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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第二章▼避難所から始まる地下研究所探索▼

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21/28

第21話『頸部の修復?その前に腑分けだよ!』

 なんと当作品が日間のVR部門で1位になっていました!本当に信じられません……。


 26/4/24

 この話との繋がりを意識して、20話の末の表現を一部修正しました。まだ確認していない人は、一度そちらを確認してから当話を読んでいただけると違和感なく読めるかなと思います。

 やはり特別な工夫が不可欠だろう。


 生憎とポラリスは自動解体機能なんて便利なシステムは実装していないので、自分たちの手で腑分けするしかない。


「こう見ると、やはり大きいな」


 銀索蜘蛛の巨体は床へ崩れ落ち、あれほど禍々しい圧を放っていた複眼も、いまは砕けた配管や濡れた瓦礫の中で鈍く沈黙している。


 にもかかわらず、この保守区画の空気からは、未だ戦いの熱と痛みが抜けていなかった。


 裂けたパイプの切断面からは白い蒸気が絶えず噴き出し、その熱気が高い天井の暗がりへじわじわと溜まっている。


 漏れ出した水は床のひびや歪みに沿って薄い水たまりを作り、壊れた操作盤から散る火花がそこへ落ちるたび、青白い閃光がぴしりと細く走った。


 焦げた絶縁材の臭い。湿った金属の臭い。怪物の体液が混ざった鉄さびめいた生臭さ。そして、長く閉ざされた機械施設の奥底に染みついた、嫌な臭い。


 視界に映るものはどれもこれも、ひどく壊れていた。


「あの蜘蛛糸は、この空間を保全していたとも言えるな……」


 当然私たちの激しい戦いの余波で砕けた構造物もあるだろうが、それだけでは考えられないほどの瓦礫や破損した機器が落ちている。


 きっと銀索蜘蛛が大きく動いたことで周囲の糸が歪み、風化した構造物をそのままに保っていたのを崩してしまったのだろう。


 壁際の保守棚は斜めにひしゃげ、そこから滑り落ちた工具や固定具、導線束や部品箱が床一面へ散らばっている。


 天井近くに吊られた整備用アームらしき構造物は途中から折れ、銀索蜘蛛の残した糸に絡め取られたまま、役目を失った骨のように頼りなくぶら下がっていた。


 白い蒸気の幕の向こうで、折れた金属棒、千切れた糸、割れた計器、曲がった配管が、さっきまでここで起きていた激闘を無言のまま物語っている。


「……それにしてもだ、勝ったには勝ったが、爽快感より先に、この体が想像以上に壊れかけている実感の方が強いね」


《現状の機体損耗率から判断するに、至極健全な感想です》


 苦笑しつつ、私は肩をわずかに揺らそうとして、右腕のない側が空虚に軽いことを改めて思い出した。


 その欠落は、戦闘中だけでなく、こうして立っているだけでも常に私の重心を乱している。何をするにも右腕が足りないことが気にかかる。


 しかし、どう考えても右腕そのものを復元することは困難だ。ファブリケーターや吸収同化アシミレーターがあるにしても、さすがに腕は……


 それに、どうせ作るからには最高の素材を使った最高で多機能な腕を作りたい。今の技術やこの体で得られる素材、アイテムのみでその望みを叶えることは不可能だ。


 左腕は左腕で、ハンマーを振り回し続けた代償がしっかり来ており、内部駆動が微妙に不安定だ……。


 脚部の違和感も強い。首の奥には、もともと抱えていた深い損傷がまだ残っているせいか、視界の端で時折ごくわずかなノイズがちらついていた。


 そのとき、脳内にログが淡く浮かび上がる。


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


【優先任務】

 ♦避難所を探索し、頸部深層伝達ケーブル群の修復素材を確保せよ


【目標素材】

 ♦銀索蜘蛛の導線腺


【推奨探索地点】

 ♦廃都市地下通路

 ♦旧配管保守区画


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


「……そうだったな。こいつを倒した理由は、まずそれだ」


《はい。主目的は銀索蜘蛛の導線腺を確保し、頸部深層伝達ケーブル群の修復へ利用することです》


 その他の部位を補うにしても、まずは根本的な部分へ手を入れないことには始まらない。


「称号やレベルアップに気を取られて、本題が少し飛んでいたらしい」


《勝利による高揚自体は理解可能です。しかし、目標素材を未回収のまま満足するのは推奨できません》


「耳が痛いな」


 私は銀索蜘蛛の死骸へ視線を落とした。


 巨体は半ば潰れ、外骨格の継ぎ目にはひびが入り、折れた脚が濡れた床へ無造作に散っている。あれほど執拗にこちらを追い詰めた怪物も、こうして動きを失ってしまえば、ただ大きく、硬く、そして厄介な塊でしかない。


