第98話『第一回イベント④意外と順調な道中』
お待たせしました。
とりあえず毎日投稿できる位にまで書き終えましたので、これからはコンスタントに更新できるかなと。
部屋の奥から続く通路は、先ほどまで歩いてきた一本道よりも少しだけ幅が狭かった。狭いというのは、それだけで動きを封じる枷になるので、正直かなり嫌らしいなと思う。
壁に埋め込まれた淡い光源の数も減り、足元に落ちる影がより一層濃くなる。徐々にだが、ポラリスらしい牙の剥き方をしてきたなと感じるばかりだ。
私は周囲への警戒をより強くするために、あえて速度を落として進む。
さっきの宝箱はこれといって罠もなく、回復薬を三本吐き出して終わった。落とし穴も、イビル・ゴブリンも、このインスタントダンジョンの確認用としてはかなり分かりやすい配置だったのではないだろうか。だからこそ、そろそろ別の顔を見せてくる頃合いでもある。
と思った矢先に、肌の表面に薄い膜を押し付けられたような、妙に嫌な空気を感じた。ただ、ここに立っているのはまずい、という感覚だけが首の後ろを細く撫でた。
私は反射的に後ろへ跳んだ。
機械の脚が石床を蹴り、身体が一気に後方へ下がる。次の瞬間、先ほどまで私の胴体があった空間を、左右から放たれた矢が交差するように走り抜けた。
ヒュッ、と鋭い風切り音が耳に届く。
矢は空中で綺麗なクロスを描き、そのまま反対側の壁へ突き刺さった。私に当たらなかった二本の矢は、ちょうど左右の壁面で震えている。軸の揺れが小さくなっていく様子を眺めながら、私は姿勢を低く保って数秒間動きを止めた。
「……おお」
《罠の作動を確認しました》
「それは私にも分かる」
問題は、何がきっかけだったのかだ。
私はすぐには前へ戻らず、細棒を一本取り出した。先ほど足を置いた辺り、踏み込もうとした辺り、その周辺の床を順番に叩く。石床は硬い音を返すだけで、沈む感触はない。床板の切れ込みも見当たらない。壁に顔を近づけて矢の射出口らしき場所を探すと、光源の影に紛れるような細い穴がようやく見つかった。
だが、それだけだった。
残念ながら起動の仕組みまでは分からない。床の荷重か、通過か、見えない細糸か。あるいは、こちらが一定の場所を越えた時点で反応するような、もっと別の仕掛けかもしれない。あるいはそんな仕組みなんてなくて、ただゲームのシステム的に行われた攻撃だったのかもしれない。いや、ポラリスでは有り得ないか……。
「星一つでこれかあ」
少しだけ驚く。あからさまな落とし穴を見せたあとにこういった罠を置き、初心者向けという言葉を盾にして油断させた上で、油断した者の腹か首へ普通の矢を突き立てる。
私は壁に刺さった矢を一本抜いて確認した。
どこにでも売っていそうな木の軸に、鉄の鏃。作りは粗い。毒が塗られている様子もなく、簡易鑑定にかけても特別な表示は出ない。分類としては、本当にただの矢だった。
「普通の矢か」
念の為にと矢をインベントリへ収め、改めて前を向く。
今の回避は、罠を見破った結果というより、嫌な感覚に反応できただけに近い。次も同じように避けられる保証はない。私は足元だけでなく壁と天井にも目を配りながら、罠が発動した地点を慎重に越えた。
そこからしばらくは、静かな通路が続いた。とはいえ、何も起きない時間が、次に何かを起こすための溜めに思えてくるのは、これまでの仕打ちから当然のことと言えるだろう。
そうして唐突に現れた角を一つ曲がったところで、今度は明確な気配を感じた。これは生物の発するモノに違いない。
読み通り、前方の闇の中で三つの影が蠢いた。
微かに見えたのは、小柄な人型だ。濁った緑色の皮膚。尖った耳。ひび割れた唇から覗く歯。先ほど見たものと同じ、瘴気に侵されたゴブリンだ。ただ、今度は手にしている物が違う。
一体は錆びた剣を握っていた。刃は欠け、赤茶けた錆が浮いているが、振られれば十分に凶器になる。一体は短い槍。穂先は歪んでいるものの、狭い通路では厄介に違いない。最後の一体は小振りな斧を肩に担いでいる。他と同様に刃の状態は悪いが、重量で叩きつけられれば私の外装を削るくらいの力はありそうだ。
「三体か」
私は簡易鑑定を飛ばした。
