(「細かく句読点や空白」)
学内公園にあるいつものベンチにいつものように並んで座っている。
「お前の言葉は無駄ばかりだ。
好きにしろ」
そんな言葉を落とした姿を見送って、ベンチに腰を下ろして。
崩れたマスカラとアイシャドウをハンカチで隠した先輩から、涙雨が降り出したのが少し前。
「あの人は、伯父、 母の兄にあたる人で」
そんなはじまりで、ぽつりぽつりと先輩は言葉をこぼした。
「私にとって、いわば育ての親で、 父が、幼い頃に亡くなって、 母が、私が、ダメで。 育てられなくて。いなく、なってしまって。 当時、伯父くらいしか、身内が、 引き取ってくれる、身内が、なくて。 育てて、くれて。ああいう風に、 会話したがらない人だから、色々、 勝手に決められたりすることもあって、 変な虫がつかないように、女子校の入学申込書とかいくつも手配してくれたり、進学とか一人暮らしの物件とか、寮があるかとか、一通り調べてあって。 選べ、だけ言われたりした。 だから、女子校が嫌だとか、言えたこともなくて。育ててもらっている負い目とか、迷惑かけているとか。 情けなくて」
ハンカチを裏返して当て直す。目元の化粧はもうぐちゃぐちゃになっていた。鼻まで垂れている。
そんな様子を黙って見続けて、言葉に耳を傾ける。
「伯父は母を訴えるにしても、守るにしても、知っておいて損はないって、 法律を、小学生の頃の私に、法律を学べなんて言うような人で、 やっぱり私の伯父だけあってどこか変人だった。今でもそうだと思う。 だから、変人の生きづらさみたいなことを、身をもって知っていて、気にかけてくれているんだ。 ここの学費も大部分を負ってくれて。母が帰ってきたら請求するから私からは受け取らないなんて言う変人なんだ。 でも、いい人なんだ。少なくとも私にとっては」
少しずつ涙雨がいつもの雨になるのを聞きながら、黙って隣に座っている。ハンカチに隠されている先輩の顔を見ながら。
「だから、あの人の期待を裏切ってしまったのは、申し訳なくて」
大きな溜息に混ざった言葉が先輩から落ちた。その喋り方がとても良く似ていると思い、立ち去った長身痩躯を思い返す。
先輩はこちらを見ていたから気づいていないようですが、その心配はいらないと思いますよ。
好きにしろ、なんて言いながら満面の笑みでしたから。
先輩が自分で選んだことが嬉しいんじゃないですかね。
そんな風に思ったけれども、まだ先輩は落ち着いていないようなので、言葉にせず微笑みかけるだけにする。ハンカチ越しでは先輩には見えないだろうけれど。
「それでも、私はこうして握ってくれる手を離したくないって、ずっと握っていたいって、そう思ったんだ」
涙雨が止むまで、そうしてずっと手を握っていた。