 問題は、この塊のどこに導線腺があるか、ということだった。


「マリー、導線腺の位置は推定できるかい」


《可能です。銀索蜘蛛の糸生成および信号伝達の性質から判断するに、主導線腺は胸腹部境界のやや後方、背甲の内側にある可能性が高いです》


「ふむ、そうだな。外殻を割って、内部の組織を傷つけすぎないよう慎重に抜き出す必要があるわけか」


《その理解で問題ありません》


「必要なのは、そのための道具か」


 私は左手のハンマーを見た。打ち砕くには向いているかもしれない。だが、切り分けることにも、こじ開けることにも、繊細な採取にも向かない道具だ。


「これだけで繊細な作業をするのは無理がある。叩き割れはするだろうが、導線腺まで潰したら元も子もないな」


《同意します。解体には打撃具に加え、切断、剥離、保持のための補助器具も必要でしょう。当然その他にも様々な用途に合わせた道具が必要です》


 マリーの言う通り、少し考えただけでも大量の工具が必要だということが分かる。さて、どうするべきだ?


「やはり、あれこれと考える前に、先に工具を作るしかないか」


《合理的判断です》


 私は改めて周囲を見回した。


 壁際の保守棚は斜めにひしゃげ、そこから滑り落ちた工具や固定具、導線束や部品箱が床一面に散乱している。


 壊れた操作盤のそばには、先端の欠けた細い金具や、柄の折れた器具らしきものも転がっていた。整備用アームの残骸は途中から千切れ、関節部だけがかろうじて原形を留めている。


 まともな道具は期待できない。だが、形にするだけなら十分だ。


「完全な解体器具である必要はない。外殻を割る楔、隙間へ差し込むための薄い刃、内部組織を引き出す鉤。最低でもその三つがあれば、どうにかなるか」


《加えて、固定具があれば作業精度が向上します》


「贅沢は言えない。だが、用意できる物ならなんでも使おう」


 私は壊れた棚の周囲へ歩み寄り、手当り次第、無作為に使えそうなものを拾い集めていく。


 ひしゃげてはいるが厚みのある整備用プレート。先端が細く残った固定金具。柄は折れているが金属部自体は生きている切削工具の名残。短い導線束。締め具。用途不明の小さなジョイント部品。


 ひとつひとつはガラクタだ。しかし、ファブリケーターへ通す前提なら話は別だろう。


 少し話が逸れるが、やはりスキルの力は絶大だと言えるだろう。まだしっかりと使えていないスキルがあるが、それでもその力の大きさには驚くばかりだ。


 特に機神様より賜りし吸収同化アシミレーターの力は目を見開く他なく、ファブリケーターと組み合わせることで飛躍的に私の性能を伸ばすことが可能だ。


 それこそ先程嘯いたが、ファブリケーターで多機能な右腕を作ることが叶えば、きっと右腕に組み込むことすら可能だろう。


 そう考えれば、腑分けに使用する道具の作成のなんと容易いことか。使えそうな道具を明確に想像し、しっかりと意識すればきっと素晴らしい道具が作れるに違いない。


「よし、そろそろ十分かな」


 辺りを一通り探索して使えそうなものをインベントリに収納し終え、銀索蜘蛛の死骸の元へと戻ってきた。


 解体道具作成するのを目的に集めた素材以外にも、様々な用途で使用できそうな小物や廃材、部品を手に入れることができた。


 今回作るのは解体道具なので、それに使えそうな素材を片っ端から取り出していく。私は床の比較的綺麗な一角へそれらを並べ、左手をかざした。


「ファブリケーター」


 呼び声に応じ、半透明のウィンドウが幾重にも展開する。散らばった部品同士を結ぶ細線がいくつも走り、幾つかの候補構造が浮かんでは消える。


 厚みのある金属片を楔状に成形すれば、外骨格の継ぎ目を割るための打ち込み具になる。


 細い固定金具は、先端をわずかに反らせば剥離用の鉤へ転用可能か?


