26/39
そんなタイプの芸術家。
翌朝、また早めに家を出る。またゴッホさんに会えるだろうか?私は朝靄の中で小川のせせらぎを聴きながらいつもの道で職場へ向かう。
「ゴッホさんはねえなあ。そんなご立派なもんじゃねえや。」
「その先輩がですね。楽器演奏だけでなく、昔やってた絵画をもう一度やってみたいんですって。どんな風に始めたらいいと思います?」
「そういう時ゃあ、ちょっとしたきっかけがありゃ出来ちまうから。」
「ちょっとしたきっかけ。」少し考える私。
「あれだな。その先輩はバスカーって人種だな。」
「なんです?それ。」初めて聞く単語。
「大道芸人というか、路上の芸術家というかそんな意味だ。楽器演奏も屋内の観客の前でしかやりたがらない。そんな連中のことだよ。ここで絵を描いてりゃ満足ってワシと大して変わんねえ。」ゴッホさんは遠くを指さす。
「あの向こうに原っぱがあるだろ。アトリエというには不細工だがワシの工房があんだよ。花屋用の畑があって、ちょっと待ってな。」
スケッチブックから1ページを破り取ると地図を描きこむ。あたしは立ち上がると背伸びをしてその紙を受け取る。
「その子に都合の良い時いつでも気軽に覗きに来いって伝えてくれ。勿論お前さんも歓迎するよ。」
穏やかな風が頬を撫でる。時間があまりないので職場まで走ることにした。




