44話 第1席の実力
この小休止が終わったら2回戦。
観客席から演武台を見ていると、ノイアーが土魔法を使って1回戦で破損した演武台を修理して回っている。
御者といい修理係といい、まるで教師というより便利屋だな。
なまじっか器用な為、苦労をしょい込む性分なんだろう。
先ほどザインが砕いた床も魔法で均され、綺麗になっている。2回戦は問題なく行えそうだ。
その間に俺は今日の個人戦で相棒となる刀を腰から外して確かめていた。
刻印を施すのが思ったよりも難しく、師匠の指導の下で何本もの模擬刀を潰して、ようやく仕上げた一振りだ。
耐久強化と自己修復、2つの刻印を柄と鍔にそれぞれ彫り込んである。
師匠からはこの程度であれば及第点だと言われたが、自分の中では今作れる最高の出来だ。
ガヤガヤと観客席に人が戻ってきた。
どうやらそろそろ2回戦の開始時間のようだ。
演武台に漆黒の髪の少女と、濡羽色の髪の少年が向かい合う。
1回戦でガロスを難なく倒したウトと、メーティス寮の第1席。
「ウト、勝てそうかなぁ?ドラゴとの模擬戦もだけど、アリスタって相当やばいだろ?」
隣にすわるフェンがつぶやく。
「確かにね。同じ年でリオレスが魔法の使い手として1番だと思っていたけど、この3か月でアリスタの実力は散々見せつけられたからね」
「ドラゴもいるし僕が1番だとは思っていなかったけど、アリスタの魔法戦闘のセンスはちょっと凄いよね。まぁこのまま2番手に甘んじるつもりもないけど」
リオレスも顔に似合わずかなりの負けず嫌いだな。
「俺って魔法はそうでもないぞ」
「たしかに、ドラゴって武器の扱いや体術がすごいってイメージだな」
フェンの言う通り俺の戦闘スタイルは物理寄りだ。
「たしかに、そうなんだけど、身体強化のレベルを見たらそうは思わないけどね。たぶん、ちゃんと元素魔法を学んだらすぐに抜かれそうだよ」
「たしかに!それは私も同感!」
そんな話をしていると、演武台にはアイザック。1回戦から引き続き審判のようだ。
「これより、2回戦を開始する。第1試合、アリスタ・リ・エ・クレアード対ウト・アーマテス。双方構え」
アイザックの声で、演武台に立つ2人が構えをとる。
「始めっ!」
開始と同時に、ウトは2振りの短刀をそれぞれの手に持ち、アリスタへ向かって走りだした。相手は魔法使い、距離をとっての戦闘は不利だ。
「無駄よ」
アリスタが指を鳴らすと地面から彼女を囲む防壁のように炎が噴き出す。
「黒い焔じゃないな。普通の火魔法か?」
「うわ、えげつねぇ」
フェンが呻く。
速いだけじゃない。
おそらく初級の『火円壁』ではなく、中級の『炎城壁』を無詠唱発動だ。
「ちっ!」
ウトは即座に切り替えて、バックステップ。そして、下がりながら魔力を込めて短刀を投擲する。
「だから、無駄だといっているでしょ?」
アリスタが生み出した炎の壁の勢いが強まり、炎の色が赤から青白く変わりウトの投擲した短刀を蒸発させる。
「さぁ、終わりよ」
アリスタの声と共に、青白い炎が演武台に一面に噴き出す。
アリスタ、ウト、そしてアイザックが立つ場所以外のすべてが炎で覆いつくされている。
「圧倒的だな」
まさに魔力量の暴力。
フェンは言葉を失い、リオレスとミレイは見慣れたものを見るように落ち着いている。
「降参だ」
成す術がなくなったウトが悔しそうに両手を挙げて降参を宣言した。
「――そこまで! 勝者、アリスタ・リ・エ・クレアード!」
歓声の中、アリスタは髪を払って背を向けると炎はきれいさっぱりと消え去った。
地面に焦げ跡すらない完璧な魔法制御だ。
「圧勝じゃんか……」
「黒焔は流石に使用禁止だろうが、たぶん上級魔法すら使ってないぞ」
「まあ、多分中級魔法の『炎城壁』の応用だよね。見たことないレベルだけど、あはは」
フェンはアリスタの強さにだいぶショックを受けたようだな。
リオレスからは乾いた笑いしか出てこないところを見ると、まぁ、通常運転といったところなんだろう。
「1回戦を見る限り、ウトくんも私たちと同い年の中ではかなり強いほうなんだろうけどね」
「今回は相手が悪かったな。相性も最悪に近いし」
「ドラゴ、次の次だろ?試合。そろそろ下に降りたほうがいいんじゃないか?」
