41話 組み合わせ
「個人戦のトーナメント表、貼り出されたってよ!」
寮の共用部に駆け込んできたフェンが、開口一番そう叫んだ。
「おっ、本当か?」
大講堂での開会宣言から1週間、個人戦は約3週間後だ。
一応、対戦相手を確認しておくか。
「ほら、ドラゴ!お前、出場選手なんだから見に行くぞ!」
「分かってるよ。行くって!フェン、お前が早く見たいだけだろ?」
「当たり前だろ!早くいこーぜ!」
フェンに急かされるまま、寮の共有スペースの掲示板へ向かった。
共有スペースに着くと、掲示板の前には既に人だかりができている。
トーナメント表が描かれた真新しい用紙が貼られている。俺は人の隙間から覗き込みかろうじて確認ができた。
学年ごとに代表選手9名。
トーナメントは少し複雑だな。
まず、第1席の3名は初戦はシード扱いとなっており、もちろん俺もその1人。
自分の名前は、一番右――第1席の欄に記載されていた。俺と同じブロックにシャーリー、別のブロックにアリスタの名前がある。
1回戦の組み合わせに目を移す。
ウト・アーマテス(プロメーテ) 対 ガロス・ドゥベイン(アーレウス)
ザイン・ペブロック(プロメーテ) 対 リオン・ヴァスクロフト(メーティス)
メルル・オクトゥス(メーティス) 対 フィリア・ランス(アーレウス)
1回戦の勝者三人が、それぞれ第1席と当たることになるが、ウトが勝てばアリスタとの対戦、ザインが勝てばシャーリーか。俺の最初の対戦相手はメルルとフィリアの勝った方だな。
一応、同じ寮の同士が序盤で戦う展開はないように配慮されているようだ。
準決勝は、順当にいけば俺はシャーリーと、アリスタは敗者復活枠との対戦となるようだ。
敗者復活枠に詳細が書いていないのは当日に説明があるからだろうか?
だがまあ、おそらく勝ち上がれば決勝戦でアリスタと当たることになるだろうな。
このトーナメント表の作りだとシャーリーとアリスタが同じ山に入らない限り、この2人を相手にすることになるのは避けられないだろう。正直、女の子を負かすのはあまり気乗りするものじゃないんだよな。
「あっ、ドラゴっち! やっぱ来てたっすね!」
人だかりの向こうから弾んだ声が飛んできて、丸眼鏡を光らせたザイン・ペブロックが人の間を縫って近づいてきた。開会宣言の日に第3席で呼ばれた、同じプロメーテ一年の男子生徒。
「トーナメント見たっすか? 俺、1回戦っすよ。勝ち上がったら準決勝でドラゴっちと当たるかもしれないんすよね! いやー、あがるなー!」
「おお、よろしくな。でも、その前にアーレウスの第1席が相手だぞ、勝算はあるのか?この前言ってた発明品、秘密兵器だっけ?それでどのくらい戦えそうなんだ?」
聞いた瞬間、ザインの目の奥に火が点いた。
「よくぞ聞いてくれたっす! いいっすか、俺の秘密兵器『機械仕掛けの豪腕』ってのは、背中に背負ったバックパックから機械の腕が四本ニョキッと生えてる代物でしてね。魔力バッテリーに溜めた魔力を機械動力に変換して、その四本を自在に動かすんすよ。掴む、殴る、武器を持つ、なんでもござれっす。ただ、四本も生やすと重量がとんでもないんで、脚には重さを支える刻印入りの装具を履いて踏ん張るんす。この脚装具がないと背負った瞬間に後ろへひっくり返るんで、地味っすけど超重要パーツなんすよ。俺、魔法の才能は正直からっきしなんすけど、魔法力と魔力量は多いんでちょっと強めの魔道具を使ってなんとか張り合えるかな~と」
すげーよくしゃべるな、矢継ぎ早に話が出てくる出てくる。
「おっと、俺としたことが、つい熱くなっちまった。……ま、細かいとこは本番で見てのお楽しみってことで! 残りの準備期間で、勝ち上がってドラゴっちと当たっても勝てるように、もう一段バージョンアップさせなきゃっすからね!」
言うだけ言って、ザインは満足げに人だかりの中へ戻っていった。……変わってるな、あいつも。
――背中から機械の腕が四本、か。ベタだがうまく使えば強力な装備になりそうだな。
前世で観た映画にも背中から四本腕を生やした博士が出てきたな。あっちは悪役だったが。
とりあえず、本番で何を見せてくれるのか楽しみができたな。
「ザインってなかなか面白いよなっ!いっつもあの調子なんだけど、俺には何言っているかさっぱりだ」
フェンが苦笑いしながら尻尾を揺らす。
「そういやさ、うちの上級生の代表も結構すごい人がいるらしいぜ。五年のデメティル先輩ってのが個人戦に出るんだけど優勝候補だってさ!」
「へ~うちの寮にもいたのか、そんな人」
「なんか研究肌な人らしいけど実線も相当強いんだってさ。なんでも『思考の沼』って呼ばれているらしいけど」
なるほど、こっちもなかなか癖が強そうだな。名前だけは覚えておくことにするか。
--------
その日の放課後、俺はいつも通り工房での作業を終え師匠に相談を持ち掛けた。
「師匠。対抗戦のことで、相談があるんですけど」
「あん?」
「俺の刀、『閃』なんですけど。あれは流石に今回の個人戦じゃ使えないんですよ。だから、対抗戦用に別の武器を用意しないといけなくて」
「ああ、そういやそうか。真剣持ち込んで相手を真っ二つじゃ、模擬戦にならねぇもんな」
「あはは、そうなんですよね」
師匠は鏨を置いて、こちらに向き直った。
「で、なんであたしに相談なんだ?模擬専用の武器ならいくらでも貸出してるだろ?」
「確かにそうなんですが、まず、これを見てもらえますか」
俺は軽く身体強化を発動してみせた。もちろん全開ではなく、30パーセントくらいだ。それでも、工房の床がわずかに軋む。
師匠の眉が、ぴくりと動いた。
「……ほう。その細っこいなりで、その力か。おいおい、そのレベルの身体強化があれば、1年の優勝はドラゴ、お前さんに決定だな。ディミトリス相手に賭けでも、いや、デールマンにバレたらまずいか?」
な、なんか、後半に不穏なつぶやきが聞こえたがとりあえず無視して話を進めよう。
「勝負は水物だって、爺ちゃんもよく言ってましたよ。入学してすぐの授業でアリスタの魔法を見ましたけど油断できませんね。シャーリーも結構強いって話ですし、他のメンバーもそれぞれ手強そうです」
「はっ、慢心はなしか。いい心がけだ」
師匠は満更でもなさそうに鼻を鳴らした。
「で、問題はこれなんです。これ借りますね。」
俺は手近にあった棒状の鉄塊を身体強化を解除せずに勢いよく横に振った。
バキンッ!!
