義妹はカレーを作りたい
その日の朝。
学校につくと珍しく美玖と伊熊が俺の席にやってきた。
「工藤君。ちゃんと覚えてる?今日の三時間目は調理実習だよ。」
そういえば今日は調理実習だ。俺は美玖と伊熊の三人の班になっている。
「たしかメニューは美玖が決めて、買い物は伊熊が行くんだったよな。何を作るんだ?」
「カレーです。」
カレー?二時間目だぞ。他の班はお菓子とかを作っていた気がするのだが。
「何でカレーなんだ?」
すると美玖が自慢げに弁当箱を二つ取り出した。
「実は、兄さんと一緒に暮らしだしてから兄さんにお弁当を作ってあげようと思って、保温のできる弁当箱を2箱買ったんです。今日はカレーを作ってお弁当箱に詰めてお昼ご飯に食べましょう。」
よく見ると美玖の弁当箱はいわゆる保温のできるカレーも入れられるやつだ。
なんだか二人暮らしが始まった頃を思い出す。当初は二人とも料理をするという志があったのだが、すぐに諦めて外食に頼るようになってしまった。美玖の弁当箱も多分、最初の料理をする気満々の頃に買ったものなのだろう。
「でも大丈夫か。俺達三人で作って失敗したらどうするんだよ。」
俺の言葉に伊熊と美玖はむかつく感じで笑い出した。
「工藤君さあ。どこの世界にカレーを失敗する人がいるんだよ。」
「そうですよ。兄さん。私はやらないだけで料理は出来るんです。兄さんが思っているよりずっと家庭的な女なんですよ。」
「お前たちはよくカレーでそこまで威張れるな。」
「兄さん。あんまり足を引っ張らないでくださいね。基本は私と伊熊君でやりますから。」
「工藤君は皿洗いでもしててくれればいいよ~。僕が作っちゃうからね。」
二人の自信満々な態度に俺は凄く不安な心を押し殺しながらただ頷いた。
そして、2時間目の調理実習の時間。俺の不安は見事に的中した。
「凄く美味しそうにできたね~」
「そうですね。」
その前向きな態度とは裏腹にカレーを見つめる二人の目は死んでいる。
「米があればな。」
そう。こいつらはカレーに集中するあまり米を買ってこなかったのだ。しかも他のクラスメートはお菓子を作っているため米を借りることもできない。
美玖はついに耐え切れなくなったのか頭を抱えてうずくまった。
「そんな。周りがクッキーとかを作っている中、私達だけ、真面目にカレーを作るという恥ずかしさに耐えて頑張ってこれたのも全てがあのお弁当箱を使うためだったっていうのに。」
「別に使えばいいだろ。米がないけどスープにはなるしな。」
俺の言葉に伊熊が机を強くたたいた。
「なんでそんなに他人事なんだよ。」
「いや。お前こそ。どういうテンションで怒ってるんだ?」
「もういい。僕は家に帰って米を炊く。」
そう言うと伊熊も、カレーも入れられるタイプの弁当箱を取り出して、カレーを入れられるだけ入れだした。
「本気で帰る気か?」
「当然だろ。学校の授業より大切なことがあるんだ。」
そう言うと伊熊は去って行った。
ああいう真面目な奴ほど追い詰めるとやばいということを深く感じさせる。
ふと横を見ると、まだ美玖が落ち込んでいた。伊熊はどうでも良いが美玖を放っておく訳にはいかない。
「なあ。美玖。米ならあてがあるぞ。」
「本当ですか。」
俺の言葉に美玖は目を輝かせたのだった。




