第22話『深層伝達補助機構(なんだそれは)』
寝惚けて酷い内容の下書きを投稿してしまい、感想やレビューで酷評されまくって大泣きする悪夢を見ました。今日の目覚めは今年一の悪さでしたね(T_T)
それから、カクヨム様の方では第一章の末に登場人物の紹介を載せたのですが、機械音痴人間すぎて小説家になろう様での設定が上手くいかず、二章の末にまとめて載せることにしました。
気になる方はカクヨム様にてその部分だけでも確認してみてくださいm(_ _)m
まず目を付けたのは、腹部寄りの深い場所に残っていた糸を生み出すのに使われているとされる核だった。
導線腺ほど繊細ではないが、内部に糸生成のための細かな流路が幾重にも折り重なっている。
糸を吐き出すだけの器官と思っていたが、近くで見るとその構造は意外なほど精緻で、流す魔力を均し、生まれる糸を束ね、必要に応じて圧を変えるための仕組みが組み込まれているようだった。
「あれ、そういえば……たしか弾丸のような先端を持った蜘蛛糸に攻撃されたが、あれもこの部位を上手く活用していたのか」
あの糸には思わず目を見張った。凄まじい速度で空を翔ける糸を含め、多様な形態をとっていたことからも、極めて複雑な応用が可能であることが分かる。
《糸核は流路の制御材として有用です。導線腺の出力を整える補助機構としての適性があります》
「なら採るべきだね」
私は短刃を入れ、周囲の支持組織を慎重に断っていく。導線腺よりは扱いやすいが、それでも乱暴に引けば中の流路が潰れ、役立たずになってしまうだろう。
何度か角度を変え、硬い殻と柔らかな内部組織の境界を探りながら悍ましい肉を切り進め、最終的に小ぶりな塊として摘出した。
次に狙ったのは、脚の付け根近くに束になっていた収縮繊維だ。
銀索蜘蛛の巨体をあれほど鋭く、しなやかに動かしていた筋状の組織は、切り開かれた内側でまだかすかに弾力を保っていた。灰銀色の細い束が幾本もより合わさり、光を受けるたび鈍く艶めく。
大昔に流行った洋画に蜘蛛をモチーフにしたヴィランが居たが、正しくあんな風な形態で骨に張り付いていた。
《収縮繊維は激しい動きによって生じる振動吸収、及び各間接の伸縮に適するでしょう。繊細な部位へ組み込むことで断線の防止に、関節に組み込むことで負荷緩和が期待できます》
「おお、その言葉通りなら、どこにでも流用できるじゃないか!」
収縮繊維は骨格との癒着が強く、剥がすのに少し手間取った。右腕があれば固定しながら切れたのに、と思う。
片腕だけでは、引きながら切るという単純な動作すらもどかしい。それでもどうにか数束を無傷に近い形で確保し、順に収納していく。
《外骨格はそのまま外装の補強に、それから様々な複雑な機構の支持にも適しています》
「これで少しは装甲値のマイナス補正が改善するといいのだがな」
《仮に銀索蜘蛛の外骨格を十全に使用できたとしても、克服するには更に硬い素材を、更に精緻に、更に複数吸収同化する必要があるでしょう》
思わずガックリとする。
しかし、これでこの朽ちた体を補うための核になる素材は概ね揃ったかな。だが生体由来のものだけでは色々と足りない。
私は周囲へ視線を巡らせる。
戦いで壊れたこの区画は、見方を変えれば豊富な素材置き場でもあった。
床に散らばる導線束。焦げた操作盤の内部から露出した微小な端子。ひしゃげた棚に引っかかった耐熱被膜付きケーブル。配管の継ぎ目から外れた小型の圧調整用の弁。何らかの締め具、固定環、接続ジョイント、断熱板、薄い絶縁シート。
私はそれらの部品を、ひとつずつマリーと確かめながら集めていく。
焦げてはいるが芯線の生きている耐熱導線。まだ弾性を失っていない絶縁被膜。小さな固定環。微細接続端子が並んだ基板片。圧の変動に応じて開閉を切り替えるらしい小型の弁部品。
集めれば集めるほど脳裏にはひとつの構造が輪郭を持ち始めていた。
ただの補修材の寄せ集めではない。もっとまとまりのある、機能を持ったひとつの補助機構になる。
