神々にも思惑があるらしい。
「うちの血の繋がってないお兄ちゃんが美術教師で一緒に絵を描けたらって言ってました!」
管理人室のドアを開けると楓の話し声が聞こえてきた。
「楓さん、ソレは知られると本人が困るってヤツだから。朝っぱらから何の話がしたいのよ?」
「親の再婚相手の息子が元カレで。じゃなくて絵ば描こうかって話。」
取り敢えず会話は無視してスケジュール帳を取り出すと、鞄の中からショタ好みの美少年が姿を現す。
「昨日の夜、山で育児放棄された子リスを拾った。名前は…。」
「ぼくしらたま。」
捕まえて愛でようとする二人。逃げるしらたま。やはりリスは逃げ足が早い。
「今日は源さんの店に果物買いに行って。商店街の…。ねぇ二人ともあたしの話聞いてます?」
「つまりゴッホさんちにみんなお呼ばれされたって事でしょ。楽しみね。」
「今日の仕事を進めましょう!このままそのちっちゃいのと遊んでたり、絵を描く話してたら仕事できなくなるから。」
私たちは子リスを桜の咲く中庭に放し、商店街へ買い出しへ向かう。
フルーツパーラーの源さんが椅子に座って綺麗に並べられた果物を気前のいい価格で販売していた。
「仕事は順調かね。」昨日の酒の抜けきらない源さんが適当に果物のレジ袋に入れ私たちに見せてくる。
前回同様にそれは帰りまで店に置かせてもらい、リストの日用品を買いつつ商店街で朝の挨拶を繰り返す。
「ここも忌まわしい過去から抜けつつあるが…。無駄な時間がもっと必要じゃろうな。」雲の上から声が聞こえた。
異世界にも八百万の神が万物に宿るらしい。私はこの世界の支配者の視線を感じながら素知らぬふりで寮へと戻った。
食堂には数人の若い社員が増え、ペペロンチーノやスープパスタの注文が入る。
「そろそろ、誰かに教わって作らんと。飽きられたらしまいやけんね。」楓は不安気にそう漏らす。
和服姿でそばに立つモモは、大丈夫と言わんばかりの表情で淡々と手伝っている。
「ごちそうさま。今日も美味しかった。」ホアとリンが満足気に食堂を去って行った。
順調なようだが何か物足りない。小手先で無難なメニューを続けても気持ちが込もった食事には及ばない。
「明日は和食にしようか。焼魚やみそ汁あたりで。」私の好きなメニューを提案してみた。
「そうね。お昼にがっつり食べそうな女子は居ないようだし。そうしようかしら。」と先輩。
そんな騒々しい一日を雲の上から観察を続ける神々が会議を始める。
「このままでよろしいのですか月詠さま。すっかりこの世界に馴染んでしまうと当初の計画と離れますが。」
がっしりとした体格の男が不満気に話す。
「龍神よ、計画通り進んだとしてあの家族の将来は幸せに思うか?我々の目的はそうではあるまいよ。」
側近の幹部らしい女性が言う。
「殺伐としたことばかりだと、お前も言うとったじゃろう?精霊たちも満足しておるではないか。神無月まで様子を見ようぞ。」
「黄金の休息日に下界へ降りて、必要であれば杖を使って調整すればよかろうて。」
「急かすでないぞ。最近のあの者たちはいつになく面白い。あれが何を描くとかどの様な音を奏でるのか皆も興味がある。そうであろう。」
うなずく神々。
「どうじゃ、先んじて龍神を向かわせ、あちらの服を買いに行かせては。」
「ならば、私もあちらに。」若い女神が期待に満ちた表情で手を挙げる。
「デートの誘いかね。」少し嫌がる龍神。
「それ一歩間違えるとセクハラとパワハラですよ。あっちの世界では。」と若い女神。
めんどくさそうに月詠が指示を出す。
「決まり、決まり。じゃ二人とも明日から下界出張ということで。今日は解散しましょう。」




