(「」改行で時間経過「」)
「そういう姿を思い出していることが増えて、また見たくなっている自分に気づいて、キミの隣で話をして、そんなことを繰り返しているうちに、その、私の中で変な欲が出てきてしまった。
だから、」
照れ臭さで顔を背けて内心でツッコミ続けていた耳に降る声が、止んだ。
しばらくそのまま、再び言葉が降り出すのを待つ。いつもの先輩なら五分もあれば再び言葉が降り始めるから。カラオケがあれば別だけれど。
そう思って待つ。
遠くで学生が騒ぐ声がしている。
学内公園の植木が立てる音は、隙間を猫か何かが移動する音だろうか。先輩と二人で並んで座っているのに、ベンチの上には沈黙がある。
まだ五分が経っていないのだろうか。
先輩の声が馴染んだ耳が音を探して、耳鳴りが起きている。
それでも、声が降ってこない。
耳鳴りが止んでも。耳がおかしくなったのかと思っても、周りの音は聴こえてくる。
浅く繰り返されている先輩の呼吸まで聞こえるほど、耳が鋭くなっている。それなのに先輩の声が降ってこない。もうとっくに五分を過ぎていると思い、どうしたのかと不安になった。
先輩へと顔を向けると、たぶんいままでで一番真剣な表情で、一番赤くなっている先輩の顔があった。
「だから、私の身勝手な欲を向けられることを嫌だと思うなら、手を離して欲しい」
こちらの手を握っていた先輩の指先が離れるのを感じる。
真っ赤な顔の中で薄桃色の唇が再び開き、
「そうしたらもう二度とその欲を口にしない。それでも、もしキミが耳を傾けてくれるのなら、このまま聞いて欲しい。
…………私は、もっと、キミを深く知りたい。色々な姿が見たい。もっと、もっとキミに触れて、どんな風に返してくれるのか確かめたい。
キミに、いや、キミを」
目が離せないまま、途切れ途切れに降る言葉が、
「キミを隅々まで、知り尽くしたい」
そんな言葉で再び閉じた。




