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親子水入らずのすすめ。

「もうすぐ、私たちの妹の誕生日でしょ。そういうこと。」母はそう呟く。

そうなのだ私たちの妹、みどりが二十四歳を迎える。

「そっか、それでお母さん帰って来たんだ…。」

「早いものね。もう立派な女の人。お嫁入りのお勉強も進めないとね。」言葉がどこか遠い。

「まだ、そんな話早いんじゃないかな。みどりってまだ何もできないと思う。」

「案外、人って置かれた環境に適応しやすいものよ。」血の繋がりというのは恐ろしいものだ。それだけで自由な恋愛が否定され決まったいつかはと思っていた筈の旧家への婚儀が迫っていた。

「あんなに嫌がってたじゃん。なんとかなんないの?」

「それは何度も話し合ったでしょ。瑞樹の巫女は出雲へお返しするのを条件に招き入れたのだから。」

精霊の一族の力を宿す者たちは各地に花を咲かせる勤めを終えた後、速やかに次の代に引継ぎ里へと戻るべし。

「今年の誕生会が最後なのは寂しくなるけど居なくなる訳でもないわ。うちを離れて引っ越すだけ。地方の大学へでも行ったと思えばいいだけよ。」

「…。」

「あんたとは違って、あれでもいいトコのお嬢様なのよ。」

「おばさん、ひと言多いと。女は顔じゃなか。器量たい。」なんか私に顔を合わせず必死で笑いを堪える楓に腹が立つ。

「モモもしらたまもなかなか帰ってこんねえ。森で迷子になってなきゃいいけど。」椿ちゃんがタブレットで居場所を確認する。

「ゴッホさんとここの庭師がもうすぐ帰ってくるから、挨拶して今後のこととか決めようか。」相変わらずマイペースなジェームズさん。初めて聞く他人の家庭事情なので興味を持たれなくて助かりはするが。

「あなたも目覚めれば相当な魔力量を持つはず、妹より業が深いのだから自覚しないとね。」隠したエルフの耳がうなだれる。

「母さんみたいな冒険者に出会わなければもっと静かに暮らせたかもしれないのに…。」

「戸籍上だけでなく、随分前からふたりとも私たちは大事な家族なの。わたしもお父さんも娘には幸せになって欲しいの。こんな大事な時期だからお父さんも冒険者を休業してトレーディングカードを販売して生活しているんだから。」何か後半が説得力に欠けるが、世界屈指のヒーラーの使い手の大きな決断がこれなのだろう。両親の考えの浅はかさが分かりやすい。

「嬢ちゃんはこの人の娘だったのか。どうりで面白いはずだ。」ゴッホさんが部屋に入ってくる。

「ここまで辿り着いたの早かったね、この巡り合わせは予め決まってた事だから。我々の運命はよほどでないと抗えないなぁ。」

「お久しぶり、ゴッホさんって呼ばれてるの?いいあだ名じゃない。」どうやら母とゴッホさんは既に知り合いの様子。カフェインの効果で私の頭もようやくスッキリとしてきた。

「お母さん、金髪に縦ロールとか弁財天に似合わないから止めた方がいいと思う。」

「もう、トレードマークになってるからそのお願いは却下よ。食堂のお姉さん。」

「まぁまぁ、折角の再会だから親子喧嘩はその辺にして。」焼きたてのパンのほのかな香りとミルク入りの紅茶が出された。

「儂もメニュー作りと必要なら、簡単な絵の描き方くらいは協力しよう。梅子さん、要らぬ心配は無用じゃな。あんたの会社の経営陣でな、君の務める尞は男子禁制という訳ではない。そんなことすれば業者や近所の連中が出入りできんだろう。ガハハ。」

「お手間をお掛けして申し訳ないです。勝手な申し出で。」

「謝らんでいい。そこは有難うって年寄りを頼ってくれた方が嬉しいんだよ。それよりおチビちゃんを探すの手伝おうか、今日は早めに帰って親子水入らずがいいだろう?」

「たぶん大丈夫です。電子タグを付けてますから。」

「いたよ。ふたりともこっちに向かってる。」椿ちゃんが持っているタブレット端末に表示されると遠くから笛の音が聞こえる。

「ただいまあ。野生のウリ坊が出たので知らせながら戻ってきた。」チビふたりはすっかり意気投合して顔を見合わせながらこちらに向かって来る。

「儂はいつもの川べりに居るから、明日の朝見かけたら声を掛けてくれ。」

「よう来なさった。また何時でも遊びにおいで。次はケーキも準備するとしよう。」急な来客を招き入れた小屋の庭師も満足気にそう話す。

「あの干支の連中にはしばらく用心した方がいいかもしれない。何せまだ得体が知れないからね。妹さんにも会いたいので、工房にいるから都合のいい日に連れておいで、庭のまだ見ていないエリアもあるしね。」

その日の夜、母の強引な風呂への手引きに部屋中を逃げ回るしらたまの姿があった。

「あんたは、汚れているから、入んなさい。」

「なんでや!モモだけ入らんでええんは。」

「桜の精霊はお風呂はダメなの。水と肥料をあげるだけなの。あんたは臭うから。」

「ひとりででける!要らぬ。」

「おとなしくおばちゃんの言うこと聞きいな!家に入れへんよ。」

「ええ、夜は木の上で寝るから。やめてくれ。」

いつもの騒々しい我が家に戻る。私は安心して眠りに就いた。

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