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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ


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第13話『動き出す体』

 私は出来上がったばかりの特殊リアクター補助機構を左手で持ち上げる。掌に伝わってくる感触は硬質でありながら、ただの金属塊とはどこか違う。


 複雑に折り重なった導線の一本一本がごく微かに脈打ち、中心に据えられた雷の魔石は、まるで本当に鼓動しているかのように明滅している。


 これが私の新しい心臓になるのか。


 そう考えた途端、期待と緊張が同時に胸の奥へ沈んでいった。


 今の私の身体は、もはや血肉ではなく、朽ちかけた機械の躯だ。けれど、この機構を取り込めばエネルギーを生み出すことが可能になり、この体に眠る機能を使うことができるかもしれない。


吸収同化アシミレーター、起動」


 今までは細々とした修理のためにしか使用してこなかったスキルだが、本来は機神より授かりし特別な力なのだ。その力を十全に発揮できれば、私の想像以上の結果を齎してくれるだろう。


 最低限、身体を辛うじて動かすためだけに細々と働いていた、瀕死の炉心。


 強く意識すると、手の中の機構が反応する。


 雷の魔石を中心とした導線群がいっせいに淡く発光し、その光が糸のようにほどけて私の胸部へと伸びた。


 糸はそのまま装甲の隙間へ滑り込み、私のリアクターへと侵入していく。


「っ――」


 思わず息を呑んだ。熱いわけでも痛いわけでもないが、何とも言葉にし難い不思議な感覚だ。数瞬先端の尖った触手に胸を穿たれたのかと思い驚いたのも無理ないだろう。


 異物が入ってくる感覚とも違う、奇妙な圧迫感があった。失われた回路の隙間へ、新しい神経が一本一本差し込まれていくような、そんな感覚だ。


「このゲーム、やっぱりとんでもない技術が使われいるだろう……!今、とんでもない経験をしているのではないだろうか」


 目の前で起こっている摩訶不思議な光景とは裏腹に、特殊リアクター補助機構は、物理的に胸板に元々あった別の組織や機構を壊すことなく溶け込んでいく。


 輪郭が崩れ、光状の粒子になり、それでも尚かくあるべしと定められた機能だけは失わぬまま、吸収同化の権能によって私の内部へと折り畳まれていく。


 朽ちかけたリアクターが、神より授かりし力によってより効率的な構造に蘇っていくのがわかる。


 瞬間。


 身体の内側で、何かが繋がった。それは比喩ではなく、本当に回路が接続された感覚だった。


 断線していた道に電流が走る。乾き切っていた管路に、初めて流体が満ちる。今までにない体の重さを感じる。空洞ばかりだった身体の内部を、熱にも似た何かが一気に駆け巡っていくのが分かった。


「う、わ……っ!?」


 思わず声が漏れた。この枯れ果てた体にエネルギーが流れ出している。


 今までは、動くために無理やり身体を引き摺っていたに近い。各部に余裕などなく、起動しているのは本当に最低限の駆動系のみ。


 胸部から発した力が、肩から脊柱へ、腰部ユニットへから脚部へ、首から頭部へと次々に流れていくのが分かる。


 今まで沈黙していた内部回路が順に点灯し、死んだように重かった身体のあちこちで、小さな起動音が連鎖していった。


 「お、おお!」


 映画などでグッタリとしていた機械が起動し、力が入っていく描写が大好きなのだが、今正に同じことが私の体でおきている。


 これまでずっと無音だった身体の奥から、自分でも知らなかった機能音が響き始めたからだ。


 肩の内側で極小のモーターが回りだし、背中で圧力弁のようなものが一瞬だけ開閉するのを感じる。そのまま腰辺りまでパカパカと故障したスラスターが開閉を繰り返し、内に込められた圧力を逃がした。


 上腕では小さなパーツがカチカチと音を立てながら変形しては、何かを確かめるように蠢き、また元の形に戻っていく。


 まるで、長い冬眠から目覚めた巨大な機械が、慎重に自らを再起動しているようだった。いや、実際そうなのだろう。


「すごい……なんだこれ、すごいぞ……!」


 思わず感動してしまった。いや、本当にすごい。このゲームをはじめてから一番の感動かもしれない。


 立ち上がる前から分かる。身体が軽い。


 いや、軽いというよりも、各部がちゃんと自分のものとして噛み合っている。今までの私は、壊れた人形を無理やり動かしていたに過ぎなかったのだと、今さらのように理解する。


