ギリギリの救出 ―side リオン―
これは、侯爵家に、招かれた日だろう。
彼女はその雰囲気というか瘴気にあてられたようで、やや体調を崩していたのかもしれないが、夜、中庭に佇んでいるようだ。
そこへ奇異な叫び声を聞いてしまう。
出所は、中庭から奥まった石畳の、辺りから。
条件反射のように近づいていた……だんだん近くなる声色は、何か叫び声のようだ。
当たりがついた。
おそらくは、この石畳の真下。
周囲を観察すると、すぐ近くに場違いな石像があり、台座の部分にボタンを発見した。
奇異な声に穏やかではない状況を、感じとった彼女は、恐る恐るボタンを押した。
……すると比較的音を立てずスムーズに、石畳がスライドして下り階段が現れた。
狭めだが、月明かりで何とか歩けそうだ。
意を決して下ってみた。
……据えた匂い。
どうみても地下牢獄だった。
嫌だ、見たくない……
でも放っておくわけにはいかない。
正義感が勝り、全貌を確認した。
10代と思わしき獣人が5人。手足に枷を嵌められ、衰弱仕切っていた。
明らかに奴隷だった。もう長い事囚われているようだ。
奴隷制度は、ここルシェが、ライナー兄さんにより連邦国化されてから、廃止されたはずだった。
明らかに違法だ。
何とかこの人達を助けたい……
この状況を両親に伝えなきゃ! と思い、踵を返したところで領主に見つかってしまった。
その場で、リリアちゃんは、逃げる事も叶わず捕らえられてしまい、その場に居合わせた人達の前に晒された。
領主の部屋に、勝手に侵入し、泥棒をはたらこうとしたとでっち上げられた。
そして、その場を以って、婚約破棄が告げられ、着のみ着のまま、馬車に乗せられ、修道院に運ばれた。
この報告は、速やかに両親に告げられ、了承を得た後、国外追放される見込みだ。
ここで2つだけ奇跡があった。
国外追放されるまで数日間の猶予が出来た事と、ここにサーシャがいた事だった。
ウサギはとても小さいので幸い修道院でも、取り上げられる事はなかった。
捕まってしまったリリアちゃんは、クリスマスパーティーでサーシャと面識があった。
サーシャは、僕を憎んでいるだろうと考えたけど、行動は意外だった。
涼し気な表情のサーシャは、相変わらず妖艶だった。
「いい? このウサギにあなたの見た物、彼への想いを精一杯込めるのよ!」
力強い言葉だった。
「どうしてお姉さんは、わたしがリオン君の事を想ってるって分かるのですか?」
「……しっかり証拠があるじゃない! ここに」
サーシャはウサギの縫い目から、あの最高のラブレターを取り出した。
「これだけの滲み出る想い。わたしが見逃すはずがないわ。いい? チャンスは一度のみ」
サーシャは、手紙の書き方を教えていた。長ければ長くなるほど、何か勘ぐられる可能性がある。そしてサーシャの言う通り、拘留中手紙を送れるのは時間からして一度のみ。
そう、最低限の文字に抑えたあの文面は、僕にとっては最適だったんだ。
まずリリアちゃんが泥棒として修道院送りになった事。冤罪で捕まってしまったとしか選択肢はない。彼女の性向からすればあり得ないんだ。次点とにかく短い文面。緊急の合図だ。そして、全てを詰め込んだ“ウサギ“の筆跡。この3文字から全てが分かったのだから。
ふと気付いた。サーシャがリリアちゃんに渡した羽ペン……見覚えがあった。
小さい頃、サーシャお姉ちゃん! っとなついていた頃、僕がサーシャに誕生日プレゼントにあげた物だった。まさかまだこんな状況でも持っていた? どうして?
それより今は……
……リリアちゃん。
必ず助ける!!
時間的にギリギリだった。
手紙を読み取り、行動に即移した。
修道院は、かなり家から離れていたが走りきった。
だが、リリアちゃんを乗せた馬車は、もう出た後だった。
……諦めるもんか!
僕は今、両親の反対を押しきり、冒険者をしている。勉強嫌いが転じたと言う事もあるけど、弱い者を助ける為だ。
ルシェ連邦国盟主であるライナー兄さんと、エリシア姉さんは、宿題もろくに自分でやらない僕らしいと言ってくれて、応援してくれている。
その職能を生かし、走った。
ウサギの思念があるので、馬車の位置は特定出来る。
もう街を出てかなりたった。
まだ見えてこない。
郊外まで行くと、国境沿いに迷いの森がある。
どうやら、リリアちゃんはそこで放置されるらしい。
急がなければ……
身体が壊れても追い付いてみせる。
……よし、見えた。
だがちょうど森に入り込んだ辺りで、程なくリリアちゃんが、馬車から投げ出されてしまった。
馬車は、見向きもせず去っていった。
……リリアちゃん!
声が出ない。息はとっくにあがっていた。
くそ!
あともう少し。
だがリリアちゃんに近寄る影があった。
巨大なハイウルフだ。
この森のボスだろう。
リリアちゃんは恐怖で動けない。座り込んで小さくなっている。
ダメだ!! くっそー! 間に合わない。
ここまできたのに!!