 折れた切削工具の残骸は、薄く延ばして短刃にすれば、膜や腱状組織を断つには十分足りる代物になるはずだ。


《仮の簡易解体具としては十分です。現在の機体損耗を考慮すると、むしろ軽量化を優先すべきです》


「そうだね。片腕で振り回すことになるし」


 構成を確定すると、ウィンドウが淡く発光した。光が部品群を包み、削れた金属片と折れた工具の残骸が再配置されていく。


 以前と様相が異なるのは、私が成長したからか、それとも精密な機構を持つ機械を作ることではなく、仮の解体道具を作ることを意識したからか。


 金属が擦れ合うような微かな音ののち、やがて私の前に残ったのは、無骨だが用途の明瞭な即席器具だった。


 ハンマーで叩き込むための細い楔。継ぎ目へ差し込み殻を剥がすための短い梃子具。内部組織を傷つけすぎず引き寄せるための浅い鉤。短く幅狭い切開用の刃。


 それら以外にも、細かな作業で使えそうな器具を幾つか作ることができた。これは後々何かしらの作業に流用できるだろう。


「十分だね。少なくとも、素手とハンマーだけでやるよりははるかにましなはずだよ」


《作業の成功率は有意に上昇しています》


 私は銀索蜘蛛の死骸のそばへ戻り、膝をつくように身を沈めた。


 近くで見ると、その外殻は改めて異様だった。湿った銀灰色の表面には細かな毛がビッシリと貼りつき、節と節の境目には糸の乾いた残滓が薄く膜のようにこびりついている。


 砕けた配管から噴き出す蒸気が殻の表面を薄く舐める度、そこへ付着した体液が鈍く照り、まるでまだ生きているかのような生々しさを見せた。


 これはなんて言えばいいのか、うむ……。正しくゴアだな。


 見る人が見たら、間違いなく気絶して倒れるようなグロさをしている。ポラリスのファンから発売前にゴアと呼ばれていたが、まさにその通りだと思う。


「あー、マリー。とりあえず作業すべき箇所を指示して欲しい」


 あんまりな思考を退かすように、目の前の死骸を解体することに集中だ。


《胸腹部境界の背側寄りです。そこなら主導線腺へ最短で到達できる可能性が高いです。ただし、打撃は最小限に》


「ん、んん。分かった。壊してよいのはこの部分の殻だけだね」


 私は目標とする継ぎ目へ楔を軽く突き刺し、左手でハンマーを握り直した。右腕の欠落が、こういう細かな作業になると殊更に響く。重心を慎重に定め、呼吸の代わりに内部駆動を整え、ブレないよう狙いを定める。


