


 だが、それでも進むのだ。恐怖を避けるためではなく、恐怖を味わうために。当然いつかその恐怖を与える側になるために。


 私は扉の前で足を止め、銀牙の柄を握り直した。掌に食い込む銀索糸の感触が、妙に心地よい。刃の重さが左腕へ沈み、機械の骨格がそれを支える。


「さて」


 私は暗がりの奥に佇む扉を見据える。


 頑丈そうな金属扉だ。表面は錆び、ところどころに古い傷が走っているが、まだ完全には朽ちていない。取っ手の周囲には何かの文字が刻まれているようだが、埃と傷で読み取れない。


 この向こうに何があるのか。


 地下へ続くのか。研究所なのか。さらに深い廃墟なのか。あるいは、先ほどの銀索蜘蛛など比べものにならない何かの巣なのか。


 分からない。


 だからこそ、胸が高鳴るね。


「行こうか、マリー」


 《警告。十分に警戒した上で探索を行ってください》


「もちろん」


 私は銀牙を一度腰に納め、、扉へ左手を伸ばした。


「命は大切にしないとね」


 そう言って、私は笑った。

 この作品が面白いと感じた方は、評価をして頂けると幸いです。作者の執筆スピードにプラス補正が入ります。


 ルイスくん、気持ちよくなって格好つけていますが、まだまだ二章は続きます。


 ルイスくんがすんなりと機神様の望みを受け入れた理由が判明しましたね。第一章の種族選択の際にあったかと思いますが、このゲームは開始前に思想やプレイスタイルを確認するようなアンケートに回答しています。


 ルイスくんと相性の良い機神が関係するエクス・マキナ・アポカリプスが表示されたのは、そういった要素が関係しています。

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全く好奇心旺盛で愉快な主人公だねぇ〜嫌いじゃないよ
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