どんな居場所でもきっと何かが。
皆、余計な荷物を工房の一室に置かせて貰いジェームズさんの案内で庭を散策する事にする。新緑の瑞々しさと気持ちの良い風が手入れの行き届いた庭を撫でる。モモは自生した草木の方が気に入ったのだろうか、手入れの行き届いた畑とは反対方向へと向かっていった。
「念のために確認なのですが、モモが危険な場所とかはこの辺りにないですよね。」ジェームズさんに尋ねた。
「せいぜい蜜に集まる蜂くらいだと思うが、あまり離れられるとどうかな。山奥や森の中とかは沼地があっても不思議じゃないからね。」
小さくてもリスの精霊だ。動物的な勘で上手くかわすだろう。通信タグを持たせてあるから迷子程度なら私で何とか対応できる。
「この畑は誰が管理してるんですか。花壇とかあるけんここの花屋さんとか?」何だ楓らしくない緊張してるのか言葉選びが丁寧だが。
「精霊だよ。と言いたいけどここの花屋さんは近所の邸宅の庭師もやっててね、ここを見て仕事をお願いに来る客もいるらしい。」
「よかね。そういうの。観光地っぽくなくて、ついピクニックしたくなる秘密の場所っぽくて。」
「モネの庭とか噂になると商売っ気が見え隠れするから、ここは小説に出てくる秘密の花園って感じかもしれないな。娘も気に入っている様だし。」
「その花屋さんは、この近くに住んでいるのですか?」
「敷地内の小さな家に家族で住んでいるよ。散策ついでだ、留守かもしれないが後で寄ってみよう。」
「あれ、これ小さなネームプレートがさしてある。ラベンダー、あとパンジーとかトマトとか。ほら。」
「野菜?あ、本当だ。なんかちゃっかりしてる。」
「で、我が家の身の上話なんだが、聞いてくれるかい?」
「脱線しそうね。まぁ、いいけど。」
「うちのカミさんなんだが、ある国から連れてきた聖女でだね。」
「簡単に言いますが、それって誘拐とかですよね。」
「その国を追放されたってそういうこと?」
「異国ではよくあることだ。」
「ファンタジーの核心的な事件っていつもそんな感じやよ。」話にテンポをつけ始める楓。作り話だと思ったのか反射神経でハイハイと流している。
「まぁ、いいですよ。で奥様が無事なら。」
「忘れんぼさんなんだよね。あることが原因で。」
「トラウマってやつ。梅子は精神的な心の傷とかって知っとうと。」
「あ、いや楓さんそうじゃなくて若年性健忘症の軽いやつらしくて、ちょっとうっかりさんなんだよね。」
「というと、例えばどんな?」
「家に財布忘れたり、店に買ったばかりの商品忘れたり。」
「そうだよ聖女だよ。うちのお母さん。」椿ちゃんが話に加わろうとするが、それはもう重要ではない。
「この花可愛いな。スパイス帝国さま用とか書いて…見んさいここ。」楓はしゃがみ込んで何かしてる。この男の話を遮れの合図っぽい。
「奥様のご苦労は理解しました。メニューの話をしましょうかジェームズさん向こうの百合やスズランとか見ながら。」
おそらく、この神官に役立たずになった聖女を押しつけてその国は前向きに独立を果たしたのだ。解放戦線の最終手段、リストラの姿を私たちは目の当たりにした。
「梅子ってさ、いろんな人の相談受けたり心配したり。」
「ん?急になに?」楓がいつになく真剣な表情で話しかけてきた。
「みんな、幸せを願ってるからあんたの側にやってくるんだから。そこ気づかんとね。」
「家族や周囲のこと?わかってる、わかってるって。」
「違うんだよなぁ、あんた自身のことよ。」
「やりたいことも大事だけど、やんなきゃいけないことがあるからね。」
「本当にやりたいことって、まさか食堂のメニュー作りが夢じゃないよね。」
「いいじゃない。それが夢を見つけるきっかけかもしれないし。」
「まぁ、そうかもしんないけど、あんたもっと華やかな場所が似合うハズなんだよな。でなきゃ人がこれ程揃うことはないんだから。」
「キラキラしたの無理にでも探せってこと?」
「いや、合わないことまでして欲しないけど。」
「周囲の本当の期待を裏切らないってこと。最近、受け身ばかりになってない?」
「自発的に何か始める時ってさ楓、そういった人に関わっての気づきなんだよ。ビビビッって感じの。」
「ビビビッっか。」
「そう、ビビビッ。」




