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白翼の光  作者: 月凪
第四巻 希望と影は光を紡いで

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第72話 天使と死神のラスト・ワルツ


――ヴゥゥゥゥンッッ!!!!!


光の覚悟に呼応するように、

空刃の刃が一段と神々しく鳴動した。


解き放たれた純白の光の粒子が、

背中の片翼とともに

地下駐車場の闇を優しく、

力強く塗り替えていく。


湿っぽく不気味だったはずの

コンクリートの迷宮が、

今はまるで、侵すべからざる

聖域のようだった。


対峙する、天使と死神。


二人は互いの瞳を、

真っ直ぐに射抜くように見つめ合った。


影目の唇が、歓喜に歪む。


「クッ……ククク……ハハハハハ!」


張り詰めた静寂を破り、

影目が狂おしい笑い声を上げた。


「ミス光!


その眼差し、本当にそっくりです!


見間違えるほどですよ……!」


その瞳の中に、

あの日の『希』を見ていた。


私は、もう一度会いたかった。


影目の目は、そう語っていた。


「しかし……


名残惜しいですが、

この楽しい時間も

終わりが近づいてきました。


――では、


『ラスト・ワルツ』と参りましょう」


光は何も答えなかった。


ただ真っ直ぐに

影目の瞳を射抜いたまま、

脳細胞を極限まで加速させ、

勝利への細い糸を探す。


(あの時……


蓮司さんは、一体どうやって影目を

あそこまで追い詰めたんだっけ……)


脳裏に、前回の戦いの光景が

鮮烈にフラッシュバックする。


あの刹那、蓮司が自らの刀を投げ放った、

あの狂気じみた挙動。


(……!!


そうか……武器を手放せば……!)


光の胸に、確信の灯がともる。


(分かったよ……。


ありがとう、蓮司さん……!)


ふいに、影目がその胸にそっと右手を当てた。


吸い込まれるような優雅さで、

深く、静かに頭を垂れる。


ハラリ、と長い銀髪がこぼれ落ちた。


それはまるで、

この絶望的な決闘(ダンス)を

受け入れてくれた光への、

至高の敬意の表明。


影目の歪んだ、

けれど純粋な戦いへの情熱が、

その深く静かな

お辞儀のシルエットに凝縮されていた。


頭を上げた影目の顔には、

穏やかな微笑みがあった。


背中の大鎌の妖肢を一本だけ残し、

他の三本を黒い粒子へと分解。


それを再び収束させ、

禍々しい【銃口】の妖肢へと形を成していく。


「それでは……


さようなら。


ミス光」


――ドゴォォォンッ!!!!!


空気を爆ぜさせ、

凝縮された黒い妖気弾が

猛烈な速度で放たれた。


「――っ!」


光は躱しきれず、

その衝撃波が光の左の翼を鋭く捉える。


「あぁぁぁッ――!?」


左翼が半分以上吹き飛び、

光の華奢な身体は地面を激しく転がった。


コンクリートに叩きつけられ、

光はその場に蹲り込む。


(……痛い……熱い……っ、


翼が……!)


影目は小さく息を吐き、

どこか申し訳なさそうに肩をすくめた。


「ふう……


やはりこの技は扱いが難しいですね。


心臓を狙ったつもりだったのですが

……外れてしまいました。


次で、楽にさせて差し上げますよ」


光は血の混じった泥を吐き捨て、

歯を食いしばった。


残ったすべての力を振り絞り、

ふらつきながらも、もう一度立ち上がる。


「さぁ……


今度こそ終わりです!」


――ドゴォォンッ!!!!!


二度目の、逃れ得ぬ死の妖気弾が迫る。


光は上体を限界まで捻り、

狂気的な反応速度でそれを紙一重で回避。


それと同時に、

空刃を逆手に持ち替え、

右手を大きく振り上げた。


――ブゥンッ!!!


渾身の力で、

影目の顔面へ向かって空刃を投げつけた。


「……!?」


影目の目が驚愕に見開かれる。


空刃を手放した瞬間、

光の背中の翼が、

本来の妖気を取り戻す。


――ビュンッッッ!!!!!


影目は飛来する空刃を、

咄嗟に大鎌の妖肢で叩き落とした。


――ガギィィンッ!


激しい火花が散る。


だが、その大鎌の軌道は

すでに光の突撃を予測し、

無慈悲にもそのまま

斜め下へと振り下ろされていた。


影目のカウンター。

避ける術など、どこにもなかった。


――その、一瞬だった。


光の右の肩甲骨に、

焼けるような熱とは違う、

澄み切った感覚が走った。


背中の両側から、

同時に、猛烈な風が吹き抜ける。


まるで。


失われたはずのもう片方の翼が、

ほんの刹那、この瞬間のためだけに、

再び揃ったかのように。


影目が振り下ろした大鎌は、

確かに完璧だった。


しかし――


切り裂いたのは、

光が神速の残像として残していった、

白い妖気の衣だけ。


「…………」


(ミス光の姿が……


完全に消えた。)


影目の瞳が、

この戦闘で初めて、

深い困惑に揺れる。


次の瞬間、彼の真後ろで、

鋭い風の音が鳴り響いた。


その刹那。


影目の視界の端を、

白い光が二重に重なったような

幻想的な光の軌跡が駆け抜ける。


それは、確かに二つ、あった。


「なっ――!?」


気づいた時には、すべてが遅すぎた。


光は宙を華麗に舞いながら、

背中の翼の粒子を純白から

【硬質な淡い青】へと一瞬で変化させた。


重力をすべて味方に受けて、

最高速度のまま急降下する。


――その、すれ違う一瞬。


時間が止まったかのように、

二人の視線が真っ直ぐに交錯した。


上空から迫る光の、

迷いを捨て去った青い瞳。


それを迎える影目の、

すべてを受け入れるような穏やかな瞳。


言葉はいらなかった。


影目の口元が、満足そうに微かに弧を描く。


――その笑みが消えるより早く。


光は翼を振り下ろした。


青く鋭利に研ぎ澄まされた翼の刃が、

影目の胴体を、斜め上から一直線に両断した。


――ズシャァァァァァンッッ!!!!!


凄まじい衝撃波とともに、

どす黒い粒子が大量に爆散する。


影目の身体は、糸の切れた人形のように、

その場に崩れ落ちた。


「ハァ……、ハァ……、ハァ……ッ」


光はすべてを出し切った反動で、

着地に失敗した。


激しく膝を床に打ち付けながら、

崩れるように這いつくばる。


両手を地面につき、

肩を大きく上下させて荒い息を吐き続けた。


(……た、倒した……の……?)


背中の右側が、まだかすかに、

温かく熱を持っていた。


床に横たわった影目は、

消えゆく身体のまま、

どこか穏やかな、

救われたような笑みを浮かべて

光を見つめていた。


「……ミス光……


お見事です……」


どこか満ち足りたような、

それでいて、少しだけ寂しげな微笑み。


「さぁ……


ミス美咲が

待ちくたびれていますよ。


防災センターは……


この壁の、すぐ向こう側です。


行ってください……」


光は肩で荒い息をしたまま

地面に落ちていた空刃を拾い上げ、

傷だらけの身体を無理やり引きずりながら、

ゆっくりと立ち上がった。


大切な人を、

今度こそ助け出すために。


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