オープン初日のエレジー。
お昼前になると楓がやってきて、食堂で料理の準備を始める。
「辞令があって、給食当番のお姉さんになったとよ。」美味しそうな匂いが大きな鍋から漂っている。
「でも仕事ってわけじゃないんでしょ。調理だけなら、私と同じアルバイトでいい訳だから。」
「なんば言いよるね。ここで経験したデータを食品販売で利用するけんね。本社の立派なお仕事になると。」
とは言っても所詮は素人の手料理。上手くいかないのは目に見えている。話を聞く限り栄養士や調理師免許も持っていない楓が、この会社に合格できた理由にはなんない。
「専門的な知識は、センセが教えてくれるばい。いつも一緒にという訳じゃないけどそういう人が来るらしいんよ。」
「じゃあ、面白がって私たちに料理させる訳じゃないんだ。」
「先輩、料理できない感じだったけん。この食堂が勿体ない状況やったらしいね。」
調理器具や食器が不足していたり、電子レンジが並んでいたり。おおかた各自がお好きに持ち込んで食べる。今はそんな場所に落ち着いたのだろう。
「先生って、どんな人かな?ウチと相性良ければいいけど。」
「会ったことあるとよ。歓迎会におった上司の女の人。」
「あの面接官みたいな女性が先生?なんて名前。」
「うっかり自己紹介忘れたせいで聞いとらんね。」
「へえそうなんだ。」
「そう、あのとき『夢や目標があれば大丈夫よ』とか軽く言ってた人。」
波長は合いそうではあるが大事なトコが抜けている。そんな感じだ。
「お蕎麦出来たからお昼ごはんにしようか?」
葱や蒲鉾のシンプルなトッピングを置き、二人で手を合わせる。
「いただきます。」
まだご来店のお客様ゼロ名である。




