惑わしの森10
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「おぉ……」
俺達のところに現れたのは、俺よりも多少若く見える、無精ひげを生やした男だった。
体格も良いし、弱ってるような様子はまったく感じられない。
背中には木の実などが入った大きな籠を背負っていた。
「こいつは驚いた。
こんなところで、人に出会えるなんてな。」
「それはこっちの台詞だ。」
「あ…俺は、アランってもんだ。」
「俺……じゃない。
わ、私はステ…ステファニー…
そして、この人はユリウス…よ。」
ユリウスは、黙ったまま、なにも言わずに突っ立っていた。
「ステファニー……」
アランは俺の名を口にしながら、俺の顔をまじまじとみつめる。
どうしたんだ?
何か俺、おかしなところでもあるのか??
「あんた、別嬪だな!」
「えっ!そ、そう…?」
アランは、微笑みながら大きく頷く。
「それで…この人はあんたのいい人なのか?」
アランはユリウスのことをあごで示した。
「ま、まさか!」
「でも、あんたら一緒に旅をしてるんだろ?」
気色の悪い…
なんでこんな偏屈でわからず屋なエルフが俺のいい人なんだ…!
「あのね…この人、女には全然興味がないから…」
俺はアランの耳元にそう囁いた。
「えっっ!そ、そうなのか?」
アランはユリウスを見て、ぎょっとしたような顔をしていた。
「なんだ?何の話だ?」
ユリウスが怪訝な顔で口を開いた。
「な、なんでもないって。
そりゃあ、そうと、アラン…あんた、なんでこんなとこにいるの?
やっぱり、迷ったの?」
俺がそう訊ねると、アランは照れくさそうに笑った。
「まぁな。」
「そうか、実は俺…じゃない、私達もそうなのよ。
ランプの油もなくなって、水もあとほんの少ししかなくて、困ってたところ…なのよ。」
「だろうな、この森には水場がひとつしかないからな。」
「えっ!もしかして、あんた、その水場を知ってるの?」
「あぁ、もちろん…!」
助かった!
どうだ、やっぱり声をかけて正解だっただろう!
ユリウスにそう言ってやりたいところだ。
アランは福の神だったんだから。
「近くに俺のねぐらがある。
そこでゆっくり話そう。」
その言葉に反対する道理はない。
俺達は、アランに着いていくことにした。




