火炎魔法をファイヤーウォール。
ふたりのやり取りを楽しむジェームズさん親子。
「そういう時期も悪くはないと思うな。楓さんの気持ちも分からなくはないけど、梅子さんはカリスマ性と表に出すタイプではない。でも素質が備わっているようだから。」しばらく行動を共にしただけで色々と気付くジェームズさん。
「そうです。昔から、一緒にいてどうしても気になる。そしてボケーっとはぐらかす嫌な性格なんです。梅子って。」
「んなこと言われても、こんな風に返すしかないだろうよ。似合わない小芝居したって気持ち悪いだけだし。」
「変な期待でお互い気になって仕方ないとか、仲がいいのがよくわかります。」女子高校生の椿にはっきり言い当てられるふたり。
「お父さん、誰か船着き場に到着したみたい。迎えに行こうか?」
「いやいい、ひとつはうちのお客様だけど悪いのじゃない。椿が好きそうな者たちだ。もうひとつは、梅子さんと関係してそう。」
「お姉さん家のお客様?」
「客というより一方的に見に来たといった気配を感じるが、どうだろうね。」
「うちに用がある人たちですか。心当たりはないけど…弱ったな両親ともずっと不在なんで。おもてなしの準備とかできないですね。」
「そういった感じではなく、官公庁の仕事の様な『視察旅行』に近いニュアンスのオーラを感じる。」
「それちゃんと邪悪なオーラなんですか?ポロシャツ来た姿が目に浮かぶんですけど。」
「お父さん港が燃えてる。」
「今、消防に連絡してる。港付近です。私ですか楓と言います。苗字は、待って下さい。集中豪雨のように急に雨雲が、大丈夫みたいです。」
「変な火柱の上がり方でしたね。インフェルノ級の。」私は掌を額に押し当て目を細くする。魔法陣を隠そうとする黒い影。
「烏の集団ぽいがあんな新種は見たことない。これは火炎魔法に違いない。この世界で使える者は限られている。」補足説明っぽいジェームズさん。
もし、うちの客なら、知らぬ存ぜぬで通そう。物理的な炎上騒動の容疑者なんて噂になればうちの家族はここでは生きていけない。
「うちは狐の一族、そちらのお客は干支のようだ。事件性はなさそうだが後で会ったら事情を尋ねるといい。」
今日の運勢占いのようにジェームズさんは根拠のない物語を一方的に紡ぎ始め、楓はただひたすらに植え込みにあるガーデンプレートを念仏のように唱えていた。
客観的に捉えると、もしかしたら私も含めここにる数人が不審人物なのかな。各自がある程度、今やりたいことに満足しない限り話は次に進めない。
「人と人とが出会う時、次の扉が閉じるの。」トランス状態に陥った椿ちゃんがぼそりとひと言。
パンパンと二回手を叩く音。俯いた顔を上げると、母がそこに立っていた。
「あんたたち、大丈夫?お母さん心配で帰ってきちゃった。」
「お母さんおかえりなさい。」
「ただいま。」
久しぶりに感じる安堵と漂う花の香りの中、正気を取り戻しそして気を失った。
知らない天井に吊るされた電球と茅葺が見える。意識と取り戻すと母とジェームズさんの声が聞こえた。
「お母さん、今三千百円で新規口座開設するとAIが毎秒チャートを監視します。あなたははいかいいえで判断するだけで利益を手に入れることができます。」
どこで覚えたのか、今流行りの口説き文句を並べるジェームズさん。
「金のトレードという手段もありますが、どちらにしますか?」
「その二つとも選んでいいかしら、全額ペイペイで。ふふふ。」軽くあしらわれるジェームズさん。母さんは世界的なネットゲーマーだ。その口説き文句は通じない。
「新規口座はスイス銀行なので、円ではなくてフランが基準通貨なの、折角のいいお話しごめんなさいね。」
わたしは、敷かれた布団から体を起こして冷たい水を口にする。
「久しぶりね、梅子。懐かしいわねこのお庭。」
「知ってるの?色々と縁あって、あたしは今日初めて来たんだけど。」
「お父さんと一緒に何度かね。ここの沢にわさびが自生しててね、思い出の場所なのよ。」
「おばさん、私がいるのにごめんなさい。」楓はまだどこか心配そうだ。




