夢の中なら義妹と付き合っても問題ない
その日、再び俺は夢を見た。
場所はどうやら教会のようである。
しばらくすると、俺と美玖が現れた。
美玖はウエディングドレスに、俺はタキシードに身を包んでいる。
周りには他に誰もいないようである。
夢の中の俺が美玖の顔を覆ったヴェールを外す。
俺は、その様子を見て思わず息をのんだ。
美しい。
いつも人形のように可愛らしいと思っているが、今回はその比ではない。
教会の厳かな雰囲気、ウエディングドレスの醸し出す神聖さ、そして、人形みたいな顔の美玖の心の底からの嬉しそうな顔。
全てが美しい。
きっと、この後、夢の中の俺と美玖は永遠の愛を誓うのだろう。
そして、誓いのキスをかわすのである。
はあ。
さすがにこれは見てられないな。
そう思った俺は、美玖の夢の中に姿を現した。
「えっ。兄さんが二人?」
美玖が驚いた様子でこちらを見ている。
夢の中の俺は、どうやら固まってしまったようで、微動だにしない。
「いや。本物は俺の方だ。」
「どういうことですか?なんで私の夢に兄さんが出てくるんです?」
美玖は混乱し、俺の方にやって来る。
「そんなことより、いい加減にしろよ。毎晩、毎晩、変な夢見やがって。いったいどんなつもりだ?」
俺の言葉に美玖は顔をしかめる。
「別に良いじゃないですか。夢なんですから。どうせ全部夢なんですよ。そんなこと分かってるんです。」
「どうしてそんな夢見るんだよ?」
「どうして?なんて無神経なこと聞くんですか。そんなの決まってるじゃないですか。兄さんが好きなんですよ。兄妹ではなく、一人の男性として。」
「だからそれならなんで現実ではそっけないふりをするんだよ?」
「はあ。そんなの決まってるじゃないですか。兄妹だからですよ。本当、勘弁してくださいよ。なんで兄妹なんですか。兄妹でさえなければ。兄さんに出会わなければ。こんな目に合わないで済んだのに。」
「美玖・・・」
「兄さんに想像つきますか?私が兄さんのことをどれほど愛しているか。兄さんと離れることにどれほどの覚悟が必要だったか。兄さんと再び暮らすことになった時、どれほど嬉しかったか。兄さんと上手くコミュニケーションが取れなくなった時、どれほどつらかったか。もう私の人生はめちゃくちゃなんですよ。全部、兄さんのせいです。」
「それでお前はどうしたいんだ?」
「はあ。どうしたいか?そんなの分かるわけないじゃないですか。いますぐ抱きしめたいですよ。キスしたいですよ。愛を叫びたいですよ。でも駄目なんでしょ。兄妹なんだから。」
「美玖。」
「なんですか?文句ありますか?別に本音を言っても良いじゃないですか。ここは夢なんだから。朝起きたらまたなんともないように、兄妹として、日々を過ごすんですから。」
「お前さあ。母さんが死ぬ前に病室で母さんと二人っきりで話したことがあったよな。なんて言われた?」
「それ今関係ありますか?」
「まあ良いだろ。なんて言われたんだよ?」
美玖は俺の落ち着いた態度に少し気圧されたのか、戸惑った様子で答えた。
「あなたの好きなように生きなさい。あなたは私の娘だから。あなたがたとえどんなことをしようと私はあなたの味方よって言われました。」
「奇遇だな。俺も同じことを言われた。」
「それがどうかしたんですか?」
「いや。母さんが好きにしろと言ってるんだ。好きにしてもいいのかもしれないと思ってな。」
俺はそう言うと、美玖を力強く抱きしめた。
「ちょっと。何をするんですか?」
美玖は戸惑う様子を見せるが、抵抗はせず、俺に身をゆだねてくる。
俺はこっちをまっすぐ見つめる美玖にキスをした。
「??」
言葉にできない戸惑いを美玖は目を大きく見開いて、表現する。
でも唇は決して離さず、俺たちはキスをし続ける。
次第に美玖は俺を受け入れ、両腕で俺を強く抱きしめた。
どれくらいキスをしていたのだろう。
息が苦しくなった俺たちは、自然と離れた。
「何考えてるんですか?今の行為の意味が分かってるんですか?」
やっぱり美玖は驚いた顔が可愛い。
「分かってるさ。誓いのキスだろ。俺は、お前を一生愛す。そういう意思表示だ。」
「はあ?私達兄妹なんですよ。」
「しょうがないだろ。好きなんだから。一目ぼれなんだよ。父さんがお前を連れてきたのを一目見た時からずっと好きなんだ。」
「一目ぼれ??それならなんでそうと言わないんですか?私は避けられていたんだと思っていたんですよ。」
「それは俺たちが兄妹だからだろ。特に、お前は身寄りがないんだ。そういう状況を利用して、俺の色恋をかなえようなんてしちゃいけないと思ってた。だから、告白は、俺とお前が完全に経済的に独立してからにしようと思ってた。」
「そんなに待ってたら、その間に他に人を好きになるかもしれませんよ」
「それはしょうがないだろ。お前にとって魅力的になれなかった俺が悪い。」
「本気ですか?」
「ああ本気だよ。でも、お前も俺のこと好きだって分かったらなんか歯止めが利かなくなってきたわ。」
俺はそういうと美玖に詰め寄った。
「ちょっと兄さん。落ち着いてくださいよ。しょせん夢なんですよ」
「美玖。俺はお前が好きだ。心の底からお前を愛してるぞ。兄ではなく、一人の男として」
「はい。それはわかりましたから。」
美玖は後ろに後ずさりながら答える。
その困った顔を見ていると俺はまた意地悪をしたくなってくる。
「そう言うお前はどうなんだよ?偉そうに言ってたが、本気で俺のことを好きなのか?言っておくが俺は、夢の中だけで終わらせるつもりはないぞ。」
俺の言葉に美玖は、戸惑いっぱなしである。
「えっ。いやー。すごく幸せなんですけどねー。なんか、現実では、恥ずかしすぎるというか。心の準備が必要というか。」
「まさか。ここまで言っておいて逃げないよな。夢が覚めたら、俺はお前に告白するぞ。それで明日は、手をつないで二人で登校しようぜ。それで、クラス中に交際宣言するんだ」
「ちょっと冷静になってくださいよ。」
「なんでだよ。お前が俺のものだって全校生徒にアピールしたいんだ。お前は世界一可愛いから、お前に色目を使ってくる奴がいないか心配だからな。」
「独占欲えぐいですね。そういうところ嫌いじゃないですけど。」
「当たり前だろ。8年も待ったんだから。」
美玖は俺の言葉に目を見開いて答える。
美玖が変なテンションになった時の表情だ。
「分かりましたよ。逃げませんよ。明日、目が覚めたら、兄さんが私に告白して、私はそれに全力で応じます。それで、手をつないで登校して、クラス中に交際宣言して、帰りにタピオカ飲んで帰りましょう。」
「楽しみだな。」
「そうですね。」
俺たちは二人で微笑みあう。
そして、俺は知っているのだ。
こいつは、明日、必ず逃げる。
俺が告白したら、「兄さん。寝ぼけておかしくなったんじゃないですか。兄妹で付き合うなんてありえませんよ。」とか言って、かっこつけて、俺を無視して学校へ向かうのだ。
だがそれで良いさ。
絶対にいつか捕まえて見せるから。




