幼馴染は目的を達成するためなら手段を選ばない。
その日、俺は再び夢を見た。
夢では、小さい頃の裕子と美玖がいて、小学校の校舎裏で話をしている。
「美玖ちゃん。急にごめんね。」
「裕子さん。気にしないでください。それよりも話って何なんですか?」
これは美玖の記憶なのだろうか。二人の雰囲気は今に比べると少しだけ穏やかに見える。そういえば昔は今ほど険悪な関係ではなかったかもしれない。
あと、髪が黒い頃の裕子は新鮮だ。この頃は今みたいにあか抜けておらず完全にお嬢様という見た目である。
「あんまり遠回しな言い方は嫌だからはっきり言うね。美玖ちゃんって薫のことが好きなの?」
はあ。裕子の奴、急になんてこと言うんだよ。俺と同様、美玖も驚いた様子で目を大きく見開いた。
「はあ。そんな訳ないでしょ。私たちは兄妹ですよ。」
何だかこの様子には既視感がある。
そうだ。この前の夜にビンタされた時と同じ反応だ。
どうやらあいつは小さい頃からあまり変わっていないらしい。
美玖の言葉に裕子はほっとした様子で息を吐いた。
「そっか。そりゃそうだよね。美玖ちゃんと薫は兄妹なんだもんね。これで美玖ちゃんが、薫のこと好きだなんて言い出したら、美玖ちゃんを預かってくれた薫の両親を裏切ることになるわけだし。義理堅い美玖ちゃんがそんなことするわけないよね。」
「当然ですよ」
なんだろうか。あまり適切な表現ではないのだろうが、裕子の言葉はどこか呪いの様なものに感じられる。兄妹という言葉で美玖を縛り付け、動けなくするような。
「美玖ちゃんの気持ちはよく分かったわ。でもそれなら、ちょっと薫との接し方を考えたらいいと思うよ。」
「どういう意味ですか。」
「美玖ちゃんっていつも薫にべったりでしょ。このままじゃお互いにとって良くないと思うの。だって薫と美玖ちゃんは兄妹なんだよ。兄妹っていうのは、子供の頃は一緒にいても大人になったら離れ離れになるものなの。」
「別に離れ離れになる必要まではないんじゃないですか。私と兄さんは家族なんですから。」
「あるよ。それともこのままずっと薫の重荷になり続ける気?薫が面倒見がいいことは美玖ちゃんもよく知ってるでしょ。このまま美玖ちゃんがそばに居たら、薫は美玖ちゃんの世話ばっかり焼いて、一生、恋人が出来ないよ。美玖ちゃんはそうなったら責任が取れるの。」
「それは。」
美玖は泣きそうだった。
しかし、裕子は容赦なく畳みかける。
「ねえ。もう一回聞くよ。美玖ちゃんはまさか薫のことが好きな訳じゃないよね?薫の両親に家族として受け入れってもらっておきながら、その立場を利用して薫のことを口説こうとするなんてそんな卑怯なことはしないよね。」
美玖は裕子の言葉に言い返すことが出来ず、目に涙を浮かべながら静かにうなずいた。
すると裕子は嬉しそうに美玖の手を取った。
「そっか。じゃあ、中学で家を出るといいよ。全寮制の女子校に行くの。」
「えっ」
「今度、一緒に中学校を見に行こうよ。私もお父様に勧められてた学校だから美玖ちゃんに合うと思うな。私は、成績足りないから行かないけど、美玖ちゃんなら十分、合格できる学力もあるでしょ。」
「でも。」
何か言おうとする美玖を裕子は強引に抱きしめる。
「大丈夫。寂しいのは今だけだよ。すぐに薫のことは忘れられるよ。薫の面倒は私が代わりに見てあげるしね。女子校だけど、こっそり合コンとかやってる子もいるらしいし、この際、彼氏でも作っちゃったら。」
美玖は何も言い返さず、ただ黙って裕子に抱きしめられていた。
薄れゆく意識の中で俺は思った。
美玖は中学から3年間、全寮制の女子校に行っていた。高校に入って我が家に帰ってきたが、昔と違い、美玖は俺から距離を取るようになった。
もしかしてこの時の会話が原因なのだろうか。
だとしたら今日のことは忘れよう。
俺のいないところでの裕子の様子や美玖の本当の気持ちは、勝手に俺が覗いて良いようなものではないからだ。