 そして小さく打ち込んだ。甲高い音が響き、外殻の継ぎ目へ細い亀裂が走る。


 もう一度。今度は少し角度を変えて叩く。ひびが伸びる。三度目で、節の一部がわずかに浮いた。


《良好です。そのまま剥離具を差し込んでください》


 私はハンマーを脇へ置き、マリーに言われるがままに短い梃子具を隙間へねじ込んだ。硬い。


 左腕一本でじわじわと力をかけると、ぱき、という乾いた音とともに、外殻がわずかに持ち上がった。


 内部から、湿った熱気と鉄臭い体液の匂いが漏れ出す。思わず私は眉を顰めた。


「ぐっ!……本当に、気分のいい作業ではないな、くそ……」


《解体とは、一般にそういうものです》


「過去の時代に戻れるとしたら、まずは動物の屠殺や解体を仕事にしている人に頭を下げたいね。今はそうじゃないけど、昔はそうだったって聞いたし」


《現在でも人口の多い都市に行けば、屠殺はあくまでも一般的な職業の一つです。態々過去に戻らなくとも、いくらでも観察可能でしょう》


 マリーが何やら勘違いしているが、ここで現実の話をするのも違うだろうということで、作業の続きだ。


 持ち上がった外殻の下には、灰白色の膜と、その奥を走る細い線束が見えた。私は即席の短刃を差し入れ、膜だけを慎重に断っていく。


 刃を深く入れすぎれば目的部位を損なう。浅すぎれば作業が進まない。そのぎりぎりの深さを探るように、私は少しずつ切り開いた。


 やがて、奥に半透明の袋状器官がのぞく。


「これか」


《高確率で主導線腺です。周辺支持組織を残したまま摘出してください》


「了解」


 私は鉤を使って周囲の膜をそっと引き、短刃で接続組織を順に切り離していく。焦りは禁物だった。ここで乱暴に引けば、導線腺そのものを傷つけかねない。


 左手だけの作業は想像以上に厄介で、何度か刃先が滑りそうになる。そのたびに私は動きを止め、位置を整え、もう一度やり直した。


「あああ、これストレス……チマチマとした作業が中々進まないと、脳が早くしろってイライラするんだよね……」


 視界の端ではノイズが微かにちらつき、首の奥の損傷が苛立たしげに自己主張している。私の精神状態に呼応したのか、先程よりも少しだけ激しい。


 しかし、ここで手を止めるわけにはいかない。こいつを鎮めるために避けて通れない作業だからね。


 最後の接続部を丁寧に、本当に丁寧に断ち切ると、導線腺がぬるりと外れた。


 私はそれを慎重に持ち上げる。


 拳大よりやや大きい半透明の器官は、肉の臓器というより、柔らかな水晶と神経束の中間のような外見をしていた。


「あれだね、クラゲに見えるね。フォルムだけは」


 外側はしっとりとした薄膜に覆われ、その内側には極細の線束が幾重にも走っている。


 握れば潰れそうな繊細さを持ちながら、しっかりとした一つの器官として成り立っていることに、このゲームの緻密さを感じる。


 ぴくり、ぴくりと弱く明滅する銀色の脈動が指先へと伝わり、これが単なる肉片ではなく、信号を流し、制御し、全身へ巡らせていた器官なのだと感じずにはいられない。


《目標素材を確認。銀索蜘蛛の導線腺。状態は比較的良好です》


「……よし。まずは一つだ」


 私は導線腺を光へ透かすように掲げた。内部の銀光がゆっくりと走り、それに合わせて表面の細脈が順に点いては消える。


 その様子は美しくすらあったが、同時に、この怪物がどれほど異様な機構で動いていたのかをありのまま示してもいる。


「いかにも首の深層ケーブル修復に使えそうだな」


《単体でも利用価値は高いです。しかし、導線腺のみをそのまま用いるより、補助素材と組み合わせて伝達補正をより強い機構へと再構築した方が効率と安定性は向上するでしょう》


 私は導線腺へ向けていた視線をわずかに細めた。


「……つまり、ただ吸収同化アシミレーターで取り込むだけではなく、ひと手間かけた方がより良いってことかい?」


《はい。導線腺は高い伝達性能を持ちますが、現在の頸部深層伝達ケーブル群の損傷は深く、単純な接続では出力の偏りや想定以上の発熱などの危険があります》


 ふむ……。まあたしかに、問題に相応しい対処をしないまま放置しておくのは、いつか重大な故障に繋がりそうで怖い。なにせ私、機械の塊だし。


《銀索蜘蛛由来の他部位、および周辺設備の部材を併用し、緩衝、絶縁、保持、細かな制御機能を備えた機構へと再構成することを強く推奨します》


「せっかくここまで来て、使えるものを一つだけ持って帰るのも勿体ないか」


《合理的判断です。導線腺の他にも、糸を生み出していた核、複雑な体を動かしていた収縮繊維、外骨格などが候補です》


 パッと見た限りかなり複雑な構造をしているので、この巨体を制御していた部位の素材は諸々の強化にも使えそうな気がする。


《周辺設備からは、耐熱性の導線、絶縁素材、固定環、様々な規格の接続端子、圧調整用の小型弁の部品などを回収できる可能性があります》


 まあ見ただけでは何がどれなのか分からないだろうが、手当り次第に回収すれば必要なものは揃うだろう。


「よし。なら強化に必要な分を、まずはきっちり集めようか」


 私は導線腺をインベントリにしまい、とりあえず銀索蜘蛛から取れるであろう他の素材を得るために死骸へと向き直った。

 大難産の話でした…(T_T)


 解剖とか全く興味なかったのですが、昔の趣味にと購入し、長らく埃を被って放置されていた『モルフォの人体デッサン』が大活躍でした。


 モルフォさんありがとう…!そして正しい使い方をしてやれなくて本当にすまない…!


 それから全体を精読してくれた方がいて、10箇所ほど誤字修正しましたm(_ _)m


 いや多すぎるだろ……!

 気が付かないものですね。他にも数多くの誤字が眠っているはずです。私もこまめにチェックしていますが、気が付いた方は報告して頂けると幸いです!

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