幼馴染の母親は娘の話がしたい
その後、将棋に完敗した俺は帰ろうとしたところを何故か裕子の母親の道子さんに引き留められ、和室に連れてこられた。
「薫君。せっかくだからお茶とお茶菓子を食べて行きなさい。」
道子さんはそう言うと俺の前には山盛りのお茶菓子が置く。
「なんでこんなにあるんですか?」
「子供たちが意外と食べなかったのよ。特に3人の男の子は、(ウエハースチョコでお腹いっぱい)とか言って一つも食べなかったわ。」
「それって?」
「そうあなたのせいよ。」
なる程。たしかにそれは俺のせいだ。
俺は観念して和室の座布団に座った。
「分かりました。」
「あなたって甘いものはあまり好きじゃないのかしら?」
「まあ。」
「ならお茶菓子はちょうどいいんじゃないの?スナック菓子と違ってちょうどいい甘さでしょ。お茶も一緒に飲むとなお良いわよ。」
「ありがとうございます。いただきます。」
そう言って俺はお茶菓子を食べながらお茶を飲み始めた。
しかし、さすがに道子さんは着物が様になるな。なんだか貫禄を感じる。
そんなことを考えると道子さんはこちらをじっと見てきた。
「ねえ。ところで裕子とはどこまで進んだの?」
突然の言葉に思わず俺はお茶を噴き出しそうになってしまう。
「急になんてこと言うんですか。俺と裕子は何でもないですよ。」
「そうなの。残念ねえ。あの子って社交的に見えてそういう所は凄く臆病なのよね。」
「俺と裕子はそういう関係じゃないですから。ただの幼馴染ですよ。」
「そうなの。まあ。あなたはモテそうだものね。」
俺は再びお茶を噴きだしそうになった。
「まさか。そんな訳ないじゃないですか。俺がモテるなんてありえませんよ。」
「そうかしら。私にあれほど強くものを言って来たのは後にも先にもあなただけなのよ。あなたのその度胸に憧れる女の子はいそうですけどね。」
俺と道子さんにはもともと交流はない。しかし、中学2年生の時、裕子が急に髪を染めたことで、道子さんは俺の家に怒鳴り込んできた。俺と裕子が付き合っており、俺の影響で裕子が非行に走ったと勘違いしたのだ。
母さんは突然のことに驚いていたが、俺は理不尽な物言いに腹が立ったので、逆に裕子の家に乗り込み、道子さんと激しい口論を繰り広げた。
ちなみに、裕子の茶髪や派手なファッションが許されたのはその時の喧嘩の副産物である。
「あれは度胸というより無鉄砲だっただけですから。」
「そう。まあうちの裕子が陰で色々やってるみたいですし、他の子はあなたにアプローチしにくいのかもしれないわね。今度、私がはっきり言っておくわ。人の足を引っ張る前にまず自分が頑張りなさいって。」
そんな訳ないでしょうと言いたいところだが、夢で昔の裕子を見てしまっている分、完全に否定できないところがつらいところだ。
「裕子にそこまでしてもらえるくらいモテたら人生幸せなんでしょうけどね。」
「あら。随分と逃げ方が上手くなったのねえ。」
こうやって道子さんと二人で話すのは凄く久しぶりだ。ずっと言えなかった話をしてみてもいいかもしれない。
俺はそう思ってお茶を一回置いて、道子さんの方を見た。
「道子さん。そう言えば改めて言わせてください。母さんが死んだときはありがとうございました。」
「どうしたのよ。急に?」
「母さんが死んだとき、真っ先に駆けつけてくれたのが道子さんでしたよね。俺一人じゃ、お葬式すらまともにできませんでした。」
俺の言葉に道子さんは優しい笑みを浮かべた。
「あら。やっと私にお礼が言えるくらいに回復したのね。乗り越えられたのかしら。」
「はい。色々、ありましたけど、今はなんというか穏やかに暮らせています。」
「そう。あなたが穏やかに暮らせるようになった理由が裕子や私じゃなさそうなところが残念ですけどね。」
「そんなことないですよ。裕子や道子さん。それに正純さんがいたから俺はここまでやって来れたんです。感謝してもし足りないくらいですよ。」
「冗談よ。ちょっと意地悪言っただけじゃない。」
「道子さん。」
「忘れないでね。私はいつでもあなたの味方だから。もっとも、裕子を泣かせた時だけは敵になるから勘弁しなさい。あんな娘でも私の可愛い一人娘なの。」
「はい。」
「さーて。辛気臭い話はおしまい。学校での裕子の話とか聞かせてもらえないかしら」
それからしばらく俺と道子さんは下らない雑談をした。




