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~アバターでボカロなら老化しないのにね~

ミドリから教えられた社長の所有する豊洲のマンションに朝イチの電車で向かうキキョウは、昨夜からろくに眠れず目の下にくっきりと隈があるような有り様だった。


’ユージさん!ユージさん!‘

‘おはよ…、そんなに叫ばなくても開けるよ’


ユージは数時間は眠ったもののアルコールの覚醒作用で目がさめておまけに内蔵も悲鳴を上げているようで、1時間も前からキキョウが来るのをボンヤリと待っていたような状態だった。


‘ユージさん!’

’キキョウちゃん、あ、ドア閉めてから…‘

‘やっと会えた!’

’ありがとう…君はこんなに重いのか、支えられないよ、ごめん‘

‘背中の骨が触れるよ、なんで…こんなに痩せてるのよ…?!’

’食ベられなくなっちゃって…‘

‘胸も骨があたってるよ…いやだ…こんなの…’

’君のおっぱいが俺の胸にあたってるのはわかるよ、女のコって…柔らかいんだな…‘

’手首…?!、なんで…何したのよ…‘

‘手首なんか、メイクさんとか衣装さんがわからないように完璧にカバーしちゃうんだよ、こんなんじゃ、休めやしない…’

’めちゃくちゃだわ…‘

‘売れっ子はさ、仕事が多くてね、違約金が何億円もオフィスにかかるんだ、生きてるうちは、もう…休めないんだ…’

’そんなわけないよ、逃げなきゃ…!‘

‘この顔で何処にも行けるとこなんてないよ…’

’ユージさん、せっかくトップになっても…こんなの…‘

‘脱獄囚みたいにさ、写メを撮られて、拡散されて、獲捕されるだけさ…’

’そんな…わけ…なんでよ…‘

‘俺の顔、メイク落とすと死相がでてるんだって’

’なんの冗談っ?! 誰がそんなこと…‘

‘マネージャーが夜中もベッドの横に座ってるんだ、俺が勝手に死なないように…’

’もうやめて…‘

‘あの、ミドリさん、聡明で頼りになる、オバサンだけど、綺麗な人だね、若い頃は凄かったのかもな…’

’やだわ、うちはモデル事務所だからね、スタッフもみんな元モデルなのよ、そーだ、うちに移籍してきてよ‘

‘いいねぇ…’


元々頼りなげな美青年のユージはさらに力なく、玄関ドアが開いてすぐ走り込んでハグしてきたキキョウを抱き支えて立っていることもできなかった。


2人は再会してそのまましゃがみこんでしまったまま、その場でそれでもしっかりと抱き合ったまま離れることが出来ないでいた。


キキョウにはユージが生きていることだけで嬉しかったが、ユージの頭のなかは仕事のスタッフたちにや共演者からの口には出さないクレームとオフィスに請求されることになる何億円もの違約金のことしかなかった。


’私たち、電気で動く訳じゃないわ、食べたり寝たりするの…。ユージさん…ひどい顔色…‘

‘ここで死んだりしないから’

’嫌だ、どこでも駄目だから!‘

‘昨日と今日で、もう8つの仕事がとんでるんだ…何十人何百人が迷惑してるだろな…’

’でも…仕方ないよ…‘

‘主役の俺が自分で責任取らなきゃなんない…’

’主役だけが悪いの…?‘

‘男にはさ、責任があるんだ…’

’…‘

‘日本中に自分の顔が出まくりでさ’

’うん…‘

‘キキョウちゃんだってわかるよね?’

’うん…‘

‘誇らしいけど、怖いんだ…’

‘こんなの、どうせ今だけだよ…、みんなすぐ忘れるんだから…老化して、醜くなって、消えてなくなるんだから…’

’今が人生の頂点なのに…台詞も振りも覚えきれない…気持ちが全く乗らなくて…、歌おうとしても曲に期待されてる声が出せない…どんな頂点だよ…ったく…‘

’人間なんだもん…仕方ないよ…‘

‘商品だよ、ポンコツの…’

’ちゃんと、ノブナガに話したの?‘

‘だれに?’

’ユージのボスの…‘

‘オヤジさんか…’

’わかってくれないの?‘

‘若いコ達が入ってね、素直で綺麗な男のコ達なんだ…、ほとんどの俺の作品にバーターで出てて…なんか…キラキラしてさ…必死でね…’

’もう嫌なことされなくて済むじゃない…‘

‘キキョウちゃん、なんて…? 恐いな…’

’森蘭丸も12歳からなんだから、そうなっても、仕方ないんだってば…‘

‘なんでキキョウちゃんが…そんなこと…。泣いてるの?’

’生きるためだよ、弱い女も貧しい女もポルノ対象になって生きてたんだから…‘

‘なに…?’

’逃げられないことだらけなのは、日本の戦国時代の昔からなんだから…‘

‘俺は…あんなに嫌で仕方なかったのに…オヤジさんはもう俺には興味ないのがわかって…なんでだろう…悔しくてさ…若いコ達が…’

’今からユージさんの人生、始まりなんでしょ!‘

‘終わってるかもね…俺は…美しくないよ…こんな顔じゃ駄目だ…人に夢を与える仕事なのにさ…’

’やめて…もう…‘

‘いつも仕事を辞めたいと思ってるなんて…誰にも言えなかったけどね…’

’一緒に外国に逃げよ‘

‘いいねぇ…’

’ミラノでジェラート食べるの!‘

‘いいねぇ…’

’オアフで…サーファーのチューブライディング…見ようよ…‘

‘泣きながら?’


2人はインターフォンが鳴ったのに気が付かなかったが、合鍵を使って入ってきたミドリは広いとはいえ玄関先でしゃがみこんで涙でぐしゃぐしゃの顔のまま何やら話しこんでいるユージとキキョウを、今はとにかく落ち着かせなければならないと理解した。


手早くリビングのソファを片付けてハーブティーを淹れたミドリは、2人を呼んでから事務所の社長に連絡をした。


ミドリが隣の部屋で社長からの、

2人をどこにも出さずに落ち着かせること、キキョウがつられておかしくならないよう注意すること、ユージのオフィスには自分が連絡しておく、

というメールを確認してから2人の方を見たとき、ハーブティーを飲んだ様子もなく2人は部屋から消えていた。
















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