(「、」細々と声にしない否定「、」)
「正直なところ、私自身も戸惑っているのだけれども」
そんな前置きをして、不貞腐れたままの耳に先輩の言葉が再び降り始める。
「私はこれでもキミを後輩だと、友人だと思っている。そういうつもりでいた。
でもキミとこうして過ごす時間が減って、特に伯父とキミの話をしてから、キミを思い出すことが増えた。
サークル勧誘のときに人混みに流されて、押し出されるように目の前に現れた姿とか、」
自分から人混みを抜けて先輩のところに来たことは黙っておきます。
「そのときに困り果てて私の手を取った姿とか」
迷子じゃあるまいし。
「私を見つけると嬉しそうに近寄ってきて、」
いや、言ったことないですよね。
「こうやって私の左手を握るときに、少しだけ口角が上がるのを隠すみたいにすぐ顔を背けて、」
気のせいです。
「歩幅が私より小さいから、私の手を引いているときはいつも少しだけ普段よりも早歩きになっていて、」
違います。先輩の歩幅が広いんです。
「こうやって並んで座れる場所じゃないと通り過ぎて、」
偶然ですよ。たまたま空いているのが並べるところなだけです。
「私みたいな変人でも周りを気にせず喋れる場所を探して、」
いや先輩だってどこでも自由に喋っていいでしょう。
「学内南側にある学内公園のベンチなんて場所を見つけ出して、」
偶然です偶然。
「次の講義先とは全然違う側だから距離が遠くなるのに、」
いやいや、五十歩百歩、五分十分です。
「いつも手を離さずに、左隣を選んで寄り添うみたいに座って、」
このベンチは寝そべったり膝枕をしたりできるほど広くないですからね。並んで座らないと狭いんですよ。
「少しだけ私を見上ながら私が話し始めるのを待ってくれて、」
身長も座高も勝っているというマウントですか、よくないですよ。
「遮ったり、止めたり、邪魔することなんてほとんどしなくて、」
わかりました今度から頻繁に止めます。
「頷いたり、首を振ったり傾げたりしながら、頑張って耳を傾けてくれて、」
耳を傾けると自然と首も動くんですよ。やってみるとわかりますよ。
「それでもだんだん飽きて、あくびを噛み潰すみたいにして堪えて、」
はぁ? 全く飽きませんけど。
「瞼が落ちてきても、頑張って相槌を返そうとしてくれて、」
別に頑張ってませんし、返せるときしか返してません。
「ほとんど寝落ちしているのに、それでも手を握り続けてくれて、」
寝ーてーまーせーんー。
「私の隣で寝息を立てている、気持ちよさそうなキミの寝顔を見ていると、」
寝てないから寝息は立てられません。
「本当はカピバラなんじゃないかなって、」
それは本当に違う。




