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白翼の光  作者: 月凪
第三巻 宿命は光と影になって

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第52話 死神のアプローチ


蓮司は影目と対峙し、

双刀を構え直した。


廃工場は、

物理的な重さを感じるほど静まり返り、

殺気と闘気が激突する

張り詰めた空間となった。


影目零次は優雅に微笑みながら、

ゆっくりと両手を広げた。


「ふふ……


まずは、

軽く挨拶といきましょうか」


その言葉と同時に――


世界が爆ぜた。


『シュルルルルッ!!』


影目の背後で蠢いていた、

黒く禍々しい大鎌のような二本の妖肢が、

一気に蓮司へと襲いかかる。


空気を切り裂く凶暴な音を立て、

飢えた大蛇のように殺到した。


「っ……!」


『ギィンッ! ガァンッ!』


蓮司の双妖刀が高速で交差し、

迫り来る黒い刃を辛うじて弾き返す。


暗闇に激しい火花が散り、

刃同士がぶつかり合う耳障りな金属音が、

天窓のガラスを震わせた。


しかし、影目の妖肢は止まらない。


まるで意志を持つ生き物のように

あり得ない角度でしなり、

蓮司の死角から

次々と必殺の打突を仕掛けてくる。


「チッ……!」


蓮司は歯を食いしばり、

愛刀『風牙・陽』と『風牙・陰』を

高速で回転させながら、

防戦一方で後退を余儀なくされていた。


(……ヤバい……


この妖肢、動きが読めねぇ……!)


蓮司の胸中に焦りが走る。


(ただの力任せじゃねえ……


全てが緻密に計算されてる……!


妖魔刀を解放すれば

何とかなるかもしれねぇが、

もし仕留め損なったら、

光ちゃんも、みんなやられる。


リスクがデカすぎる……!


今はまだ、

抑えておくしかねえ……!)


光は後方で、

息を呑んだまま

その光景を見つめていた。


心臓が不快なほど激しく脈打ち、

妖魔刀を握る手が冷や汗で滑りそうになる。


(……すごい……


あの蓮司さんが、

本気で押されてる……)


この人は、本当にSクラス、

あるいはそれ以上の化物だ。


身体の芯から湧き上がる恐怖。


けれど、私の後ろには

戦えない調査課の三人がいる。


怯えている場合じゃない。


私が、みんなを守らなきゃ――!


影目はダンスでも踊るかのように

楽しげに笑いながら――


さらに二本。


背後から、先ほどの大鎌とは

形状の異なる黒い妖肢を展開した。


「素晴らしい……


ミスター鳴海、

貴方は本当にやりづらいですね。


ですが……


そろそろ本気を

出していただけませんか?


私は早く、ミス光の『翼』を

拝見したいのですよ」


『ドゥンッ!!』


影目の妖肢が一斉に

コンクリートの床を叩きつけ、

猛烈な衝撃波がホール全体に広がった。


床がクモの巣状にひび割れ、

爆煙のような土埃が舞い上がる。


その爆煙の向こうから、

蓮司の叫びが飛んだ。


こちらを振り返る余裕すらない。

ただ前方の敵を凝視したまま――。


「光! 脱出ルートを探せ!


見つけたら三人を連れて逃げろ!


建物の外に出たら

神崎サンに連絡だ!」


冷徹で鋭い、

一人の戦士としての声だけが

暗闇に響く。


影目はその赤い瞳を三日月のように細め、

愉悦の笑みを深めた。


「……なるほど。


その程度では、

まだ翼を使わせませんか」


黒い妖肢が、

まるで生き物のように蠢きながら、

逃げ道を塞ぐように

光と蓮司の間に

ゆっくりと割り込んでいく。


「ふふっ……


では、そろそろ『本番』を始めましょうか。


ミス光、そして貴方の騎士殿」


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