~モデルも俳優も商品になりきれるかどうか~
’だって、ユージとは…‘
ユージとは急に連絡が取れなくなって長いのに自分のことを忘れずにいてくれたことがわかって胸が熱くなるほど嬉しくて、なんとしても自分も彼に応えなければとキキョウは思った。
事務所のミドリさんにそれとなく聞いてみると、大ブレイクしたユージはガチガチに周りを固められていくので直接本人と連絡することなんて絶対無理で、もはやメアドなども本人しか見ないものは存在していないのではないかと言った。
キキョウが知っているユージは品のある話し方の優しい青年だが、どこかフッと消えてしまう霧のような存在感で、いつだったかキキョウを部屋に入れてくれてモヒートを飲んで酔って笑っていた横顔がずっと忘れられないでいた。
ユージの人気は年代を越えて爆裂し、その人気が集める巨額な金を奪い合うようにドラマも映画も順調に3年先まで契約済みで、上手くはない歌まで配信予定が決定したことで、業界特有の厳しい規律と深い妬みや競争の渦のなかで、
本音も言えずに休みなく仕事をこなさなければならないユージは、実は自宅に戻っても長年世話をしてくれている主人から相変わらず性的拘束まで受けて、心が破綻しかけていた。
自分の頭を使って生きる道が見えず中学中退で人生に迷っていた時にゲイの主人に拾われてペットのように可愛がられ育ったユージは、
夢のような大人気で仕事が増え金も桁違いに与えられるようになっていたが、体調が優れなくても許されず主役の膨大な台詞覚えや立ち回りやダンスの暗記ばかりの毎日が辛くメンタル的にもポジティブキープが不可能に近くなってしまっていたためか、自分は’社会でカモにされて搾取されてこき使われて死んでいく側‘と言われる種類の人間なのだと感じるようになってきていた。
そんなとき、かつてファーストキスだとかなんとか言っていた高校生モデルのキキョウが ’あの人がノブナガ?‘ ‘私とはヤらないはず’ などという意味深な言葉を自分に向かって口にしていたのを思い出し、もう一度会って話をしてみたくなった。
ところが主人から与えられたスマホからはキキョウの連絡先は削除されていたし彼女はいまだ目立つ仕事にもキャスティングされていなかったため半ばあきらめていたところ、
スポンサーから相談された新しいCM出演候補者リストの中にキキョウを見つけられたので、この機会を最大限活用しなければと生まれて初めて自分から意思を示して動いた。
キキョウはメンズラインと一緒に広告撮影をすることになったとミドリさんから聞いたとき、いてもたってもいられずまるで恋をしているかのように胸が高鳴っていた。
キキョウは近頃多少顔が知られ始めてきたので雑誌も本も図書館や書店でゆっくり見られなくなったような気分になっていて、
不思議なスマホの夢のための絵についてはネット通販サイトで購入してから写メるように決めたので部屋には何冊か溜まってきていた。
今夜は久しぶりに、現在の業界の基盤を創っていた昭和時代のモデルや女優がたくさん写っている雑誌の中から適当に誰かを写メって、夢を見ることにした。
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’キキョウ、何を言われても困ったようにはにかんで笑ってなきゃだめよ‘
‘何を言われても…?’
’賢い女なんか皆嫌いなのよ、キキョウはね、頭が弱くて可愛くて脱ぎそうってキャラ立ててるの忘れないでよ‘
‘…’
’ほら、少し片ひもを少しずらして唇は半開きのままで笑ってて‘
‘撮影の間だけでいいわよね?’
’うちに着くまではずっとよ、誰が見てるかわからないでしょ‘
‘…’
’キキョウを売るのに何人の人間が骨身を惜しまず働き続けてると思ってる?‘
’…’
’いつも着てる衣装も靴もアクセサリーもあなたじゃ買えないのばかりでしょ?‘
‘…’
’笑え無いとかは…‘
‘できなきゃ、事務所は解散、何人も職を失うわよ、売れっ子のキキョウさま、冗談いわないでよ’
’…‘
’撮影終わったらそのままドラゴン映像の社長のリムジンで箱根温泉ね、イメージ崩さないようにしてから夜中にでもタクシーで帰ってらっしゃい‘
‘え?’
‘いつも通りにね‘
‘はぁ…’
’さ、また、デカい仕事が待ってるわよ、心してやりなさい!’
想像どおり過ぎてひくなぁ、と思いながらキキョウはもう夢から覚めることに集中した。
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’ユージさん!‘
‘キキョウちゃんキレイになった、とうとう来たね’
’夢みたいです‘
一緒にCM撮影できるおかげでようやく会えたユージは相変わらず品よく優しげだったが、誰がみてもわかるほど痩せていた。