 胸部の奥で、補助機構とリアクターが結び付いたのが分かった。


 補助機構が周囲の魔力を取り込み、整流し、私の機体を動かすのに適したエネルギーへと変換している。その循環が一度成立すると、あとは自然に全身へと回り始めた。


 かつて空虚だった身体の中心に、確かな満ち足りた感覚が生まれていた。


 そのときだった。


 頭部の奥、これまで死んだように沈黙していた領域で、何かが弾けるように明滅する。


「ん?」


 驚く間もなく、視界の右下に小さな円環状のウィンドウが展開される。白い光が幾何学模様を描くように走り、その中心に簡素なアイコンが浮かび上がった。


 次いで、静かで落ち着いた声が脳内へ直接響く。


《支援補助知性ユニット、再起動を確認。多くの機能に損耗多数。使用可能機能を検討し、仮起動モード選択。簡易名称を暫定再設定します》


 数拍の間を置き、声は続けた。


《サポートAI〈マリー〉、オンライン》


 私は目を見開いた。


「支援AI?たしか試練にそんな文言があったような……」


《長期間のエネルギー不足および機体損傷により、待機状態へ移行していました。現在、この体が生成するエネルギーが当機能の最低稼働閾値を突破。補助対話機能、機体診断機能、その他機能の一部が復旧しました》


 ただの機械的な表示ではなく、会話可能な支援知性だというのなら、色々とお世話になることが増えるかもしれないな。


「ところでマリー、君はどんな能力が使えるのかな?」


《機能制限下ではありますが、この体に備え付けられた多くの機能やシステムを使用可能です。なお、現在の機体状態は依然として深刻です。まずは機体診断を推奨します》


「お願いする」


《了解。全身スキャンを開始》


 マリーがなにやらしているようだが、特別な感覚は一切ない。ただ、頭部から足先まで、青白いラインが何度も往復する。


 内部構造まで覗き込むような感覚に、一瞬だけ落ち着かなさを覚えたが、すぐにそれよりも興味が勝った。


 この身体は、いったいどこまで壊れているのか。そして、どこまで戻せるのか。この街を探索することでその材料は回収可能なのか。右目は?右腕は?


 数秒後、視界中央に診断ウィンドウが展開される。


 文字列に無駄はなく、容赦がなかった。


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


【機体診断報告:個体識別名 ルイス】


 ■主動力系

 ♦特殊リアクター補助機構との結合を確認

 ♦エネルギー供給状態:改善

 ♦慢性的枯渇状態:解除


 ■頭部

 ♦右眼部ユニット:欠損

 ♦左眼部ユニット:機能低下小

 ♦視覚補正:限定稼働中


 ■上肢

 ♦右腕部ユニット:欠損

 ♦左腕部ユニット:動作可

 ♦出力補正:低下中


 ■背部

 ♦補助推進機構:重大損傷

 ♦背部ブースター:使用不能

 ♦姿勢制御補助:一部停止


 ■胸部

 ♦主炉心周辺フレーム:劣化中

 ♦循環効率:暫定安定


 ■下肢

 ♦左脚部:摩耗中

 ♦右脚部:摩耗中

 ♦移動性能:制限あり


 ■特記事項

 ♦頸部深層伝達ケーブル群に断続的異常反応を確認

 ♦高負荷時、信号遅延・感覚のずれ・一時的な制御不全発生の可能性あり


【総合評価】

 ♦即時停止の危険は低下

 ♦ただし機体損傷は重度

 ♦継戦能力・機動能力は不十分

 ♦速やかなオーバーホールと全身メンテナンスを推奨


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


「……うわぁ」


 思わずそんな声が出た。


 ひどいとは思っていたが、実際に一覧で突き付けられると想像以上だ。右目なし、右腕なし、背中のブースターは死んでいて、それに加えて頸部の深層伝達ケーブル群に異常。


 頸部ということは、頭部と胴体を繋ぐ重要部分だ。


「マリー、この頸部深層伝達ケーブル群の異常、具体的には?」


《頭部演算部と機体各部を接続する高密度伝達路です。現在、複数箇所で被覆破断および内部劣化を確認。通常動作では誤魔化せますが、高負荷機動、戦闘、精密作業の継続時に深刻な問題が発生する可能性があります》


「つまり?」


《今のままでは、激しい戦闘や派手な動き、繊細な操作が求められる力の使用時、また回避行動中などに身体が意識した動作とワンテンポ遅れる可能性があります。感覚と動作の同期不全が起きた場合、転倒、誤動作、最悪で追加破損へと繋がる危険性があります》


 それは、かなりまずい。


 エネルギー問題は解決した。少なくとも、今この場で停止する危険は大きく下がった。それは大変喜ばしいことである。だが身体の中身そのものは、依然として壊れたままだ。


 しかも頸部というのは、どう考えても後回しにしていい場所ではない。右腕や右目の欠損なら、極端な話、しばらく無くても動ける。だが、制御信号?のようなものそのものが乱れるのは致命的ではないだろうか。


 これは早急に対処しなくてはいけないな……。


「修理はできそうか?」


《可能です。エネルギーを生み出せるようになったことにより、アクティベートされた機能を利用することでより素早く、より的確に修理を施せます。ただし、現状の所持素材では不可能です》


