幼馴染の父親は将棋がしたい
その後しばらくして、大分体力を消耗して大人しくなった少年たちが母親達に連れられて、お茶会に戻った後、俺が縁側で休んでいると、裕子の父親である正純さんが俺の元へやってきた。
「おい。薫。」
「あっ。正純さん。どうしたんですか。」
「一局やるぞ。」
俺は小さい頃、正純さんに将棋を習っていたことがある。正純さんは気難しい人だが何故か俺とは凄く馬が合い、父親がほとんど家に居ない俺にとっては第2の父親の様な存在だった。
また今は退職してしまったが、職業が検察官であり、厳格に正義を守るその姿には子供ながらに憧れたものだ。
「今ですか?子供の相手でちょっと疲れてるんですけど。」
「良いから来い。」
正純さんは言葉は少ないが頑固で一度決めたことは絶対に曲げない人だ。
俺はしかたがなく正純さんに従い、正純さんの部屋に入った。
それからしばらく将棋を指していると正純さんが言った。
「なあ。家に来る気はないのか?」
「急に何の話ですか」
「お前の父親には言ったんだがな。俺はお前たち兄妹を家に迎え入れてもいいと思ってる。食事だってちゃんとしたものを食べさせてやれるし、二人暮らしはなにかと不便だろ。」
これが用事だったのか。でも不思議と悪い気持ちはしない。
言葉が少なく強引だがどこか愛情を感じるからだろうか。
だから俺も誠意をもって答えることにする。
「ありがとうございます。でも俺は良くても美玖は気を使うでしょうし。正純さん達にご迷惑をおかけするわけにはいきませんから。」
「そうか。まあ無理強いはしない。」
正純さんはそう言うといつも通り厳しく、隙のない一手を出してきた。
やっぱり正純さんは強い。
昔からやっているが勝った記憶が全くないほどだ。
俺は心を落ち着かせ次の一手を考え、出来る限りの最善の手を打った。
「おー。凄くいい手だ。」
正純さんは俺の一手に無邪気な笑みを浮かべた。
久しぶりだけどやっぱり俺はこの人が好きだ。
正純さんの笑顔を見て、俺はそう強く感じたのだった。