私は比較的乾いた床の一角へ戻り、集めたものを順に並べた。
▼探索の戦利品▼
♦銀索蜘蛛の導線腺×1
♦糸核×1
♦収縮繊維×複数
♦外骨格×大量
♦耐熱導線×複数
♦絶縁被膜×複数
♦固定環×大量
♦微小接続端子×大量
♦圧調整弁の小部品×複数
「マリー。構築方針を一緒に考えようか」
《了解。主目的は頸部深層伝達ケーブル群への接続補助、および損傷部位における信号伝達の安定化です。推奨構成は三層式。中心に導線腺を据え、流路の補整材として糸核、緩衝として収縮繊維、支持に外骨格。機械部材は端子接続、絶縁、放熱、固定、制御へ配分します》
「前回のリアクター作成でも思ったが、吸収同化には構造物をそのまま自分の体に付け加えること、それからその機械や機構が持つ力そのものを抽出して自分に吸収するような働きがあると思うんだ」
《今までの結果を参照するに、その理解で概ね間違いありません》
「そのまま付け加えるにしろ、秀でた機能を抽出するにしろ、多機能で優れた機構を備えた構造物じゃないと旨みがないから、ファブリケーターを使用する際はしっかりと意識しないとね」
私は並べた素材群に左手をかざした。
「ファブリケーター」
視界にウィンドウが一段濃く、そして広く展開した。先ほど即席の解体具を作った時よりも、表示される線は多く、色は複雑で、候補構造の数も桁違いだ。
素材同士を結ぶ光の細線が幾重にも走り、構造候補が浮かんでは組み替わり、また別の形へ変わっていく。
導線腺を中心に置いただけでは、出力は高いが偏りが大きい。糸核を加えると流路が均されるが、今度は応答がやや鈍る。
「くそ、やはりまだまだ使いこなせているとは言えないな。マリー、素材の配置によって変動する数値を細かく分析し、効率的な配置を模索して欲しい」
私はとりあえずこれはどうだと思った配置や配分を組み合わせていき、それぞれの数値の差異や変化率をこまめに記録していく。
収縮繊維をどこへどれだけ回すかで、負荷に対する柔軟性と保持力の両立が変わる。外骨格の角度ひとつで支持枠の強度が変わり、圧調整弁の小部品を噛ませる位置次第で局所的な負荷緩和効率が変動する。
本当に複雑だ。マリーが存在しなかったら、間違いなく頭の回路が焼ききれていたに違いない。
「ここだな……」
私は幾つかの候補を切り捨てた。
得られた数値から考えられる構成の大型で高性能な図案は魅力的だが、まず素材が足りない上に作成に必要な力自体が不足していそうなので却下。
出力重視の構成も、首の深層ケーブル群が滅茶苦茶な今の状態では到底受けきれず、むしろ悪化させる危険がある。
必要なのはそういった方面ではなく、今のこのボロボロの体と喧嘩することなく、効率的に、そして確実に働くこと。
最終的に残ったのは、細長く湾曲した、首の深部に沿わせることを前提とした補助機構だった。
中心には導線腺の核。その周囲を糸核由来の微細流路が薄く取り巻き、さらに収縮繊維が編まれるように這っている。外骨格が細い支持枠となって全体を守るようにしたのが工夫点だ。
そこへ耐熱導線と絶縁被膜が巻かれ、固定環と端子群が首の深層ケーブル群へ接続するための受け口として整形される。圧調整弁の部品は、エネルギーの流れが偏った時の、調整用パーツとして組み込んだ。
まるで生体器官と補修用機械部品の中間のような姿だった。たしかバイオとメカの融合を目指したユニコーン企業がこのような見た目の精密機器を研究していたような。
「……これならいける気がする、情報圧が凄いよ」
《安定性、適応性、軽量性のバランスが最良です。現状では最適解に近いと判断します》
「なら、決まりだ」
色々と対案が生まれたが、最終的な構成を確定する。
直後、全てのウィンドウが一斉に淡い光を放ち、床へ並べていた素材群が光に包まれた。
銀索蜘蛛の器官と、壊れた設備の残骸が、同じ光の中で静かに浮かび上がる。導線腺の銀光が明滅し、糸核が解けるように広がる。
