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白翼の光  作者: 月凪
第三巻 宿命は光と影になって

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第42話 杜の都への呼び声

挿絵(By みてみん)




ーーー宮城県、仙台市。


夕暮れ時のアウトレットパークに、

鼓膜を激しく震わせる轟鳴が響き渡った。


巨大なガラス窓が一瞬にして

粉々に弾け飛び、

きらきらと硝子の雨が

アスファルトへと降り注いだ。


「キャーッ!?」


悲鳴が上がる。


群衆は出口へ向かって雪崩を打った。


硝煙の立ち込めるパーク中央で、

二つの影が対峙していた。


鳴海蓮司(なるみ れんじ)は

二刀の妖魔刀を同時に引き抜き、

不敵に笑った。


「こんな所で妖魔化したのかよ……」


双妖刀・風牙。


その双刃の先では、

AAランクの触手型妖魔が

世界を呪うように咆哮していた。


「蓮司! 周囲の避難は完了したぞ!」


背後から太刀を構えた、

斎藤誠司(さいとう せいじ)が叫ぶ。


「了解です、斎藤サン」


蓮司は唇の端を吊り上げた。


その瞬間、

桐生奈々(きりゅう なな)が

横から滑り込む。


「遊んでないで真面目にやりなさいよ!」


奈々が細身の刀を閃かせ、

迫り来る妖肢を次々と切り裂く。


奈々に迫る妖肢を、

斎藤が身を挺して太刀で薙ぎ払う


その隙を蓮司が見逃さなかった。


「後は俺か」


二刀流の刃が夜の闇に銀光の軌跡を描き、

妖魔の注意を完全に引きつける。


「奈々さん! 今!」


「任せなさい!」


奈々が高速で妖魔の側面を斬り裂く。


妖魔が苦痛に巨体をよじった瞬間、

蓮司の笑みが消えた。


蓮司が低く身を沈め、

独楽のように反転しながら

必殺の三連撃を放った。


「いくぜーーー」


喉への横薙ぎ。


胴への逆一文字。


そして縦両断。


妖魔の輪郭が崩れた。


「グォォォォッ!!!」


妖魔は断末魔の叫びを上げ、

黒い雪のように虚空へと霧散していった。


蓮司はくるりと背中を向け、

衣服に付着した黒い粒子を

無造作に払い落とした。


「終わりっと……。


んじゃ、帰りますか」


夕闇が完全に終わりを告げ、

夜の底へと沈んでいくアウトレットパーク。


二刀を鞘へと収める硬質な金属音だけが、

戦いの終わりを静かに告げていた。


ーーー討魔局仙台支部、夜20時。


すべての任務報告を終えた蓮司は、

支部の地下駐車場に停めてあった愛車ーー

マットイエローのスープラに乗り込み、

エンジンをかけた。


ーーーブォォォン……!


重低音の排気音が

冷たいコンクリートの空間に響き渡る中、

不意に、ダッシュボードの上に置いた

スマートフォンが激しく明滅した。


液晶画面に映し出された文字は、


『対妖魔ゴリラ』


蓮司は苦笑しながら

親指で通話ボタンをスワイプし、

スピーカーを耳に当てた。


「もしもーし! 


神崎サン! 


久しぶりじゃないっスかー!」


ーーー同時刻、討魔局深川支部の屋上。


神崎は錆びかけたフェンスに

その無骨な体をもたれかけ、

夜の東京をただ一人、静かに見下ろしていた。


ネオンの洪水と、

どこまでも続く街灯が織りなす光の海。


それが、果てしない虚無のように

どこまでも広がっている。


神崎は首と肩の間にスマートフォンを挟み、

ポケットから取り出したタバコに火を付けた。


ジッと、小さな火花が爆ぜる。


深く煙を肺へと吸い込み、

ゆっくりと、夜の空気に

馴染ませるようにして吐き出した。


「久しぶりだな……蓮司。


お前に……ちょっと相談があってな」


その声音のあまりの重さに、

仙台の地下にいた蓮司は、

車のシートから跳ね起きるようにして

姿勢を正した。


受話器の向こうの空気が、

一瞬で変わったのを肌で察した。


「……東京、戻って来れるか」


「……は??」


蓮司の眉が跳ね上がる。


「……何かあったんすか?」


神崎は冷徹な夜空を見上げ、

深く、重いため息を吐き出した。


「……光がな」


蓮司は、すっとその目を細めた。


「……光? 


あー……『美雲 希』の娘?」


以前、本部のアーカイブから引き出した

資料の顔写真が鮮明に脳内に甦る。


「資料の写真は見ましたよ。


……あの子、

希さんにそっくりじゃないすか。


……しかも可愛い。


神崎サンの班に配属されるなんて……

何か運命めいたモン感じますね」


「ああ……」


神崎の低い声が、

夜の風にかき消されそうになる。


「その光が襲われた」


蓮司の指先が、

ダッシュボードの上でピタリと停止した。


「……誰に?」


「薄刃だ」


短い、酷く冷たい沈黙が二人の間に落ちた。


蓮司はゆっくりと、

胸ポケットからタバコを一本取り出し、

片手でライターの火を灯した。


白い煙を

フロントガラスに吹き付けながら、

静かに続けた。


「悠真は……?」


「暫くは入院だ。


お前には、悠真の代わりとーー

任務中の光のボディガードを頼みたい」


また、夜の静寂が流れる。


だが、鳴海蓮司という男の答えは、

受話器を取った最初から決まっていた。


「……相談なんて、

水臭ぇ前置きいらないっス」


蓮司はタバコを咥えたまま、

不敵に笑った。


「神崎サン……


アンタの頼みを、

俺が断る訳ないじゃないすか」


「すまねぇ」


それだけ言い残し、

東京の通信が途絶した。


通話を終え、スマートフォンを

無造作に衣服のポケットへしまう。


蓮司はしばらくの間、

フロントガラスの向こう側に広がる、

仙台の薄暗い夜を見つめていた。


(希さん……)


まだ彼が新宿の本部にいた頃、

嫌というほどその名前を聞いた。


あの不器用な神崎が、

滅多に口を開かない男が、

それでも確かな『誇り』だけを

その声に込めて語る時だけ、

唯一出てくる名前。


討魔局の伝説。


蓮司は室内に充満した煙を吐き出しながら、

小さく息を漏らした。


(今度は……あんたの娘か)


あの神崎サンが、

あそこまで声を重くしてる案件だ。


ただごとであるはずがない。


蓮司はアクセルペダルを、

ゆっくりと踏み込んだ。


「……神崎サンの為なら、しゃーないか」


ーーーブォォォン!!!!


マットイエローのスープラが、

夜の仙台を鋭く切り裂くようにして

猛然と駆け出した。


エンジン音が

静まり返った夜の街に轟く。


強力なLEDヘッドライトの光束が、

真っ直ぐに突き抜けていく。


夜風の中を疾走しながら、

蓮司はただ、静かに前だけを見つめていた。


夜のフロントガラスに

反転して映り込む自分の顔。


彼にしては珍しく、

笑っていなかった。


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