初出勤のお一人様ご案内。
翌朝、私は着替えると新しい職場へ向かった。
「おはようございます。」近所で出会った人たちに挨拶をしつつ桜の木を眺めながら歩きだした。管理人室の鍵を開けると、ガレージの未確認飛行物体の姿は無く、あの時いた数匹の猫たちが出迎えてくれた。
「…猫付き物件、癒し付きってあるんだね。」ドアを開けると慣れた感じでみんな入ってくる。
外には、八重桜が満開の時期を迎えている。取り敢えず部屋のテレビをつけると、落着いた声でニュースが流れた。冷蔵庫を空けて猫にミルクを与える。部屋にある入居者の名簿はまだ空欄が多い。
「あの二人以外にもまだ寮に住んでいるようだから、挨拶しないといかんですなぁ。」
掃除用具入れからバケツ、ちりとり、ほうきを持ち出し、自前のエプロンを付けると寮の前の道路の掃除を始めた。大したごみはないけど。
「あ、親子連れの鴨発見。あれって近所の農家さんが飼ってるのかな。うちと一緒でこれからご出勤といった感じじゃない。」田舎ではよくある光景。
寮の倉庫にある生活必需品の補充。管理人室の冷蔵庫にある食材の買い出し。午前中の仕事はこれで終わりそう。私は簡単に掃除を済ますと財布の中身を確認して、商店街へ向かうことにした。
春の散歩がてら、近所の様子でも見て廻るつもりで出かけられる。私は、初日からわくわくしていた。
商店街へ向かう途中に公園があり、私は藤棚のあるベンチに座ると家族連れのお母さんがたの話に耳を傾ける。
「最近の寮ってお洒落な外観よね。」
「あぁ、少し向こうに建っているやつでしょ。入居してる人たち、若い人多いみたいだけどマナーがいいみたい。」
「ひと昔前は、この辺りも性格のキツイ人多かったからあの人たちで雰囲気が良くなるといいわね。」
飲み屋に勤めている人が多いマンションの近くは明け方騒々しい。年配のベテランママさんならその辺りわきまえているが、中途半端に若い男女が住み着くと治安は悪化する。いつの時代もどの国もそんなものだ。水筒から珈琲を取り出すと私は背負ったリュックから手帳を取り出し買い物リストをもう一度確認する。栞代わりに使っていた紅葉の押し花が地面に落ちた。
「帰り道は別の道を使ってみよう。違う話も聞けるかもしれないし。」
寮の人たち、地味な性格に反して意外と噂になっているようだ。私はひとまず悪い噂がない事に安心した。
「あ、ここにいた。」その声の方を向くと私をこのバイトに勧めてくれた。ハーフの女性が立っていた。
「最初は私も手伝うから。不慣れだと戸惑うでしょ。」
「おはようございます。商店街へ向かう途中なんです。」
「部屋にいないから驚いた。じゃあ、一緒に行こうか。私の方がちょっとだけ経験がある先輩だから。」
「ありがとうございます。頼りにさせていただきます。」
「こういうのは、顔なじみが一緒にいると色々と都合のいい事があるのよ。」
大通りを挟んだ向こう側、横断歩道を渡ると商店街がある。私たちはそこをめざした。
「今朝は他の寮の人に会った?」
「いえ、まだですね。うちが部屋に着いた時間には出社した後のか、人がいる様子なくて。」
「そうそう、大抵は住人の居ない間にこの仕事の多くを済ませる。そんな感じなの。」
「その方が気が楽ですね。」