フェンがショックから回復して俺に声をかける。
たしかにそろそろ降りたほうがいいか。
「分かった、じゃあ行ってくる」
----リオレス視点----
さて、ドラゴの試合の前にこのカードか。
演武台には獣人族の少女とエルフ族の少年。
シャーリーは入学前に最初に会った時はただの騒がしい女の子だと思っていたけど、その認識は入学後1月ほどで改めた。
ドラゴやアリスタほどではないが、1年生では5本の指に入るであろう実力を持つ。
まあ、一種の天才だね。
僕やリオンのように魔法を巧みに操って戦うタイプは相性が絶望的に悪いのを知っている。
逆にアリスタのようにゴリ押しのほうが戦えるはずだ。
リオンは僕と違って純血のエルフで魔法にも長けているが、客観的に見て僕より1段落ちるという評価。
苦戦は必至。
「第2試合。シャーリー・ロマ・グレゴール対リオン・ヴァスクロフト。双方構え」
演武台に上がったシャーリーは、赤い髪を一つに束ね、頭部から生える耳をピコピコと動かしている。対するリオンは、1回戦と同様に静かに立っている。
「始めっ!」
アイザックの手が振り下ろされる。
まず初めに動いたのはリオン。
「風刃」
リオンが短縮詠唱で魔法を発動し、シャーリーをけん制しようとする。
「さっきより速いぞ!」
フェンがリオンの魔法発動速度に驚いているが、それじゃだめなんだ。
GAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
咆哮が空気を劈き、音が壁となって空気を、風を押しのける。
観客席まで振動が届いて、隣でフェンが耳を伏せている。
「うおっ、なんだ今の!?」
「獅轟」
フェンの問いに答えたのはミレイだ。こちらも耳を痛そうに押さえたまま演武台のシャーリーを見つめている。
「魔力を乗せた咆哮で、相手の攻撃や魔法を無力化する。獣人族の中でも使えるのは獅子人族のごく一部なんだって……」
「あれが、獅子人族の『獅轟』か」
フェンは獣人だから聞いたことはあるみたいだ。ミレイの説明を聞いて感心している様子。
だが、魔法の無力化。これが僕たち魔法使いにとって厄介どころの話じゃない。
リオンは顔色を変えずに、すぐに二撃目を組み立てている。今度はかき消されないように速さより威力重視で魔力を練り上げていく。
対抗策として方向性は間違っていない。ただし、シャーリーが待ってくれやしない。
遠目から分かるほどに、両足に短い金の毛並みと筋肉で膨らんだふくらはぎと大腿部。
「部分獣化だ!」
今度はフェンが尻尾を跳ねさせながら、身を乗り出して叫んだ。
「俺と同い年で部分獣化まで出来んのかっ!?まじで天才か?」
次の瞬間、シャーリーの姿が消えた。
さっきまでシャーリーが立っていた演武台の床が爆ぜ、赤い影が一直線にリオンへ迫る。
今まさに魔力練り上げ、詠唱に入ろうとしたリオンは間に合わない。完全に距離を潰された。
「――勝負ありよ」
シャーリーの伸ばした腕が、リオンの喉元へ鋭い爪を突き付ける。
「……降参だ」
「勝者、シャーリー・ロマ・グレゴール!」
客席でシャーリーを応援していたアーレウス寮の観客たちが沸く。
アーレウス寮のほかの個人戦メンバーは2人とも1回戦負けだったので、なおさら盛り上がっているみたいだ。
そんな中、シャーリーは歓声に応えつつ、息を切らしながら獣化した足を元に戻していく。
額には少し汗が滲み、肩で息をしている感じだ。
どうやら獣化はそれなりに体力の消耗が激しいみたいだ。
でも、咆哮で魔法を無力化、獣化で身体能力を上げて一気に距離を詰める戦法。
魔法使いの僕から言わせてもらえば、これ以上ない天敵となりうる。リオンのフォローをするわけじゃないけど、単純に相性が悪すぎた。
「いよいよドラゴだね」
「いや~楽しみだな!勝つとは思うけどさ、ドキドキするよな?なっ?」
「ま、メルルもなかなかの曲者だけど、さすがにドラゴ相手じゃ分が悪いと思うね」
さぁて、十中八九、ドラゴが勝つであろう。
ドラゴは僕たちにどんな勝ち方を見せてくれるだろうか、もしくは、普段はものぐさなメルルがあっと驚く展開で楽しませてくれるだろうか?