「この通り、この身体強化に耐えられる武器が貸し出される中にはないんですよ。並の刀じゃ、俺が3割の力で振った時点でへし折れる。かといって、対抗戦までに一から刀を鍛える時間もない。だから――刻印で、武器の耐久を底上げできないかと思って」
「なるほどな」
師匠は顎をさすった。
「いいだろう、耐久強化の刻印なら教えてやる。物体の耐久値を底上げする、刻印としちゃ基本の部類だ。貸し出される模擬刀でも刻印を彫り込めば、お前の身体強化7割ぐらいまでなら十分耐えるはずだ。7割あったら優勝できるだろ?」
「7割か、まぁ何とかします。今より条件はいいですからね」
そこで師匠は、少し呆れたように笑った。
「頑丈にするだけなら、シンプルな刻印一つで足りるぞ。何をそんな深刻な顔してんだ」
「……いや、どうせ刻印を彫るなら、耐久の強化以外に何か付けられないかと思って」
「ん?なんだ、炎を纏う刀でも欲しいのか?」
「いや、そういう訳じゃないですけど、せっかくプロメーテ寮の代表として出るんです。ザインみたいな派手な発明品とかプロメーテらしい戦いをしてみたいなと。ただ頑丈な刀を振り回すだけじゃ、ちょっと格好がつかないなんて考えてしまって」
我ながら子供っぽい理由だと思う。だが師匠は、意外にも嫌な顔をしなかった。
「ふぅん。……なるほどねぇ。まっ、悪くねぇ動機だな。職人ってのは、案外そういう見栄っぱりなとこも必要かもしれねぇな」
しばらく黙って何かを考えていた師匠は、やがてニヤリと笑った。
「なら、自己修復ってのはどうだ」
「自己修復?」
「刻印で武器に自身の形状を記憶させるんだ。んで、罅が入ろうが刃こぼれしようが、その覚えた形に勝手に戻ろうとする。壊れても直る刀、ってわけだ」
「……それってどういう理屈ですか?」
思わず前のめりになった。壊れても直る武器なんてあったら鍛冶屋の商売あがったりでは?
「理屈はこうだ。刻印にする魔法は次元魔法の一種、時の魔法だ。こいつの刻印は簡単な魔法でもかなり複雑になる。なんせ次元魔法は、火だの水だのの元素魔法とは格が違う」
次元魔法。
「時、ですか?」
「物体を時間ごと巻き戻して元の状態にする。そういう理屈だ。もっとも、あたしが知っている刻印でできることは、せいぜい"それほど大きくない単純な物体"の時を戻す程度のことだ。生物は無理だし、いくら元が単純だといっても粉々になるくらい複雑にぶっ壊れたら難しい。せいぜい真っ二つに折れたものを戻すくらいが関の山だ」
師匠はそこで、一本指を立てた。
「それと、もう一つ肝心なことがある。時を戻すってのは相応の代償がいる。刻印魔法が発動するために、お前の魔力をバカほど食う。派手に壊されて何度も直してりゃ、そのうち魔力が空になるぞ。無限に直る便利な刀なんて、そんな都合のいいもんじゃねぇってことは、頭に叩き込んどけ」
――なるほど。面白い。うまく使えばピンポイントで身体強化の出力を上げて破損しても元に戻せそうだ。
「いいですね、やりましょう。それで、お願いします」
「よし。なら、まずは刀を選べ。その辺に転がっている中からよさそうなものを見繕いな。そうしたら、刻印を刻むわけだが、刀身に刻むよりは柄や鍔の部分に刻むのがいいかもしれないな。刀身が破損すれば刻印も同時にダメになる」
「わかりました」
「自己修復の刻印は、彫るお前の腕も試される。半端な精度で彫ったら、耐久強化の刻印にも影響するぞ。……ま、いい練習台だ。せいぜい何本か潰す覚悟でやりな」
相変わらず、容赦がない。まぁそれ以上に弟子に甘いけどな。
さて、じゃあ今回は何度も俺を助けてくれた『閃』には申し訳ないが、自分の手で刻印した刀で戦うとしますか。
--------
そうして準備期間は、瞬く間に過ぎていった。
刻印を彫っては潰し、また彫っては潰しを繰り返し、ようやく一本の刀を仕上げたのは、個人戦のほんの数日前のことだった。
そして、源ノ月5日。
腰に提げた、まだ手に馴染みきらない刀の重みを、そっと確かめる。
「よし、行くか」
いよいよ寮対抗戦だ。
読んでくださってありがとうございます。
評価や感想をいただけると励みになりますので、
よろしければお願いいたします。




