ちょっとだけ自己浪費。
昨日の疲れもあってか一足先に布団に入った私。いつも通りの早朝にパジャマ姿で歯を磨くとアイスコーヒーを一杯飲み、ペットボトルの炭酸水を冷蔵庫に補充する。
薄手のパーカーを羽織り、鞄にはふたりの精霊。よし、玄関を出る。
「行ってきます。」
母の帰宅で盛り上がった家の中はしんと静まり返り誰も目を覚まさない。燕の雛はまだ巣立つ様子はなく親鳥が運ぶ餌を今か今かと鳴いている。
石垣の用水路は錦鯉が数匹。それを何気なく描くパン職人のゴッホさん。
「早いね。おはよう。」
「おはようございます。朝の仕事は終わったようですね、眠くはないんですか?」
「年を取ると眠りが浅くてね。慣れちゃうと気になんなくなる。気がつくと居眠りしてたりはするわ仕事は手が抜けないわで困っちゃうね。」
「その絵は油彩ですか?」
「ぱっと見、盛った絵の具でそう思うだろう?ポスターカラーだよ。アクリル絵の具じゃバケツはで落とせないし筆が直ぐにダメになる。パレットの水を少な目で粗く重ねるとそれっぽく見える。絵の初心者もベテランも感触を養ったり、即興で制作する時は決まってこれ。」
「馴染み深いですね。学校で教えた事とかあるんですか?」
「私が教える側はないかな。若い子に遊んでもらっている感じだよ。この向こうに私立の学校があってね。学生や美術教師に仲間に入れてもらってるそんな感じ。じゃこれ絵を描きたいっていう先輩へ持って行きな、こういうのは好みだから押し付けるつもりはないがな。」
見た通りではなく、躍動感のある鯉の絵。五月のこの時期らしい素敵な絵だ。
ロングスカートの裾を直し、差し出された絵を受け取る。
「また私をモデルに描いてもらってもいいですか?椅子に座ってサマードレス姿で。」仕事着で描かれたものもそれはそれで良いのだがこれでも女性の端くれ。部屋に自画像とか飾ってみたいなと思った。
「儂ので良ければいくらでも。難しい顔ではなく笑顔が描きたいので頼むよ。」
遠くのウィークリーマンションから双眼鏡を使い龍神と因幡が様子を伺っている。
「帝の花嫁候補ってあんな地味な女でいいんですかね。」
「公家のお相手にはああいうのがいいのかもな。プロパガンダで巧いようにされると国の威信に関わるから。」
和洋折衷の弁当を開けズームの倍率を上げる龍神。
「さっきの絵描きらしき男どこかで見たような…気のせいですかね。」
「いや、あれは俺らと同じ天界から下った者だ、見覚えがある。随分前なので思い出せん。」
「その双眼鏡返してもらえません?視力いいんだから。」
「ついでにカメラ機能であの男撮影しておいてくれ。気になる。」
「移動する様ですよ。追けます?」
「天狗に任せて必要ならそうしよう。連休始まったばかりで詰めても面白かないだろ、場所決めたんだからドローンとか必要な物揃えないと。近くの駅にそういうの売ってる場所があるはずだから行くぞ。」
「ハイテク機材なんて使えるんですか?」
「やってみないと分かんねえ。でも空からの撮影で天狗に怪我をされても困るだろ。」
「これだから男は。知りませんよ無駄遣いして後悔しても。」
「散財してる因幡に言われたかねえよ。」
「あ、思い出した。あの絵描きの爺さんフィンランドのサンタクロースだ。気付かなかった。」




