40話 開会宣言
入学から2か月ほど経った。
師匠の工房へ通うのが放課後の日課となり、部材の仕分けや刻印の作業もだいぶ板についてきたかな。自分で言うのもなんだが。
そんな折、寮の掲示板に『寮対抗戦・源ノ月個人戦』の文字が躍った。
「なあ、そろそろ発表来るんじゃないか、対抗戦の代表の」
寮の食堂で夕食を食べていると、フェンが尻尾を落ち着きなく揺らしながら言った。
「気になるのか」
「そりゃそうだろ。まぁ、ドラゴは決定としてほかのメンツだよな」
「やっぱりでなきゃダメか」
「当たり前だろ!俺たちの寮の1年の首席だぞ、ドラゴが出なくて誰が出るんだよっ」
――はぁ、おそらく出てくるであろう他の寮の代表者を思い浮かべるだけで頭が痛いぜ。
まあ、自分の努力でどうにかならないことを考えるのはやめて、俺は目の前の皿に集中することにした。
食後に共用部にある掲示板を見に行くと、既に人だかりが出来ている。
壁に貼られた真新しい紙の前で、上級生も下級生も入り混じって顔を寄せ合っていた。
「――お、噂をすればだ」
フェンが声を弾ませる。
「なになに?おっ、明日が対抗戦の代表発表だってさ。場所は入学式をやった大講堂だと」
「結構大々的にやるんだな」
「そりゃそうだろ。年間を通してやるイベントだぜ」
「そう言われると、そうなのか?」
「楽しみだな~」
尻尾を振ってそんなに楽しみなのか?
まぁ、この世界だと娯楽が現代日本より少ないから仕様がないのか。
1人また1人と掲示されたお知らせを読み終えた生徒たちが、共用部から自室へと帰っていく。
俺とフェンもそれぞれの部屋へと戻っていった。
翌日の放課後。
ガヤガヤと喧騒に包まれる大講堂。
やはり生徒が一堂に会すると圧巻の眺めだな。
「みな揃ったみたいじゃな。まずは、初めての寮対抗戦となるであろう新入生諸君の為に仕組みから説明しよう。上級生の皆は承知しているであろうが、しばし耳を貸してもらおうか」
トトが軽く手を上げると、講堂の喧騒がすっと静まった。
「競技は3つ。例年通り個人戦、団体戦、選抜戦の3種目で競い合ってもらう」
前置きはそれだけで、あとは各競技の骨格だけをざっくりと語っていく。
個人戦は、学年ごとに各寮3名――第1席から第3席までの代表による9名トーナメントらしい。これが七学年分、同時並行で行われるという。
第1席はシードで2回戦から、残る6名は1回戦を勝ち上がって合流する。1回戦で敗れても、たった一枠だけ敗者復活の目が残されているという。
――なるほど、いきなり格上とぶつからない配慮ってわけか。前世でよく見たトーナメント運営そのもので、変なところに感心してしまう。
団体戦は各学年一名ずつ、計7名の寮対抗だが、個人戦と団体戦にどちらも出るという配役はできないようだ。
そして選抜戦は、学年不問で各寮3名――先鋒、副将、大将による総当たり。
「詳しい規定は追って掲示する。競技の概要は以上じゃ。――では、各寮の代表者を発表しよう」
壇上のトト・カーン・ハーラの言葉を受け、7年生から順に寮代表の生徒が呼ばれていく。
メーティス寮の1年代表、個人戦にはやはりアリスタが第1席で呼ばれ、リオレスは団体戦の代表として名前を呼ばれていた。
また、アーレウス寮からはシャーリーが個人戦の代表、こちらも第1席。
壇上にいるノイアーがプロメーテ寮の代表を発表していく。
「最後に一年、個人戦の代表者を発表する。第1席ドラゴ・グリント。第2席アーマテス・ウト。第3席ザイン・ペブロック。以上、代表戦3名、団体戦7名、個人戦21名、計31名」
全ての代表発表が終わると、学院長トト・カーン・ハーラの声がある種のプレッシャーを伴い響き渡る。
「来る源ノ月の5日に個人戦が執り行われる運びとなっておる。出場する代表者の皆には今から約1月ほどの準備期間があると言う訳じゃ」
