俺と義妹は、小さい頃のことを思い出す。
その後、俺達は美玖の勧めでベトナム料理屋を訪れていた。
「よくこんな店見つけたな。」
「ええ。いつも出前とかじゃ飽きると思いまして。」
俺達はあまり料理をしない。そのため夕飯はコンビニの弁当や出前が多かった。
「このビーフンも美味いし、色々食べられて楽しいな。」
最初は、フォーというベトナム料理の麺料理できしめんに似た食べ物を頼もうとしたが、美玖の提案で春巻き、ビーフン、チャーハン、サラダみたいに色々頼んで二人で分けることにした。どうやら正解だったようだ。
「こういうの楽しいですよね。店の前を通るたびに気になってたんです。」
それからしばらくは二人で美味しい、美味しいという話をしていたがすぐにまた沈黙が訪れる。
最近はいつもこうだ。
せっかく一緒に居るのにどこか孤独感を感じる。
でも夢では美玖もあんな感じなんだ。方向性はどうあれ、もっと仲良くするべきだと考えているのは俺も美玖も同じはずである。そこで俺は思い切って話をすることにした。
「なあ。俺と美玖が初めて会った時のこと覚えてるか?」
美玖は俺の言葉に驚いた様子で箸を止めた。
「どうしたんですか。急に?勿論、覚えてますけど。小学校3年生の時ですよね。」
俺の父親は医者で、海外の医療未発達地域を回って医療提供を行っている。美玖の父親も俺の父親の同僚の医者で小さい頃に母を失った美玖は、父親とともに各国を回っていた。
そんな中、俺達が小学校3年生の時に、美玖の父親が亡くなった。そこで俺の父親は、美玖を引き取り、日本で暮らしている俺と母親の元に美玖を預けたのである。
「よく考えると凄い話だよな。小学校3年生から急に家族になったんだもんな」
「そうですよね。でも、あれですよ。正直、初めて会った頃の兄さんは感じ悪かったですよ。」
美玖の言葉で思い出す。美玖は初めて会った頃には凄く大人びていて隙のない少女であり、その人形の様な美しい見た目も相まってまさしく孤高の存在に感じられた。ずっと、異国で生活し、両親を亡くしたことで一人で生きていく覚悟を決めていたのだろう。
俺は、そんな美玖の様子が気に食わず、ずっと美玖に絡んでいた。
「まあな。でもお前だって俺に一切心を開いてなかったじゃないか。」
「そりゃそうですよ。急に知らない人たちと家族になれって言われてもそう簡単にはいきませんよ。」
「でも母さんは最初からノリノリだったよな。」
「そうですね。まああの人は大分、変わってますから。」
俺達は母さんのことを思い出して互いに笑いあった。なんだか久しぶりにちゃんと美玖と話をしている気がする。
「そんな俺達が仲良くなったのが、小学校4年生の頃だよな。」
「そうですね。今、思っても不思議ですよ。どうしてあの時、兄さんは私が泣いていることが分かったんですか。」
そう。小学校4年生の頃、俺は、美玖の夢を見た。美玖は夢の中で両親を思って泣き続けていた。
馬鹿な俺はそこで初めて気づいたのだ。美玖は強く見えるだけで、決して強くはない。美玖はずっと一人で頑張っているのだと。
俺は夜中に目覚めると美玖の部屋に走った。美玖はやはり一人で部屋で泣いていた。
「まあ。なんとなくだ。」
「ふーん。なんとなくですか。私は凄くびっくりしましたよ。」
「怒ってたよな。」
俺は部屋に入ると美玖に「どうして泣いてるんだ」と言った。すると美玖は「出て行ってください」と言った。だが俺が「理由を聞かない限り出て行かない」と言ったら怒り出したのだ。
「あれが初めての喧嘩ですよね。私、あの時は本当に腹が立ったんです。両親が健在で何不自由ない生活を送っている兄さんに私の何が分かるのって。あの時は、私以外の人が全員敵に見えてましたから。」
「その時、俺が言った言葉を覚えてるか。」
「覚えてますよ。(ああ。分からない。俺にはお前の気持ちが分からない。だから何でもいい。話してくれ。下らない話でも、悪い話でも構わない。何でも共有しよう。それが家族ってやつだろ)って。兄さんって不思議ですよね。普段はそんなでもないのに、そういう時には本当に優しいんですから」
「その後、夜な夜な語り合ったよな。そこで、お前が甘党なこととか、運動音痴なこととかを知ったんだ。」
「そうですね。夜中まで話し過ぎたせいでそのまま二人で昼まで寝てしまってお母さんに凄く怒られたんですよね。」
「そうだったな。」
そこで、俺は水を飲む。そして覚悟を決めた。
「なあ。美玖。」
「何ですか?」
「もう一度初心に戻らないか?」
「初心?どういう意味ですか。」
「俺達はあの頃より大人になった。でもその分、俺にとってお前は分からないことばかりだ。何でもいい。もっと俺に話をしてくれよ。」
俺の言葉に美玖は笑い出した。
「何笑ってるんだよ?」
「いえ。兄さんは変わらないなーと思いまして。では一つ話したいことがあるのですが」
「何だ?」
「実は、今、凄くはまっているドラマがあるんです。」
それから俺達は、店の人にそろそろ帰ってくれないかといわれるまで話をし続けた。
美玖の好きなドラマの話、俺の好きな小説の話、最近会ったこと、期末テストの話、目指している進路。
とりとめのない会話だったが何だか俺にとってはどこか特別なものに感じられたのだった。




