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白翼の光  作者: 月凪
第四巻 希望と影は光を紡いで

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第79話 白い夢の中で


――夢の中。


そこは、無限に広がる純白の世界だった。


壁も床も天井も、

すべてが柔らかな光で満ちている。


どこまでも続く空間には、

境界というものが存在しない。


空気は優しく温かく、

微かに甘い花の香りが漂っていた。


足を下ろすたび、

雲のようにふわりと沈む床。


まるで、世界そのものが

自分を抱きしめているかのようだった。


小学生くらいの姿の光は、

希の膝の上に頭を預けていた。


温かい膝枕。


優しく髪を撫でてくれる、

大好きな手のひら。


その感触だけで、

光の胸の奥がじんわりと熱くなっていく。


光はうっすらと目を開け、

その手をそっと握りしめた。


「お母さん……」


希が、優しく微笑む。


その声が、白い世界全体に柔らかく響いた。


「ありがとう、光」


光も小さく微笑み返す。


「ふふ……何でありがとう?」


希は光の頭を優しく撫でながら、

静かに言った。


「影目くんのこと……


お母さんも、

ずっと気になってたから……」


ハッとして、

光は跳ねるように身体を起こした。


瞳が大きく見開かれる。


「お母さん……


影目のこと、

どうして知ってるの?」


光の慌てた様子に、

希はくすくすと楽しそうに笑った。


「影目くんはね……


お母さんの、大切なお友達」


光の指先がぎゅっと震えた。

胸が、痛いほどに締め付けられる。


「……私は、お母さんの、お友達を……」


希は光をそっと抱き寄せ、

温かい腕でその背中を包み込んだ。


「違うよ。


光は影目くんを、

救ってくれたの。


だから……ありがとう」


光は希の肩に頬を強く押しつけ、

目をぎゅっと閉じた。


喉の奥が、熱く焼けるように詰まっていく。


「そっか……そうだと、いいな……」


希は光を抱きしめたまま、

優しく頭を撫で続けた。


「……いっぱい、傷ついちゃったね。


ごめんね」


光は首を横に振った。


「大丈夫……


このくらい、すぐ治るよ。


ねえ、お母さん……


どうして、お母さんと

影目は友達だったの?」


希は少し遠い目をして、穏やかに答えた。


「影目くんはね……


ずっと一人だったんだと思うの」


優しい風が、二人の間を

そっと通り抜けていく。


「だからかな。


なんだか、

放っておけなかったんだよね」


光の表情が曇り、小さな唇を軽く噛んだ。


「友達なのに、

戦わなきゃいけないなんて……悲しいね」


希は光の頭を優しく撫で、静かに言った。


「光は本当に優しいね……。


でも、影目くん……


最後、笑ってたでしょ?」


光は寂しげに、コクンと頷いた。


希は穏やかで、

どこか切ない笑顔を見せた。


「だったら、大丈夫」


光は不思議そうに、

けれど少し寂しげに首を傾げた。


「でも……やっぱり、

友達とはずっと一緒にいたいよ」


希は少し驚いた顔をした。


まるで、自分なら

決して口にできない願いを

聞かされたかのように。


すぐに光を強く抱きしめ、

穏やかで切ない笑顔に戻る。


「うん。光はそのままでいいの。


光は光。私は私。


私は、そんな光が大好きだよ……


ずっと、ずっと」


そう言って、希はもう一度、腕に力を込めた。

まるで、二度と離したくないと願うように。


「ありがとう、光。


そのままの光でいてね」


光は希の肩に顔を埋め、

そっと目を閉じた。


お母さんの温かさが、

胸の奥の一番深いところまで

染み渡っていく。


「うん……

いつも守ってくれてありがとう。


お母さん……」


その瞬間――。


世界が、静かに息を吐いた。


純白の光が、ゆっくりと溶け始める。


まるで雪が春の陽射しに溶けるように、

あるいは朝靄が優しい風に晴れていくように。


白い粒子が、母娘の周囲で

優しく舞い上がった。


二人の間にあった温もりも、

甘い花の香りも。


すべてが優しい光の粒子となり、

無限の白へと還っていく。


光は薄れゆく意識のなかで、

最後にその温もりを胸に刻み、

小さく微笑んだ。


(お母さん……また、会えるよね……?)


白い世界は、母の愛だけを残して。


静かに、優しく、

光の意識の彼方へと

溶け落ちていった――。


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