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▼基礎情報▼
♦名称:イビル・ゴブリン
♦属性:瘴人
♦レベル:4
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▼基礎情報▼
♦名称:イビル・ゴブリン
♦属性:瘴人
♦レベル:4
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▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
▼基礎情報▼
♦名称:イビル・ゴブリン
♦属性:瘴人
♦レベル:5
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前に斬り殺した個体よりも幾分か強い。しかも三体か。武器も棍棒よりずっと面倒な種類を持っている。
「これはなかなか……」
ゴブリンたちはこちらを見つけるなり、濁った叫び声を上げた。こちらから見て中央に槍持ち、左に剣持ち、右に斧持ち。ただでさえ狭い通路の幅を使って広がり、じりじりと距離を詰めてくる。
私は骸を引き抜いた。
「まあ、来るなら仕方ない」
待つより先に、こちらから踏み込む。
私は床を蹴り、左の剣持ちへ向かって斜めに飛んだ。最初にコイツを狙った理由は特に無い、強いて言うなら勘だ。中央の槍が突き出されるより早く、間合いを潰す。剣持ちのゴブリンが喉を鳴らし、錆びた刃を横に振った。
「ぐっ」
単体ならそのまま首を落とせたが、槍の穂先が視界の端から伸びる。更にその横からは斧持ちも動いている。私は骸の腹で振るわれた剣を受け流しながら、斬撃の軌道を浅く変えた。
攻撃を弾いた刃はそのまま剣持ちの肩口を裂くに留まる。次の瞬間、頭上から斧が落ちてきた。
「チッ、忙しいな」
足を引き、体全体を使って斧の軌道から逃れる。石床に叩きつけられた斧が鈍い音を立て、細かな欠片が跳ねた。私は左手を前に出し、大地魔法で足元の石片を弾く。飛んだ小石がベチンと槍持ちの顔へ当たり、そいつの姿勢がわずかに乱れた。
剣を持つゴブリンは肩を抑えて喚いているので、接近の心配入らない。まずは大きな隙を晒しているコイツか。そのまま中央へ詰める。
戻りかけた槍の柄を骸で弾き、グッと奴さんの間合いに踏み込むのと同時に勢いを乗せて腕を斬る。穂先を支えていた片腕が飛び、ゴブリンが甲高い悲鳴を上げた。
ようやっと落ち着いたのか、背後から剣持ちが迫るのが見えた。
私は身体を捻り、返す刃で剣を弾いた。金属同士がぶつかり、耳障りな音が通路に跳ねる。力はこちらが上なので、力一杯押し込む。ゴブリンの細い腕が震え、姿勢が崩れた。
その首へ、横薙ぎの一閃を入れる。ド派手な血潮を噴きながら一体目の頭が飛んだ。
衝撃によって背中から倒れた遺骸は淡く光り、粒子となって解けていく。その消失を見届ける暇はない。斧持ちが低く唸りながら突っ込んできたからだ。中央では、片腕を失った槍持ちが残った腕で槍を拾い直そうとしていた。
《右方、斧》
「ああ、見えている」
斧の振り下ろしを半歩で外し、逆に斧の柄の内側へ入る。近すぎる間合いでは斧の刃は使いにくかろう。私は肩からぶつかるようにして斧持ちの体勢を崩し、そのまま倒れるように体を傾けて思い切り膝を入れた。ボキという骨が砕けるような感触を残し、小柄な身体が壁へと叩きつけられた。
そこへ骸を突き込もうとした瞬間、槍の穂先が視界の端で光った。
片腕の槍持ちが、無理やり身体を捻って突いてきていたが、その姿勢は悪く、私に致命傷を与え得る威力は乗っていない。それでも、意外な角度から伸びた穂先は、私の左脇腹を掠めた。
ガリ、と嫌な音がする。外装に細い傷が走り、容易く屠れる雑魚に攻撃を受けたという事実が頭の中にはっきりと残る。
「……なかなかやるじゃないか」
思わずニヤリと笑う。苛立ちより先に、愉悦とも呼ぶべき感情が湧き上がってきた。星一つのくせに、なかなかやる。
私は壁からコチラに向かって倒れてきた斧持ちを蹴り飛ばし、先に槍持ちへ向かった。これ以上、変な角度から突かれるのは面倒だからな。ここで仕留めておこう。私と同じく片方の腕でまだ槍を構えようとするその心意気には感じ入るモノがあるにはあるが、そんなことはどうでも良い。ゴブリンの死角から生み出した石塊を後頭部へ叩き込み、ガクリと怯んだところで首を斬り落とす。二体目が消える。
