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白翼の光  作者: 月凪
第一巻 白翼は希望の光となって

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第3話 天使の目覚め


――誰かに守られ、狂わされるだけの

無力な私と、お母さんへの届かぬ憧憬を、

あの赤い月が冷たく笑っていた。


赤い月明かりと、

冷たい夜風を引き連れて

あの電車の男が、破れた窓枠を跨ぎ、

ゆっくりと部屋に入ってきた。


その背には、赤黒く脈動する

太い触手のようなものが蠢いていた。


光はただ、驚愕と恐怖と混乱が混ざり合い、

その場に尻餅をつくようにへたり込んだ。


「……ひっ、……あ、あ」


ぬめりとした冷たさが足首に絡みつき、

腰を強く締め上げる。


一瞬で身体が浮き、

背中からベッドに圧し折られるように

叩きつけられ、息が完全に止まる。


「あ、う……い、いやあああああッ!」


酸素を求めて喘ぐ喉の奥から、

せり上がるような悲鳴が溢れ出た。


冷たいぬめりが身体を這い、

逃げ場を奪うように締め上げてくる。


肌に触れる感触だけで、喉が詰まった。


ドクン……ドクン……ドクン……


心臓が、喉の奥で暴れている。


目の前の男は、整った顔に、

愉しげで歪んだ笑みを浮かべている。


「う、嘘……やめて、来ないで!」


光の意識が、熱の中で揺れていた。


左背中が、焼けるように熱い。


その熱が、

身体の奥へゆっくり広がっていく。


ドクン……ドクン……


心臓の音が、

耳の奥で大きく響く。


身動きを封じる触手の冷たい蠢きが、

身体の曲線を無慈悲に抉り出す。


「……ひっ……いやッ!


……離して……っ!」


逃げられない。


このまま、

ゆっくりと締め付けられる。


(……お母さん……


私、こんな所で……


殺されちゃうの……?)


意識が恐怖の熱の中で激しく揺れ、

視界が急速に狭まっていく。


(私……このまま……


何も……


何も守れずに……)


その時――


『――ドクゥゥゥン!!』


肩甲骨の奥で、

何かが爆ぜた。


「う……っ!?」


(……熱い……怖い……


でも……


なんで……優しい……?)


痛みと熱の奥に、

覚えのある温かさが混ざっている。


まるで、誰かに

後ろから抱きしめられているような——


そんな感覚だった。


『――ドクゥゥゥン!!』


二度目の鼓動とともに、


光の左背中から、

無数の純白の光が溢れ出した。


それは薄暗い部屋を

一瞬で白銀の世界へと変える、

息を呑むほどに美しい光の奔流だった。


真っ白に輝く雪のような粒子が、

光の身体の周りで渦を巻き、

彼女の左背中へと収束していく。


『――ブワッ』


光の背から、

あまりにも美しく、

あまりにも圧倒的な

【純白の片翼】が広がった。


翼が広がった衝撃で、

電車の男の触手が弾き飛ばされ、

割れたガラスの破片が四方に飛び散り、

カーテンが激しくバタバタとはためく。


同時に、

光の身体がフワッと浮き上がった。


白い粒子が、夜空へ舞い上がり

部屋の闇が、少しずつ白く染まっていく。


夢のようなその光景に

光は驚愕し、ポツリと呟いた。


「これ……何……?」


まるで今まで眠っていた何かが

目を覚ましてしまったような……


そんな奇妙な感覚に囚われた。


光の身体は、

ゆっくりと床へ降り立った。


電車の男は、

怪しく微笑みながら、目を細めた。


「……白い妖気……か。


光ちゃん……


本当に……


やっと会えた……」


光は荒い息を吐きながら、

震える手で自分の左肩——


生まれたばかりの翼にそっと触れた。


まだ小さく、頼りなく震えるその羽は、

触れた指先を優しく温かく包み込んだ。


恐怖と、わけのわからない高揚と、

底知れない不安が混じり合って、

光の胸を締め付けた。


電車の男はゆっくりと

笑みを浮かべ直した。


「……良い。


……思った以上に

美味しそうだ……」


電車の男の触手が、

興奮で震えながら再び伸びてくる。


「う……っ、動いて……!」


光は必死に翼を動かそうとしたが、

ふわふわと浮くだけでバランスを崩す。


翼の端が一瞬青く輝き、

すぐに純白に戻った。


電車の男がニタッと笑う。


「へぇ……希と違って、

ふわふわしてるだけなんて

可愛いなぁ、光ちゃん……」


光の表情が、驚愕に凍りついた。


「……なんで……貴方が

お母さんの名前を……?」


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