「やっぱりか」


《推奨修復素材を検索します》


 視界に小さな検索ウィンドウがいくつも展開され、マリーが何かしらの内部データベースを参照しているらしいことが分かる。しばらくして、候補が三つほど提示された。


 いや、これ……絶対に機神様が私を作る時に組み込んだライブラリだ。


 新しい機能群にはおいおい馴染んでいけば良いと思っているが、こういった便利機能の使い方は知っておきたいな。念じればいけるか?マリーに後で詳しくし教えてもらおう。


《頸部深層伝達ケーブル群の補修に適した素材候補を表示します》


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


【推奨素材候補】


 ■銀索蜘蛛の導線腺

 ♦推定獲得難易度:イージー

 ♦高い情報伝達性と柔軟性を持つ生体導線素材

 ♦断線補修および高感度信号路の再構築に適性あり


 ■蒼晶ケーブル樹の芯線

 ♦推定獲得難易度:イージー

 ♦魔力親和性に優れた植物素材

 ♦加工難度はやや高いが、安定性は高い


 ■雷紋蜥蜴の脊導糸

 ♦推定獲得難易度:ノーマル

 ♦高性能だが入手難度高

 ♦現時点での獲得は推奨外


【現時点での最適候補】

 ■銀索蜘蛛の導線腺


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


「銀索蜘蛛……」


 名前からして、それっぽい。まだ六脚のおかしな機械としか戦っていないが、この世界には当然もっと多種多様な生物が存在している。お馴染みのモンスターや怪物から、他のゲームにはあまり出てこないものまで。


 蜘蛛なら糸を出す。導線腺というくらいだから、その糸か、糸を生み出す器官が目的素材なのだろう。


「マリー、銀索蜘蛛って今の私でもどうにかなりそうな相手か?」


《個体差はありますが、単独行動個体であれば現状でも対処可能と推定します。ただし、巣域では複数遭遇の危険あり。深い森や洞窟、都市内部の配管区画、地下通路などに多く生息しています》


「この街の地下にもいるだろうか」


《詳細はソナーやマッピングなどの機能を使わないと判別できませんが、その可能性は高いでしょう》


 私は立ち上がって、軽く肩を回してみた。今までとは比べ物にならないほど身体は動く。それでも、どこかに不安定さが残っているのも分かる。


「うーむ。避難所って、やっぱり地図を見る限り地下……だよな?なら、結局目的地は変わらないのか」


《これまでの行動からマップを作成。メモリから手書きの地図を参照します。作成したMAPの一部と符合する箇所を発見しました》


 仕事が早すぎる。やっぱりAIは偉大だ……。日々の生活をとんでもなく豊かにしてくれているだけあるな。私なんて、AIがなければ日常生活もままならないのだから。


 思いつきからの行動だったが、思いのほか多くの恩恵があったな。よし、銀索蜘蛛の導線腺を手に入れて、頸部の深層ケーブルを修復すること。


 そうすれば、少なくとも今よりまともに戦えて、まともに動けるようになるだろう。右腕や右目、背部ブースターの修復はその先だ。


 私は無意識に、失われた右側へ視線を落とした。瞳がないので首ごと移動する。右腕は無い。右目も無い。背中のブースターも死んでいる。


 ただ、以前よりはマシだ。


 これなら、いくつかの試練を克服していてもおかしくないだろう。未だ試練の克服についていての情報が不足しているのでなんとも言えないが、デバフを打ち破ることはできたはず。


「よし」


 小さく呟く。


「とりあえず、まずは銀索蜘蛛だな。導線腺を手に入れて、首の中身をどうにかする。そのあとで右腕、右目、ブースター……順番に取り戻していく」


《目標設定を確認。次の優先任務を更新しました》


 視界の端に、新たな表示が灯る。


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


【優先任務更新】

 ♦避難所を探索し、頸部深層伝達ケーブル群の修復素材を確保せよ


【目標素材】

 ♦銀索蜘蛛の導線腺


【推奨探索地点】

 ♦廃都市地下通路

 ♦旧配管保守区画


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


《補足します。銀索蜘蛛の糸は光を反射しにくく、視認が困難です。索敵時は正面だけでなく、頭上と足元にも注意してください》


「了解。……しかし、急に冒険っぽくなってきたな」


 今までも十分に冒険だったし、厳しい戦闘も経験したが、やはりファンタジーと言ったらこういうのだよ。


「待ってろよ、銀索蜘蛛よ」

 これにて一章は終わりです!

 数話の閑話を投稿し、二章の投稿を開始します。


 それから、また評価してくださった方がいたみたいで、本当に嬉しいです(T_T)


 二章はもっと面白い作品にできるよう、精進を続けていきます。


 今後も応援、よろしくお願いします!

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