「さて、諸君。今、諸君が持てる力を余すところなく我々に示して欲しい。諸君らがこの学院でなにを学び、どう成長したのか、また、この対抗戦がさらなる飛躍へと繋がることを期待しておる」
「今、ここに、第267回学院三寮対抗戦の開会を宣言するっ!!」
大講堂に生徒たちの熱気と歓声が爆発した。
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大講堂を出て廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。
「ドラゴ・グリント!」
振り向くと、シャーリーが真っ直ぐこちらへ歩いてきて、周りの生徒が自然と道を空けるくらいの迫力だった。
「今度こそ、勝負よ!私にあたるまで負けるんじゃないわよ、いいわねっ!」
「努力するさ」
「なら結構。――楽しみにしてるわっ」
そう言い残して踵を返したシャーリーの、歩き去る背中からも上機嫌なのが伝わってくる。
「あなた」
今度は反対側から声がかかったかと思うと、腕を組んだアリスタが俺を見上げてくる。
「個人戦で決着をつけるって話、忘れていないでしょうね」
「生憎まだ記憶力に問題がないもんで、非常に不本意ながら忘れてないさ」
「なんか厭味ったらしいわね!まあいいわ!私が負かすまで勝ち上がって来なさいっ!」
アリスタは俺の返事を待たずに去っていった。
「いやぁ、大変だね。ドラゴも」
横から苦笑い気味に話しかけてきたのはリオレスだった。
「見ての通り」
「じゃじゃ馬2人に絡まれて、僕なら逃げ出してるところだなぁ。アリスタと当たったら勝てる気がしないし、シャーリーも結構強いみたいだしね」
「だよなぁ」
2人とも第1席に相応しい実力なのは、入学後の授業や実習などでの活躍や聞こえてくる話などだけでも容易に想像できる。
「ま、僕が一番ほっとしているのは、ドラゴと対戦せずに済んだことかな」
「なんでだよ」
「今の僕じゃ、万にひとつも勝ち目がないからさ」
――学院で毎年の行事ってことはあと6回もあるのか。今から憂鬱だぞ。
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「――で、ウト。お前まで代表とはな」
寮に帰ると、ロビーにいたウトに俺は声をかけた。
入学してすぐはほとんど会話らしい会話をすることはなかったが、監督生同士で話をする機会も徐々に増えてきた。
「ああ。君と同じ個人戦、ドラゴ、当たっても手加減はせんぞ」
「望むところだ」
「ドラゴっち!」
勢いよく割り込んできたのは、さっき第3席に呼ばれていたザイン・ペブロックだった。丸眼鏡の奥の目が、やけにきらきらしている。
「よろしくっす!同じ個人戦代表で、めちゃめちゃあがるんですけど!」
「あ、ああ。よろしく」
「俺たちプロメーテはアーレウスの『脳筋』たちやメーティスの『魔法バカ』と違って、自分で開発した発明品の使用が許可されているからね!俺が新開発した秘密兵器のお披露目にちょうどいいぜ~。まだ誰にも本気で見せたことなくて……やっべぇ、緊張してきた!」
「お、おう」
勢いに押されて、頷くしかなかった。
「よう!個人戦の代表がおそろいで!対戦相手ってもう教えてもらえたんか?」
転移室から出てきたフェンが聞いてくる。
「知らん。組み合わせは追って発表するって、さっき言ってただろ」
「気になるじゃんか」
「まあ、な」
さて、油断して足元掬われないように準備はしておくかな。
爺ちゃんやオズバ師匠に鍛えられたんだ、同い年に負けたって知られたら何をされるか分からんからな。
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