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~敵のいない闘いには勝てないから~

ユージの声だ。


’今どこ?‘

‘押上の江戸川の川原だよ’

‘ユージさん、声が凄く疲れてる…’

’あの映画さ、もう、出来ないんだ…マネージャーをまいて逃げてきた…それを言わなくちゃと思ってさ…‘

‘今から行く!’

’高校生が何言ってるの‘

‘こないだもつらそうに見えたの、気になって…映画なんか…出なくていいの…’

’キキョウちゃん、泣いてる?‘

‘こっちに来れる…?’

’どこにも行けないよ、すぐにバレて写メを撮られるんだ…‘

‘仕方ないよ、男なのに顔も首も手も白すぎるよ、綺麗にお手入れしすぎで、ツヤツヤしてて目立つもん…’

’目立つか…‘

‘しばらく家出しよう!’

’子どもかよ‘

‘豊洲に向かって!誰も使ってないマンションがあるの!’

’なんで俺が入れるの‘

‘ミドリさんに頼んであるの!’

’ミドリさんて誰?‘

‘とにかく、豊洲まで見つからないように頑張って!’

’豊洲か…‘

‘春海橋公園の岸辺に、着いたら電話して!’


キキョウはすぐにミドリさんに連絡して事情を説明し、豊洲にある社長の売れないマンションを今夜ユージのために使わせて欲しいと頼んだ。


マンションの合鍵を持っていたミドリは飲んでいたのでタクシーで豊洲に向かい、春海橋公園前の遊歩道に立っているユージらしき青年に声をかけて持ってきていた帽子を被せてタクシーに乗せ使われていないマンションに連れて入った。


‘ひとり分のシーツやタオルと日用品は買って置いてあるものを使いなさい。ベッドは無いの、ソファがベッドになるわ’

’すみません…‘

‘その…左手首の…包帯は…?’

’先月切って…すぐに見つかって…駄目で…‘

‘首に!アザもあるじゃない!’

’おとついクローゼットで…吊ったのに…すぐに壊れて…‘

‘しばらく休んだ方が良いわね…’

’せめて今夜だけ、うちのオフィスにここに居ること言わないでくれますか?‘

‘その方が良さそうだけど、ここで死のうとしないでくれるなら、よ’

’ここでは迷惑かかりますよね…‘

‘キキョウのこと、覚えてたのね?’

’あのコは若いけど、どこか安心できるんです…心が合うというか…‘

’キキョウもそのようよ’

‘俺は生きてる限り、覚えなきゃならなくて、身体を鍛えなきゃならなくて、優しいふりしなきゃならなくて、平気なふりしなきゃならなくて、なのに身体は18歳の頃みたいに動かなくて顔も無駄なシワやシミがいっぱいあって消えなくて、…もう、駄目なんだ…’

’よしなさい。少し、仕事から離れないと誰でもそうなるよ、普通だから、大丈夫だから‘

’初めて会った人に…すみません…‘

‘とにかく今夜は夜景でも見て酒飲んで寝ちゃいなさい、これ、飲める?’

’はい。…キキョウちゃんに、会えますか?‘

‘もちろんよ、明日の朝一番で来るはずよ’

’学校サボらせちゃうのかな…‘

‘大丈夫よ、仕事ってことなら’

‘高校って、理解あるんですね’

’そうそう、うちの社長は元モデルでそちらの代表さんと知り合いだから。でも、仲良しではないみたいなんで微妙かね‘

‘マネージャーにはメールしました、今夜は探さないようにって’

’死にません、て、書いたのね?‘

‘はい。一人になりたいだけだ、と書きました’

’君みたいに売れ過ぎるとしんどいでしょうね…。でもね、乗り越えられるわよ、必ずね‘

‘この顔、知られ過ぎてて変えたいくらいです…’

’それも良いわね‘

‘生身の俳優なんて歳を取って醜くなるのに、なんでCGでやらないんだろ…’

’確かに。時間が経つのは残酷だわね…‘

‘今のカメラの前の俺、20歳の頃の澄んだ瞳が消えてんです…。皮膚の艶もなくなってる…。声の張りも無いのに…、ダンスと歌まで、レッスンしてもちっとも上手くならなくて…’

’商品がトップクラスで売れ続ける期間はせいぜい10年だから今の君はツメツメにされてるのよ、今だけのその状況を楽しめないの?‘

‘眠れもしないのに喜んでいたのは最初の頃だけでした…マネージャーも疲れてすぐに辞めて替わってしまうし、新しいマネージャーは張り切って頑張りすぎるし…味方なのに、もう悪魔ですね…’

’オフィスはまだ有頂天に儲けてるわけよ、業界での発言権も態度もユージ君のお陰でとても大きくできるから、やめられなくなってるんじゃないかな…‘

‘世話になってるのはわかってんですけど、もう、いいかな、と…’

’君は、今は、仕事を減らさないと‘

‘マネージャーなんて6人いて、取っ替え引っ替え張り付くんです…、呆れますよ…こっちは起きてる間中ひとりで相手してるのに…’

’だからって、君のしんどさや辛さがわからないなんて。顔見てりゃわかるだろうに‘

‘マネージャーはイエスマンの若い子ばかりですよ、うちの代表の顔色見てばっかで…’

’そうか。大変な思いしてるのね…、さ、もっと飲みなさい…‘

‘こんなに思ってること喋ったの久しぶりです…、キキョウのとこの人に…、すみません、ありがとうございます…。ここの人は僕に会いに来られますか?’

’マンションの持ち主? ああ、うちの社長はモデルや俳優にほとんど会わない人よ、ここもキキョウに頼まれて気まぐれで貸してくれただけで‘

‘俺を見に来ないなんて、初めてですよ、サインも写メも笑顔も要らないなんて、嬉しいな…’

’泣いてないで、もう、寝なさい‘

‘帰るんですか?’

’朝早くキキョウが来たら、このインターフォンをこうして解除してあげて‘

‘はい…’

’疲れたね、おやすみね‘

‘…’


ミドリもキキョウと同じように、今、ユージを助けてあげなければと確信した。

















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