第12話『機神の教え、機構の完成』
完成した機構を強く意識すると、ウィンドウにエネルギーの流れや損失の傾向が直感的に色や波形で示され、指先ひとつで干渉・変更できるようだ。
複雑な機構に流れる線の太さは流量を、カラフルな色の変化は負荷の変動を表し、その線の分岐は流れの分散として描かれている。
私はその中で明らかに流れが滞っている箇所を何箇所か見つけ出した。
「ここがボトルネックか」
問題の箇所に視線を向けると、その部分が強調され、代替案が提示される。高伝導だが耐久性に難のある魔銀。安定性は高いが今回の規模では過剰な魔金。劣化しやすいが加工しやすいパーツ由来の導線。
各候補を選んだ場合の流れの変化や寿命の推移が、瞬時に予測として表示される。
私は瞬間的に判断を下す。
「魔銅をメイン、魔銀をコーティングに使い、祓呪鉱石で耐久を補強しよう。魔金は特にエネルギーが多く流れる箇所に使えば……」
選択と同時に、モデル全体が書き換えられる。淀んでいた部分の流れが滑らかになり、負荷が均等に分散されていくのが分かる。その変化を確認すると、私はこの設計図に描かれた機構が顕現するよう強く念じ、機神サクスザント様に祈りを捧げる。
機械を作っているのだ、きっと何らかの加護があるだろう。こういうのはやっておくだけ得だ。
ここからが本領だ。渦に吸い込まれた素材の一つ一つを意識し、それらを設計図通りに分離、配置していく。目の前に設計図の中にあった特殊な機構が現出し、視界に映る構造モデルと連動して、ゆっくりと編み出されていく。
用途不明のパーツは外殻だけを素早く剥ぎ取り、導電層だけを残す。魔銅貨は機構の複雑な内部構造を正確に把握した上で、最小限の力で機構の形に沿って割り、最適な形状を保ったまま抽出する。
ガラス片は粉砕した瞬間に粒径が揃い、ウィンドウで示された絶縁用のコーティングにぴたりと一致する。
こうしてウィンドウ内の情報に過ぎなかった機構が、複数の素材が折り重なり、この世に存在する物質に変換されていく。
寄せ集めだった物が、明確な役割を持つ部品へと生まれ変わっていく様子は、単なる映像という感動を超えて、このゲームの奥深さに魅入られていくような感覚へと変貌していった。
「ああ、最高すぎる!こんなにも素晴らしいゲーム、今までにあったか……?」
導線はエネルギーの流れに沿って、無駄なく曲線を描きながら敷設される。制御層は負荷が集中する節点に組み込まれ、揺らぎを吸収する補助構造も細かく調整しながら配置される。
いよいよ完成かといったところで、私の背後にとてつもない存在感を放つ何者かが現れたのを感じる。
『拙い祈りが届いたゆえ何事かと確認に参ったが、中々どうして面白いことをしているではないか、我が寵児よ』
げっ、機神様!?あんなに適当な祈りだったのに、しっかり届いてる!?
「あ、あの祈り、届いていましたか……」
『当たり前よ、我の庇護する者の中でも寵児はルイス、そなただけよ』
ふむ、そうなのか。いや寵児と言えば殊更に目をかける眷属のようなものとして認識していたが、あながち間違ってはいないのかもしれない。
すると、気配が背後から私の側面に移動した。これ、横を向けば彼女の姿が見えてしまうが、見ても良いのだろうか……。
神って見てはいけない、んだよね……?あれ、それってこの世界の神にも適用されるのだろうか?どうしよう。
とりあえず目を向けずに目の前のウィンドウに集中していると、機神が少し笑ったような気配を漂わせた。
「あの、以前に私の力が足りないので、長時間お話することができない、のような趣旨のことを仰っていたような……、今は大丈夫なので?」
『ああ、その事なら心配いらん。我が庇護する種族として生まれ落ちた者がかなり増えてな、その者らから届く力のおかげで、かなりの余裕ができたのよ』
なるほど、当然私以外にも機械系の種族はいるだろうし、その種族として開始したプレイヤーも多くいるだろう。
『もちろん我が手で作り上げたそなたが最も大切であるが、それだけでは立ち行かぬゆえ、な。それに彼らを見ていると、退屈しなくて良い』
そう言われると少し照れるな。
神は庇護する種族を観察することができ、その一挙手一投足を楽しんでいるらしい。これは掲示板でも話題になったことで、信仰する神に気に入られると、突然声をかけたり、姿を見せることがあるそうだ。
「と、ところで機神様、この機構、どうでしょう……?」
せっかくだし、この世界で最もこういったものに精通している方にアドバイスを貰おう。もしかしたらこれを更に良くする何かを教えてくれるかもしれない。
『ふふ。ふむ……、そなた、この機構に魔物の素材は使っていないようだな』
「はい、繊維片と幾本かの毛はありますけど、如何せん量が圧倒的に不足しているので」
たしかに今回の機構制作に魔物由来の素材は未使用だが、たしかに少しだけならあったな。それがどうかしたのだろうか?