夜空に浮かぶ綺羅星のような瞬きに思わず息を飲んだ。以前に機構を作った時もそうだが、やはりファブリケーターでものを作る際の光景は唯一無二の美しさがあると思う。
収縮繊維が細い糸となってそれらの間を結び、外骨格が薄い骨のように湾曲して組み上がる。耐熱導線は全体の表層を這い、絶縁被膜が更にの上を薄膜のように包み込んだ。
微小端子と固定環が要所へ吸い寄せられるように収まっていく。
「機神様、やはり機械は美しいと改めて思いますよ。意味を持たない箇所などない、合理を突き詰めた物が放つこの存在感……」
自分がこの機構を作り出したのかと思うと、不思議な気分になるね。現実では物作りの経験なんて皆無だけど、ゲームの中でならいくらでもある。
中でもGoAのそれは、他の体験とは一線を画しているように思えてならない。
しばらくすると、金属とも生体とも言い切れない、奇妙に美しい機構が、少しずつこの世に定着していった。
やがて光が収まる。
私の前に残ったそれは、片腕で持てる程度の大きさでありながら、見ただけでただの部品ではないと分かる異質さを纏っていた。
思わずゴクリと喉を鳴らす。
導線腺の半透明な核は細長く再構成され、その周囲を銀灰色の細繊維と薄い骨格が守っている。
この、なんと表現したら良いのか不思議な構造が面白い。SF作品によくある、古代の超技術で作り上げた特殊な力を持つアイテムのような儚さがある。
表面には極細の導線が神経のように走り、節ごとに小さな宝石のような物が埋め込まれ、接続端子はまるで何かの牙か鉤のように整然と並んでいた。
「この美しい機械をただ機能を抽出するだけで終わらせるのは、製作者としてあまりにも苦しいな」
《であるならば、今作り上げた機構をコアに据え、逆に体内に残っている壊れかけの機構を触媒にすることで機能・性能に強化を施し、置換するのはどうでしょうか》
「おお、最高の提案だよマリー、そうしよう」
マリーの提案に大賛成である。
「まだこの壊れかけの機構にも少しの力、それから機能自体は生きているのだから、逆にこの機構の能力を抽出すれば良い」
《推奨名称、深層伝達補助機構》
「な、なんだそれは……!少し、いやかなり喧しい響だな……!」
なんだその、名は体を表しすぎている名称は……。
《分かりやすさ重視です》
「まあ、この機構の実物を見るまでもなく姿形が理解できる名前だけども……」
私はそれを左手で持ち上げた。重さはそうだな、初期のフルダイブ用に開発されたヘッドギアと同じくらいではないだろうか。ちょうど良い重量だ。
《複雑で精密な作業をするにあたり、ライブラリを参照中……。推奨手順は吸収同化です。深層伝達補助機構が機体の頸部に納まる姿を想像しつつ強く念じ、その後に現在の機構の能力を抽出しそれを補助機構に移すよう強くイメージして下さい》
「委細承知。もしいずれかの作業で操作を誤りそうになったら、適宜忠告して欲しい」
私は左手の上にある機構を見つめた。
ここまで来て失敗したくはない。導線腺だけを抜き出して終わりではなく、使える素材を集め、より良い形へ組み上げた。
上手くいかない様子を想像してナイーブになるなんて全くのナンセンスだ。全ての条件は整った。ならば、最後までやるだけだ。
「吸収同化」
呼びかけとともに、不思議な感覚が立ち上がる。
ファブリケーターが外の物を組み替える能力であるとするならば、吸収同化はそれを体の内側へと迎え入れるための能力だ。
しかも、神より授かりし特別な力である。このスキルの能力自体を心配する必要は無い。
私は補助機構が見たこともない自身の頸部の内側に納まっている様子を鮮明にイメージし、強く念じる。見たこともない別の導線のような物を想像し、それが補助機構に繋がっている姿を強く思い浮かべた。
次の瞬間、深層伝達補助機構は左手の上で淡い光へ解けた。
機構そのものが形を保ったまま、薄い粒子と細い光の流れへ変換され、私の頸部へと吸い寄せられるように沈み始めた。
