~ラスト ラン からの報復のために~
キキョウが所属している事務所の社長は昭和バブル世代にモデルをしていたが28歳を老齢潮時と考えて引退し、なかなか目が出ない自分を慕う後輩モデルやタレントの卵たちを引き受けて事務所を起業した。
ところが何人かを順調に育てて1年ほどしてミドリに事務所運営を任せて、社長は歯科大学に入り留年もしつつ8年かけて歯科医師ライセンスを取ったあと、マイペースに勤務医をしたりしなかったりで事務所の社長職の方も一応続けている。
ミドリは事務所開業時の新人モデルの一人で、彼女だけが今も社長の事務所をきちんと守ることを自分の居場所にしていて、新しいモデルを育てようとキキョウのクラスメイトをスカウトしたことでオーディションにくっついてきたキキョウをモデル業界に誘った。
いつかの遊園地ロケの撮影で多分キキョウは恋人役だったユージを好きになったのだろうとミドリは気付いていて、あれだけ売れている俳優とならスクープされてもいいなと思っていたので個人的に社長にユージのことを相談してみることにした。
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’キキョウ、ユージ主演のアニメ実写化映画の端役に入れるかも知れない、明日、来れるよね?‘
‘ミドリさん、今晩わ、明日、何時でも行きます!’
’キキョウは会ったこと無かったよね、うちの社長に‘
‘事務所のポスターやパンフは見てますけど本人とは会ってないです’
’社長も、ユージは気になるらしいわ、最近覇気がないし笑顔も光が薄くて皺っぽい、なんて言ってたわ。‘
‘明日はユージさんと会えますか?’
’まさか! 話が決まってユージと絡むシーンがあれば、って感じかな‘
‘ユージさんに連絡したいんです!’
’ユージの事務所の代表は社長の昔の顔見知りで、元イケメンバーテンダーなんだって。そいつは昭和のがっつり頑張るタイプでうちの社長とは話が合わなくて疲れるからキライだー、だって‘
‘で、ユージさんに連絡は?’
’だから、ユージは公私ともに事務所の代表に男の管理下だって‘
‘逃げられないように?’
’有名になると守らなきゃ、てことでやり過ぎてるのかね。大切にしてるつもりなんじゃないの? マネージャーも何人も作品ごとに付けてさ、ユージは寝ても起きても王子様みたいに守られてるんじゃない?‘
‘それは、違います!’
’違うって?‘
‘誰にだって人に会わなくて済む時間が必要ですよね? 仕事はひとつひとつ違うから、心の準備も要るのに…いつもいつも、寝ても起きても仕事関係者にそばに居られたら、メンタル無理じゃないですか…’
’でさ、聞いて。社長の売りに出してるマンションがまったく売れないらしくて、ひと月ほどユージをそこに住ませてキキョウが通いで面倒見るなら、ユージがオカシクなる前に誘拐すれば、なんて言って笑ってたのよ‘
‘ユージさんには今、何もしなくて誰にも会わない時間が要ります! そのマンションでの極秘日常が必要なんですよね!’
’でも、そんなこと出来るかしらね…‘
‘ユージさんに連絡とらないと’
’うん…、とにかく、明日ね‘
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翌日、社長の声掛けでキキョウはユージ主演の映画のまだキャスティングされていない、主人公に炎魔法を授ける長身でスタイルが良くないと着こなせないような際どい衣装を付けることになる若い魔女の役に決まった。
モデルしかしたことがないキキョウでも化粧品のCM以来知名度が上がっていたので、たった5分のシーンだとはいえ事務所にとって悪い話ではなかった。
ただし撮影は、忙しいユージのスケジュールがガチガチに詰まっているため2ヶ月後くらいというざっくりしたもので、すぐにでもユージと話がしたいキキョウは胸騒ぎがおさまらない。
それから1週間もしてから、ユージの担当マネージャーから事務所に連絡が入った。
こちらからユージ本人に挨拶と少し話をしたいので連絡させて欲しいとミドリが申し出てみたものの、
本人は台詞覚えや振付レッスンなどに集中しているので用事は事務所を通して伝えるので連絡はマネージャーだけです、と断られたことがキキョウにLINEで伝えられた。
返信しようとしていた時、キキョウのスマホに未登録の着信が入った。
いつもは絶対に出ないのだが、キキョウは迷うことなく受話していた。
’はい…‘
‘キキョウちゃん?’