『とりあえず見せてみろ』
私があるだけの素材を見せると、機神様はそれを手に取って眺めた。その手は想像していた機械仕掛けの物ではなく、きちんと美しい人の手だった。
『ふむ。どちらもバーグターナーの物だな。これなら熱に弱い箇所を補う形で使える』
そう言うと、彼女は片手の上に素材を乗せ、何やら特殊な操作を始めた。
『我が寵児ルイスよ、しっかりとその目に刻んでおけ。これが魔物を素材として使う方法よ!』
掌の上に置かれていた素材は、徐々に青白い光の粒子に姿を変え、現出しつつあった機構の内部にスルリと入った。
ウィンドウで確認すると、明らかにその性能が跳ね上がっているのが分かる。どういうことだ?あれだけの性能を上げるリソースがあの小さな繊維片と毛にあったとでも言うのか?
『魔物由来の素材をそのまま使うよりも、今やった一手間を加えた方が何倍もその力を利用できるのだ』
今やった一手間って、たしかにしっかりと観察したが、よく分からなかった。辛うじて魔力を操作していたのは分かったが、それ以外に何も分からなかった……。
『そう拗ねた顔をするな。良いか、魔力とは命じればその願い通りに力を変える性質があるのだ。火にも水にも土にも姿を変えるし、もっと根源的なものにも変化させることができる』
そう言うと、機神様は掌の上に魔力を集めて球状に変形させ、火、水、土と姿を変化させた後、もっと恐ろしい別の何かへと姿を変えた。
『ふむ、そなたには大地魔法のスキルがあるようだな。その練習もこうすると捗るだろう。分かっただろう?魔力に命ずるのだ、望むままに姿を変えよ、とな』
今、凄いことを教えてもらっているのではないだろうか。大地魔法の訓練方法も教えて貰えた。というよりも、魔物の素材を使えるようにするのと、大地魔法を訓練するのが同じ概念なのだろう。
「ありがとうございます、とても参考になりました」
魔力に望むままに姿を変えるよう命ずる、か。これは今後の作業でも大いに役立つことだろう。
『さて、いつまでも寵児の作業を邪魔するわけにはいかない。我は帰るとしようか。では、試練の克服を目指して励むのだ』
そう言うと、一陣の風と共に強烈な気配が霧散した。
「行ってしまわれた……。しかし、この機構も最後の仕上げだな」
最後に、核となる雷の魔石を中心に配置することで完成だ。
「せっかくだし、先程理解した方法を利用してみるか」
完成間近の機構に雷の魔石をかざし、強く念じる。
この魔石の力を以て一つの機構を成し、我が身を動かす燃料を集めよ。如何なる時も絶やさず、常に満ちよ。この崩れかけの心臓と一つになり、我が身に眠る力を呼び覚ませ!
強く念じながら魔石を機構に組み込むと、全体の構造が一つに統合される感覚が走る。力の流れが一本の系へと収束し、各所の部品が個別に持っていた力が一つの機能として練り上がる。
「これが私の新しい心臓になるのか……」
姿勢を崩し、思わずできあがった機構を眺める。使える限りの素材を、使える限りの力で組み合わせた、この世に一つだけのアイテムだ。
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【PM】特殊リアクター補助機構
┗プレイヤーが作り上げた、複雑な機構を持った精密機器。吸収同化を使用することでリアクターと結合し、周囲に漂う魔力などからエネルギーを生み出す。
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レアリティPM……たしかプレイヤーメイドだ。自分だけのオリジナリティを持って制作した作品につくレアリティだったはず。
完成した機構をじっくり眺める。
雷の魔石は静かに脈動し、周囲の導線と共鳴して微かな光が走った。耳を澄ますと、ごく低い周波の振動音が聞こえる。
注意深く観察すると、導線が微細に膨らんだり、収縮したりするのが見える。まるで、生き物が呼吸しているようだ。
この段階で初めて、これが単なる装置ではなく、吸収という複雑な運動をするための機械であるということを理解した。こんな機能を持った機械すら、スキルと発送だけで作れてしまうのだ。
これを応用すれば、私の右目や右腕もいつか作れるかもしれない。
私が満足すると視界にあったウィンドウが消え、世界が元の色に戻った。後に残るのは、この特殊な機構ただ一つ。
よし、早速だが吸収同化の時間である。