僕たちは演武台に向かっていくドラゴとメルルを眺めていた。
----メルル視点----
はぁ。1回戦は何とか勝てたけどぉ、2回戦はどぉしよ~。
ドラゴ・グリント。
あのアリスタを模擬戦で圧倒していた実力の持ち主。
ぼっちなあたしでも噂が耳に入ってくる『怪物新入生』。
上級生の中でも「勝てない」「あいつは無理っ!」って嘆いてる人たちがいるとか、いないとか。
はぁ、本当は寮対抗戦、ましてや個人戦なんか出たくなかったのに~。
みんなの前で発表されたら断りづらいってぇ。
「勝者、シャーリー・ロマ・グレゴール!」
アイザック先生の声と客席の歓声が聞こえてきた。
もう終わったみたいね。行かなきゃ。
1回戦のフィリアちゃんもかなり強敵で冷や冷やもんの勝利だったけど。
でもぉ、もしかしたら、今回もあたしの感知能力『拡散する烟域』がうまく決まればいけるかも~。
演武台へと歩きながらそんなことを考えていたら、前からドラゴくんが歩いてくるのが見えた。
「ドラゴ・グリント! 負けたら承知しないんだからねっ!」
観客席へ戻る途中のシャーリーちゃんが声をかけている。
「善処する」
そう返しながら演武台へ上がるドラゴくんはとても余裕そうに見えるけど、静かにあたしを観察しているのが伝わってくる。
あたしに対して何をそんなに警戒することがあるんだろ~。ん~分からないなぁ。
演武台の上に立ちドラゴくんと向かい合う。
こんなに近くで合うのは初めてかも~。よく見たら結構かっこいいかも。
「第3試合。ドラゴ・グリント対メルル・オクトゥス。双方構え」
「よろしくねぇ~」
対戦相手だけど別に敵ってわけじゃないし、開幕式の時みたいに小さく手も振ってみた。
ふふっ。
「ああ、よろしく」
一瞬間の抜けた表情をして、挨拶を返してくれた。
あれ?意外と怖くないかも。
刀を抜いて構えをとるドラゴくんに合わせてあたしも魔力を練り上げて『拡散する烟域』の発動準備をする。
「始めっ!」
『拡散する烟域』展開っ!!
ぶわっ!
細胞が煙が広がるように粒子に変換されてあたしの周囲を取り囲む。
目に見えないほど小さく拡散したそれらは、あたしの体の一部。
ゾワッ!!!!
なっ、なにこれっ?!!!
こんな、こんなことって??!!!!
展開した『拡散する烟域』がドラゴくんの魔力の波動を捉えて一斉に震えだす。
ガクガクガクッ
こんな魔力……
あれっ?!消えっ
「こ、降参!!!!!!」
ビタッ!!!!!
「あ、あぶなかったぁ~」
首元に突き付けられた刀は、刃を潰されているにも関わらずあたしに恐怖を刻み込むには十分すぎた。
「勝者、ドラゴ・グリント!」
「随分早い降参だな?」
あたしの首に突き付けた刀を下ろしながらドラゴくんが聞いてくる。
「ははは、ちょっと動きが目で追えないし、来る方向が分かってもあたしじゃ避けるのも防ぐのも無理だったぁ。ドラゴくん、ほんとに人間?」
あの濃い魔力、そして身体強化だとしてもあのレベルの動きを実現する身体能力。
「あたしの知ってる人族と違いすぎるよぉ」
「そうはいっても、人族のはずだぞ?だよな?」
「あたしに聞かないでよぉ、聞いてるのはこっちなんだから」
「それもそうだな」
「ちょっと怖かったけど、ありがとうございました。優勝してねぇ」
「あ、あぁ、ありがとう。でもいいのか?同じ寮のアリスタの方を応援しなくて」
「あ、そっか。そう言われるとそうかも。でも、優勝者に負けたなら箔がつくかもぉ、なんて」
ゴホンッ
「2人とも、決着がついたのだから早く演武台から降りなさい」
あ。
「はぁい」「はい」
演武台を降りて振り返るとドラゴくんは振り返らずに歩いてく。
どんな風に生きてきたら、あたしと同じ年であそこまで強くなれるんだろ?
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