~アルカディアなんて人それぞれ~
キキョウには友達はいない。
小学生の頃から仲間という群れを強要される学校教育が嫌いなために教師に異端者扱いされて浴びた思いやりの無い言葉や相手によって簡単に変える卑劣な大人の吐くセリフの数々が今も心の底に積もっている。
人は自分の都合と利益のために他人と関わっているだけで、家族でも夫婦はそうだと感じ始めたのは何年も前だ。
キキョウは答えのわからない質問は自分に投げかけないことにしている…、’友達とは自分を理解してくれて心を分かち合える他人のことなのか?‘
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ユージはK-POPが好きなのが一目で良くわかるほど、痩せて背が高くて綺麗な顔立ちに薄くメイクをしている。
ユージとキキョウは夜でマスクに帽子で歩いていてもそこそこ目立って、キキョウ一人の時にはあり得ないような周りの他人たちがソワソワする空気が伝わってきて、それがなんだか心地よかった。
ユージに連れられて入った店は普通のカフェで、昔はイケメンだったのが誰にでも想像できるような容姿のかなり年配のカウンターの中の男がユージに片目で挨拶をしたのを、キキョウは見逃さなかった。
キキョウはいつもの夢の体験からカウンターの年配の男とユージとの関係は衆道なのではと察し、よけいにユージに興味をひかれた。
‘キキョウさん、どこか行きたいとこある?’
’ユージさんの部屋…‘
‘冗談ぽく凄いこと言うね’
’今夜11時には家に着きたいくらいの、ですけど‘
‘僕が結婚していて子どもがいたりしたら、とか、考えなかった?’
’それは無いです‘
‘笑っ’
’ユージさんは私には何もシないから‘
‘じゃ、何で部屋に?’
’キスはしてるから‘
‘あれは撮影のノリだ’
’あれ、私ファーストキスです‘
‘まじで?’
’だから、相談聞いてください…‘
カウンターの中の男が目で笑って、またユージに目配せしたのをキキョウはしっかり見ていた。
ユージの部屋はタワーマンションの15階で、広いリビングはあまり片付いていなかったが女気は無いのが伝わってきた。
‘君はサンペリグリノにライムを絞ってあげよう’
’?‘
‘僕はラムでモヒートだ’
’これ、わりと酸っぱいけど飲めます…‘
‘何か薬いれてたらどーする?’
’ユージさんは、私を眠らせる必要無いですよね?‘
‘何だよそれ’
’さっきのマスターさん、ですか?‘
‘彼は僕のスポンサーでマネージャーで事務所の社長さ’
’ユージさんのノブナガですか?‘
‘僕は13歳からあの人の世話になっててね、彼は元モデルで俳優で今はプロデューサーなんだよ’
’ユージさん、この業界って、大丈夫なんですか?‘
‘僕は他を知らない、かな…’
’女の子と付き合わないんですか?‘
‘自分の夢がない娘にベッタリ寄りかかられるのは御免だよ、面倒くさい子が多くてさ…’
’ユージさんは、鼻の手術はしたんですか?‘
‘本気なら目と鼻と歯を整えるのは基本だろうさ’
’私も鼻を…‘
‘外見だけじゃオーディションとおれないよ、中身も磨かないとさ’
’うちの親は俳優でも有名人でもないんです、私はずっとショッピング雑誌のモデルや映画のエキストラがいいとこです…‘
‘事務所のバックはないの?’
’事務所は小さいところで自分でオーディションに残ってくるようにって…‘
‘事務所はきちんと仕事を取ってくるでしょ?’
’仕事は何かしらあります…けど…‘
‘まずは仕事をこなしてみれば?’
’何歳くらいまで?‘
‘顔が綺麗な男も女もごまんといるんだよ、そしたらあとは? 親のコネがない者は? 努力なんてコネの前には霧のように散るんだよ。胸がワクワクするような仕事をしたいと思ってもキャスティングされないと何も出来ないんだ…’
’ユージさん…?‘
‘酔ってるかも、ラムをたくさん入れ過ぎたたかな…’
’なんとなく、やってるだけなんです、私‘
‘お気楽だね…’
’他に何をしたら良いのかわからないし、やりたいことも何もないし…‘
‘僕だって最初はそうだったかもしれない…、外見が良い方なのは元々自覚してたけどね’
’私は女優には背が高いし、モデルには低いし…ユージさんは185cmもありますよね…‘
’なら、君は、雑誌のモデルの道を極めなよ’
’…‘
‘僕は来月から撮影に入る映画が決まっててね、主役に絡める初めての役でさ、やれるだけのことをしてみるよ’
’うん…‘
‘自分だけの山を登ろうよ’
キスをすることもなくユージのマンションを出てキキョウが家に着いたのは予定より早めで夜の10時過ぎだったが、シャワーに入るのがギリギリの睡魔となんとか闘って自分のベッドに入った。
~ちなみにユージはこの映画での存在感ある美しく品の良い演技が大好評となり、映画だけでなくドラマや舞台の有名作に次々と出演するようになり、日本を代表する若手俳優となっていくことになる…~