初めからこうしておけばと思わなくはないが、それだと何の経験にもならないからね。今の私には色々な工夫を凝らし、相手を膾にする訓練が必要なのだ。
残った斧持ちが、壁に背を擦りながら這う這うの体で立ち上がった。片目が潰れ、口から濁った唾液を垂らしている。その腹は痛々しく陥没し、所々に骨らしき白が突き出ていた。
「最後」
斧持ちが叫び、最後の力を振り絞ってこちらへ突進する。その勢いはなかなかのものだが、この通路では十分な加速を得られまい。
私はソレを真正面から迎えた。斧が振り上がる。が、動きは緩慢だ。それを見て左へ体を流し、斧の柄を骸で叩き斬る。そのまま手首を返し、刃を喉元へ滑り込ませた。刃が喉仏を穿った刹那、その更に奥まで突き込む。
三体目の身体が崩れ、淡い光の粒となって消えていく。通路には、たった今まで三体の死骸が横たわっていたなんて感じさせないほど潔癖だ。ただ、私の左脇腹に刻まれた細い傷だけが、今の戦闘が現実味のあるものだったと主張しているが、それも最適化によってすぐに消えてしまった。
《損傷、軽微。継戦に支障なし》
「一撃貰ってしまったよ。油断が無かったとは言えないかもね」
視界の端に通知が浮かんだ。
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♦イビル・ゴブリンを討伐しました。
♦イビル・ゴブリンを討伐しました。
♦イビル・ゴブリンを討伐しました。
♦経験値を獲得しました。
♦ダンジョンポイント[16]を獲得しました。
♦以下のアイテムを獲得しました。
▼ゴブリンの耳×3
▼錆びた剣〔破損〕×1
▼歪んだ短槍〔破損〕×1
▼欠けた小斧〔破損〕×1
▼粗末な腰巻×2
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「十六」
思ったより美味しい。
ソロに対して三体で仕掛けてきたこと、相手のレベルが少し高かったこと、こちらが一撃しか貰わずに処理したこと。その辺りが評価されたのだろうか。細かな基準は分からないが、苦労を考えればこんなものだろう。
経験値もそれなりに貰えたと思うが、残念ながらレベルアップはなかった。
「それにしても、面白い戦いだったな」
今の戦闘で分かったことは多い。星一でも油断すれば攻撃を食らう。複数戦では、今の身体能力でも完全には捌き切れない、なんせ腕一本だし。ロヨンやモリアが横にいれば楽だった場面が、ソロだときちんと面倒になる。
「先に進もう」
《了解しました》
そこからしばらくは、以前と同じく特に何も起きなかった。先ほどの戦闘で張り詰めていた神経が、歩くたびに少しずつ冷えていく。そんな中、通路は緩やかに地下方面へ下り、壁の白灰色の層が濃くなっていった。
そして、唐突に長々と歩いた通路が終わる。目の前に、大きな両開きの扉が現れたのだ。
これまでの石枠や小部屋とは明らかに違う。扉は白灰色の石を組み合わせたような質感で、両扉には粗い爪痕にも似た線が刻まれている。中央の合わせ目はピタリと真っ直ぐで、そこから微かな光が漏れていた。
この先には、今までの雑魚とは違う者がいるというのが分かった。
「いかにも、という顔をしているね」
《最奥領域、またはそれに準ずる区画である可能性が高いと判断します》
「いわゆるボス部屋かな」
私は扉の前に立ち、腰に戻した骸の柄を軽く握った。星一つで、その誘い文句は初回挑戦者向け。探索重視。その言葉をそのまま信じるなら、この先にいる相手も、どうにかなる範囲に収まっているはずだ……。
私は一つ小さく息を吐いた。
「よし。一思いに行こうか」
《戦闘準備を推奨します》
「もちろん」
私は重い両開きの扉の左側へと手をかけ、グッと力を入れた。扉は見た目ほどの重さは無かったが、それでもズシリと来るものはある。そのまま力を加え続け、扉を開いた。漏れ出た微かな光からも分かるように、室内は通路よりも明るく広い。
ブラジル戦、惜しかったですね……(T_T)