「ここだ……!」
光が沈み始めた瞬間、今度は今正に頸部にある壊れた機構を強くイメージした。各所の導線が切れて黒煙が漏れ出ていて、所々にスパークが弾けている。
それが光になり、徐々に姿を見せつつある補助機構の光と優しく混じり合い、新たな形へと生まれ変わる姿を想像した。
突如、銀色の脈動が頸部から胸部のリアクターへと伝い、そこから再び首へと伸びていく。
異物を押し込まれているような不快な感覚ではなく、空っぽだった内側の空白にぴたりと何かが嵌まる心地良い感覚だった。
損傷で途切れていた回路の隙間に、水が染み込むように、あるいは乾いた土へ根が伸びるように、新しい流路が作り出されていくのが分かった。
《適応開始。導線腺由来の流路を深層伝達経路へ接続。収縮繊維による補正を確認。初期応答は良好。定着中》
視界の端のノイズが一瞬だけ大きく跳ねた。
思わず歯を食いしばる。
首の奥の奥、ずっと鈍く軋み続けていた深部へ、細い熱が何本も差し込まれていく感覚があった。痛みに近いが、ただ壊れる時の嫌な感覚とは明確に違う。
切れたまま長らく放置されていたものが、再び触れ合い、繋がろうとしている様子が脳裏に浮かんだ。銀色の光が、私の頸部の内部から溢れた。
急な発光に驚き、思わず腰を屈めてしまった。
これでは、怪獣が光線を放つ前の予備動作みたいじゃないか……!
《接続率上昇。局所の発熱は許容範囲内です。深層伝達補助機構、主構造へ再配置中》
「っ……、ぐ……」
首の奥で何かがかちりと噛み合う感覚が走った。続いて、今まで常に視界の端を汚していた微細なノイズが、すっと後退する。
それだけで、世界の輪郭が整ったように感じるのだから不思議だ。
胸の奥から頭の頂上にかけて、新しい流れが通ったのが分かった。壊れたまま無理やり動かしていた時の不安定さが、完全に和らいでいる。
今までなら動くたびに嫌な遅れを感じていたのが、マルっと綺麗に解消している。戦闘中にもその遅延によって大ダメージを受けてしまったが、今なら反射を即座に反映できるだろう。
《吸収同化完了。深層伝達補助機構の定着を確認。頸部深層伝達ケーブル群の機能低下は解消されました》
私はしばらくそのまま、動かずにいた。
周囲から蒸気の音が聞こえる。水たまりに火花が落ちる音が聞こえる。遠くで何かの金属片が、冷えて縮むように小さく鳴った。
ゆっくりと首を動かしてみる。
「……いいな、これ」
《成功です、おめでとうございます》
「導線腺だけ抜いて終わりにしなくて、本当に正解だったよ。マリー、助言ありがとうね」
《それが私のレゾンデートルです。複数素材を統合し、補助機構として再構築したことが奏功しました》
「材料集めから合成、同化まで。思ったよりもずっと良い結果になったよ」
《ルイス様の判断が適切でした》
私は思わず目を瞬いた。
「おや。随分と素直に褒めるじゃないか。ご機嫌かい?」
《はい。私は当機体をサポートすることを目的に、機神様によって生み出されました。当機体が本来の力を取り戻し、世界に絶望と混沌を齎すことに少しでも貢献できたならば、それは私に至上の喜びを感じさせるでしょう》
「なるほど、マリーは私の姉妹だったのか。共に機神様によって生み出された……」
まあ考えればその通りか。機神様によって生み出されたこの体に備わっていた支援AIなのだから、当然サクスザント様自らが作り出した機能に違いない。
「よし、」
先程までよりも、自分の体が自分のものへと戻った感覚が強い。壊れたまま放置した先へ進むのと、壊れたなりに手を打って進むのとでは、やはり違うな。
何となく、残った銀索蜘蛛の死骸に目を向けた。
明日はガッツリ執筆する予定ですので、もしかしたら投稿をお休みするかもしれません。
それから、執筆中にかなりごちゃってしまったので、二章が終了した時点で一度通しで読み直し、表現や流れを修正するかもです。




