↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白翼の光  作者: 月凪
第四巻 希望と影は光を紡いで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/70

第68話 ア・テンポ


ファミレスの周辺は、

すでに夜の濃い気配に支配されていた。


街灯がオレンジ色にぼんやりと灯り、

どこか不自然に静まり返った空気。


それが、大きなガラス窓の向こうにある

明るい店内との落差を際立たせ、

不気味さを増幅させている。


指定されたファミレスに到着した光は、

不安を紛らわせるように、

キョロキョロと店内の客席を見回した。


(美咲先輩……どこにいるんだろう……)


ドク、ドク、と

心臓の音が嫌な速さで鳴り響く。


喉が締め付けられるように苦しい。


最近の不穏な出来事が頭をよぎり、

嫌な予感が胸をきつく締め付けていた。


窓際の席を探しながら、

通路を歩いていた――その時だった。


不意に、背後から滑らかで、

けれど全神経を直接掴まれるような

冷たい声が響いた。


「ミス光」


光の全身が、芯から凍りついた。


……。


聞き間違いだ。


そう思った。


けれど、背中に突き刺さるような視線が、

確かにそこにあった。


恐る恐る振り返った瞬間——


血の気が、一瞬で引いた。


「……え?


……な、なんで……っ」


そこにいたのは、

あの『影目』だった。


窓際の席に悠然と腰掛け、

まるで友人と待ち合わせを

していたかのように、

カフェラテを優雅に傾けている。


その笑みはあまりにも穏やかで、だからこそ、

逆に異様な不気味さを放っていた。


足がガクガクと震え、

床に縫い付けられたように動けない。


「どうぞ、おかけください、ミス光。


ここにミス美咲はいませんよ」


「……っ!」


頭の中が、真っ白になる。


罠だ、と全身の細胞が警鐘を鳴らしていた。


「さぁ……おかけください。


ここでヘタな真似をすれば……

貴女はミス美咲に、二度と会えません」


光は唇を白くなるほど強く噛み、

震える足で、言われるがまま

向かいの席に腰を下ろした。


(どうしよう……


美咲先輩、本当に捕まっちゃったの……?


私一人で行ったら危ない……


でも、助けなきゃ……!)


「何か飲まれますか?」


「……いえ、結構です。


美咲先輩は……どこにいるんですか!?


答えてください……!」


声が上ずり、涙が込み上げそうになる。


影目はカフェラテを一口飲み、

歌うようなトーンで穏やかに言った。


「先日の戦い……


本当に素晴らしかったです。


……あれほど胸が高鳴ったのは、

随分と久しぶりです」


「美咲先輩はどこですか!?


答えてください……!」


影目はカフェラテをもう一口飲み、

「ふぅ……」と、ため息を吐いた。


「ミス美咲は生きています。


しかし、今後の運命は……

貴女の行動にかかっています」


「……え?」


「これから貴女は、

1人で私についてきてください。


誰かに知らせる、あるいは

私の指示に従わなかった場合……


ミス美咲の命は保証できません」


「っ!?」


心臓が大きく跳ね、視界がぐにゃりと揺れた。


指先が冷たく痺れ、息が浅くなる。


影目は静かに立ち上がり、

皮手袋に包まれた手を、

紳士のように差し伸べた。


「さぁ……


参りましょうか、ミス光」


◇


――同時刻。

元地下駐車場の防災センター。


「ん……っ……」


美咲はうっすらと目を開けた。


コンクリートの、染みだらけの天井。


意識がゆっくりとクリアになるにつれ、

最悪の現実が輪郭を持って戻ってくる。


「光……っ!?」


体を動かそうとしたが、手足が全く動かない。


パイプ椅子に、

太いロープで固く縛り付けられていた。


「くっ……! 外れない……っ!」


(私は……捕まった。


隙を突かれて、あっさりと)


冷静に状況を整理しようとするのに、

頭の中に浮かぶのは光の顔ばかりだった。


(来ないで……光。


お願いだから、来ないで……っ)


「起きたか……?


美咲ちゃん……」


暗闇から低い声が響いた。


「久我……


貴方、何をするつもり!?」


「光ちゃんは優しいからな……


大好きな先輩が泣いてたら、

絶対に来る……」


その言葉が、美咲の心臓を鷲掴みにした。


「……最低のクズね!!」


美咲が鋭い視線で睨みつけると、

久我はニヤニヤと笑いながら近づき、

美咲の頬を平手で思い切り殴りつけた。


――パァンッ!!


「く……ぅぅっ……!」


頬が熱く痺れる。


口の中に血の味が広がった。


それでも美咲は、

久我から視線を逸らさなかった。


(光を……


絶対に、ここへ来させない)


不意に扉が開き、

冷徹な知性体、薄刃が現れた。


「何をやっている、久我。


まだ傷をつけるな」


「あー、分かってる。


ただ、黒崎悠真みたいな顔するから

ちょっとムカついただけだ……」


薄刃はつまらなそうに、

ずらりと並んだ

監視モニターの一つを指差した。


「……来たみたいだぞ」


その言葉に、美咲の全身が凍りついた。


弾かれるように顔を上げ、

小さなモニターに目を凝らす。


そこには、

恐怖に身を強張らせながらも、

美咲のために毅然と

影目の後ろに付き従う、

光の小さな姿が映し出されていた。


「光……!!」


(私のせいだ。


私が……油断したせいで)


美咲の悲痛な叫びは、

防音性の高いコンクリートの壁に

虚しく吸い込まれていった。


(私が守るって決めたのに……!


また、守られる側に……っ)


夜の闇の中へ、

二つの影が静かに溶けていくのを、

ただ見つめることしかできなかった。


モニターの片隅には、

地下駐車場へと続く階段の映像だけが、

不気味なほど静かに映し出されていた――。


まるで、底の見えない巨大な口を開け、

光が降りてくるのを待っているかのように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。