春の嵐。桜が水面を流れやがて。
寝室で微睡に包まれ、やがて思考力が低下して行く。
「なんかこのままいい夢が見れそう。」
突然、窓を叩く様な大きな風の音。冬の気配を一掃しますとも言いたげな夜だった。
「ちゃんと戸締りしたかな。洗濯物は取り込んだ感じだったからそれ以外は心配ないはず。」
疲れてはいるものの、騒音が邪魔して入眠のタイミングを逃した。
「だめだ、確認ついでにカモミールティー淹れよ。」私は、何とか身体をベッドから引き離しキッチンへと向かった。
「梅ちゃん、起きてきた。」パジャマ姿のみどりがテーブルでコーヒーを飲んでいる。
「みどりも居たんや。ちょっと戸締りとか気になってね。」昔は嵐の度に私の側から離れなかった妹。
「大丈夫。全部チェックしたから。」そんなみどりが今は宿直の警備員の様に頼もしく感じる。
私はケトルに水を入れガスコンロの火を点ける。直ぐに沸騰して注ぎ口の笛が鳴り始めた。
マグカップにお茶を注ぐと私はみどり居るテーブルで話し始める。
「ああ言ったけど、父さんと母さん帰ってこれるかな。」
「危ない時は何も連絡しないから、心配しなくていいんじゃない。弟たちが生まれてから無茶な事はせんなったし。」
「ウチが留守の間にトラブルとか連絡されても対応できんし。その辺りの事情。父さんと母さんしらんから…。」
「それ、梅ちゃんの悪い癖かも。圧倒的に何も起きない方が多いし。それは弟たちとあたしに任せて仕事に打ち込んでた方がええよ。」
「そう言ってもらえると助かるけど。今のままで大丈夫かなあ。」
ガタガタと音を立てるガラス窓。夜の暗闇に灯る外灯が庭を映し出す。リビングで飼っているウサギが顔を出す。
「さすがにこの仔は怖がってるか。」みどりがゲージを開けて白いウサギを抱き抱え戻ってきた。
「みどり。何か不思議のアリスみたい。」パジャマの上のエプロンを付けカップを持つ妹の膝の白ウサギ。他人が見れば全員そう思うだろう。性格を知らないから。
「何しとるん。姉ちゃんズ。」リビングのドア越しに距離をとって見つめる涼。
「お茶会。」
涼は冷蔵庫を開け、コーラとお菓子を持って怪訝な表情で部屋を後にする。
私たちも自分の部屋に戻る事にした。安心した私は、その後泥の様に眠った。
翌朝、目覚まし時計の音で目が覚める。私は身支度を済ませると寝静まった我が家を後にする。
「それじゃ、行ってきます。」
外では昨夜の嵐で水たまりが青空を映し出していた。




