↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白翼の光  作者: 月凪
第三巻 宿命は光と影になって

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/68

第57話 騎士の心臓は、天使の笑顔に耐えられない


――激戦から約一時間後。


臨時に設営された、救護班の簡易テント内。


光はパイプ椅子に腰掛け、

背中と腕の手当てを受けていた。


消毒液のツンとした匂いが鼻を突く。


そのすぐ横で、

同じように包帯を巻かれながら、

蓮司は言葉を失ったように

ジーっと光の横顔を見つめていた。


その脳内が、今まさに

大爆発を起こしていることなど知る由もない。


(……は? なんだこれ。


心臓うるせえんだよ……っ!)


蓮司は必死に自分の胸の鼓動を

抑え込もうとしていた。


(フワッフワの……


真っ白な天使みてぇな羽出して、

俺の命令を無視してまで助けに来た馬鹿……。


痛いはずなのに、

俺を安心させようと笑ってる顔……。


くそ、可愛すぎるだろ!?


今まで女の討伐課と組んだことは

何度かあったが、

俺の命令を無視する奴なんか

一人もいなかったぞ!?


……それなのに、あいつは戻ってきた。


ましてや理由が


『俺を助けるため』って……


ヤバい。


マジでヤバい……!)


「あー、クソっ」


蓮司は慌てて自分の頬を軽く叩いて

正気に戻ろうとしたが、

どうしても視線が光から離れない。


テントの隅でその様子を見ていた美咲が、

ハッと息を呑んだ。


(……蓮司、あの目……


完全に、本気で惚れてる……!


……あいつ、分かりやすすぎでしょ……)


ちょうど神崎がテントに入ってきたが、

蓮司の頭の中の騒音は

さらにボリュームを上げていた。


(いや待て、落ち着け俺……


ただの後輩だろ? ……って、

可愛い後輩で済むかコンチクショウ!?


あんな無茶して守りに来て、

笑顔で『ありがとう』って……


俺の心臓が

耐えられるわけねえだろ!!)


そんな葛藤など露知らず、

光は痛みを健気に堪えながら、

お世話になった先輩へ向けて

無自覚に微笑んだ。


「蓮司さん……


本当にありがとうございました。


蓮司さんがいてくれたから、

私、最後まで頑張れました」


『ドクンッ!!』


その可憐な笑顔が、蓮司の心臓へ

本日最大のクリティカルヒットを叩き込む。


(うわあああ直撃だ……っ!


この笑顔、反則すぎるだろ……!)


あまりに露骨に

変な反応(フリーズ)をする蓮司に、

光は不思議そうに首を傾げた。


「蓮司さん……?


どうかしたんですか?」


一部始終を完全に察した美咲は、

ニヤけそうになる口元を

必死に片手で抑え込み、

わざとドスの利いた声で

蓮司の背中を叩いた。


「蓮司!

手当て終わったなら帰還するよ!


ほら、早く車に乗って!」


「オ、オオウ!


さて……


帰るか……っ」


明らかに声が裏返り、

動作が不自然にギクシャクしている蓮司を、

美咲は生温かい目で見送った。



バンの車内に戻ると、

蓮司は一番後ろの座席に大股開きで座り、

ダルそうにタバコをくわえていた。


全身包帯グルグル巻きの身体を、

深くシートに預けている。


各課への事後報告を終えた神崎が、

運転席のドアを開けて戻ってきた。


バックミラー越しに後ろを一瞥する。


「蓮司……


お前、救助班の方の車に

乗らなくていいのか?


横になって休めるぞ」


蓮司はタバコの煙を吐き出し、

ニカッといつも通りの

チャラい笑みを作ってみせた。


「大丈夫っすよ。


あっちの車、

お堅くて俺の性に合わないんで」


「やれやれ、相変わらず手のかかる奴だ……」


神崎はフゥ……と

呆れたようにため息をつく。


そこへ、光と美咲がバンに乗り込んできた。


光は何のためらいもなく、

いつもの定位置である蓮司の横へと、

チョコンと腰を下ろした。


ふと、光は横目で蓮司の横顔を見る。


包帯だらけで、ダルそうで、相変わらず

チャラチャラした顔をしているけれど。


(……蓮司さん、私を逃がそうとして

あんなに傷ついたのに……


今も、こうして隣にいてくれてる)


じんわりと胸の奥が温かくなり、

光は前を向いたまま、小さく微笑んだ。


その瞬間、隣の男の脳内は

再び限界突破(キャパオーバー)を迎える。


(おいおいおい……


今普通に横に座んなよ!

距離が近い!


こっちは心臓が

持たねえっつってんだろ……!!)


美咲は助手席から後ろを振り返り、

噴き出しそうになるのを

必死に堪えて震えていた。


神崎班長がシフトレバーを握り、短く告げる。


「さぁ……帰るか!」


バンのエンジンが低く唸りを上げ、

激戦の傷痕が残る辰巳の街を後にした。


ガタゴトと揺れる後部座席。


そこには、未だに

心臓がうるさく鳴り続けている男と、

そんなこととは露知らず、

幸せそうに無自覚な笑みを浮かべる少女が、

静かに並んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。